第百二話 聖女とのその陰で蠢く者
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現在主に更新している「隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-」という作品が日刊ローファンタジーランキングで22位にランクインしました。
しばらくはそちらを毎日更新していくつもりです。
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聖女の本当の目的は俺でありエストは巻き込まれただけ。
その言葉が本当だとするならば狙われる理由など一つしか思い当たらない。
(十中八九『行先案内人』関連だろうな)
俺をこの異世界に連れてきたあの老人。あの謎の人物?の正体も目的も依然杳として知れない。だがその存在が何か大きな秘密を抱えていることだけは俺にも分かる。
そしてそれをこの世界の人間も見逃せないだろう。
「確かに聖人派にも『行先案内人』なる存在の伝承については伝わっています。そしてその存在が時に災いを、あるいは時に祝福を齎す何者かを降臨させるということも。ですが聖女様はそれを知っていた上で『行先案内人』について捜索することより優先していることがありました」
その理由はなんと『行先案内人』よりもそいつらによって降臨させられた人の保護の方が大切だからだと言うのだからとんだお人好しもいたものだ。
過去に災いをもたらした人物はこの世界や人々に対して嘆きと恨みを吐きながら死んでいったらしい。
それを知っていた聖女は『行先案内人』によって送り込まれた存在がそんな悲しい末路を向かえないようにすることの方がずっと大切であると俺の存在を知った当初は静観する構えだったそうだ。
だがそれなのにここ最近になってその態度が急変した。
しかもこれまでは絶対にしてはならないという乱暴な手段も問わないとあり得ない変節ぶりを発揮して。
「聖女様が本心からあのようなことを言うとは思えない。だが命令は絶対です」
だから疑念は持っていても逆らえずにエストを攫ったという訳か。
「つまりその聖女の背後に糸を引く何者かがいる可能性が高いんだな?」
「恐らくは。だが私達が密かにその存在を見つけ出そうと探っても影も形も見つけられなかった」
それならお人好しの聖女様とやらが変節したのは誰のせいでもない可能性も完全には捨てきれない。
(どちらにしても聖人派とやらが俺達と敵対しているのは変わらないか。だとしたらどう動けばいい?)
考えても情報が足りていないから答えは中々でない。そう悩んでいたのだが、
「そうか、分かった。感謝する」
少し離れたところにいたトールがそんなことを言い出した。
何か分かったのだろうか。
「ああ、分かったぞ。聖女の背後にはお前と同じように『行先案内人』によってこの世界に送り込まれた何者かが暗躍しているそうだ」
「……はい?」
「【腹黒女】が活動休止中だから詳細な情報は教えてもらえなかったが代理の【愚者】がそう言ってきたからな。間違いない」
それを調べるために必死になっていたロットたちの立場がない発言をトールは平然と告げてきた。
案の定、それを聞いたロットは驚きで目を見開いて動きが止まっている。
【愚者】という二つ名持ちの未知の世界のメンバー。その天職は皮肉なことにと言うべきか稀少職の『賢者』らしい。そいつがこの一瞬でそこまでの情報を掴んできたというのだから凄いを通り越して意味が分からない。
ちなみにこのクランの構成員は脱退した一人と現団員の八名とのこと。
これまでに【医狂い】【雨神】【至高の頭脳】【腹黒女】【歌姫】【掃除屋】には会ったことがある。そして面識はないがトールを寄こしたリーダーに、まだ何も分からない一人で現在の構成員は揃うことになる訳だ。
「その【愚者】さんはなんて言ってきたんだ?」
「残念だがあいつは性格が終わっていてな。【腹黒女】が天職の都合などで知っていても教えられないのに対して、あいつは天職で多くのことを知っても自分の興味本位で教えるかを決めるんだ」
「おい、なんだそいつは」
知ってるのに味方にも教えないとか完全な利敵行為じゃねえか。
よくそんな奴を味方にしていられるな。
「ご察しの通りあいつは筋金入りのクソ野郎だよ。まあこのクランに所属している時点でまともな訳ないが、あいつはその中でも群を抜いている」
だがその知識量と情報収集能力は【腹黒女】と同等かそれ以上と言われるほどだとか。
だからそいつが教えてきたことは絶対に間違いはないらしい。
「あいつが告げてきたのは聖女の背後に一夜と同じ存在がいること。そして一夜はそいつと対峙する運命にあるということだけだ。絶対に逃げられない運命らしい」
「逃げられない? それは撃退するまで相手がしつこく追って来るってことなのか?」
「分からん。ただ運命なんて仰々しい言葉をあのクソ野郎が使ったのが引っ掛かるな。追手が差し向けられる程度ならそんなこと言わないだろうし」
だとしたら俺とそいつの間には一体この先に何が待ち受けているのだろうか。
「それも【愚者】なら知ってるのか?」
「あいつは腐っても『賢者』だからな。全て分かっているだろうよ。だがあいつがそれ以上のことを言わない以上は殺しても吐くことはない。諦めるしかないのさ」
そのクソ野郎の掌の上で転がされているようで業腹だが逃げられないのなら立ち向かうしかない。それに竜也さん以外の同じ立場の人と会う機会はこちらとしても逃したくない。
もしかしたらその聖女の陰で蠢く奴は竜也さんの居場所を知っているかもしれないし。
「それでどうしたらいいのかは分かるのか?」
「分からんが、まあ下手に小細工を弄するのは俺の趣味じゃないからな」
訂正する。これまでトールがまともに見えるとか言った全ての言葉を撤回させていだたきたい。
そんな嫌な予感は正しかったことが次の言葉で判明した。
「聖人派の拠点は知ってるし正面から殴り込めばいいだろ」
「「「お前もか!」」」
それまで黙って話を聞いていたソラやロゼでさえも思わずといった様子で突っ込みを入れていた。
やっぱりこいつも例に漏れず奇人変人集団の一員だったみたいだ。




