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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第九十七話 アルトメシア教会

 これまで様々な事件に巻き込まれてきたこともあって俺は各方面にそれなりのコネを手に入れることに成功していた。そのおかげで情報収集も以前よりずっと楽になったし、その量も段違いに増えたと言っていい。


 だがそれでもエストと教会とやらの件について何か具体的な情報を手に入れるには至っていなかった。


「教会ですか。獣人である私は元々関わりが薄い事もあってよく知りません」

「悪いけど人族である私も似たようなものよ。まあそれでも『法王』やら『教皇』が中心となって運営している組織だってことぐらいは知ってるけど」


 人族最大の宗教団体である教会。正式名称アルトメシア教会――なおアルトメシアはこの世界の名前から取っているらしい――はその名の通り宗教組織だ。


 ただし俺の元いた世界のものとは些か以上に異なる点がある。


 何故ならこの世界には天職というものがあるからだ。当然――下っ端や信者ならともかく――幹部や幹部候補以上の者となると聖職者系と呼ばれる天職を持っていることが必要となってくる。


 中にはそういう天職を持たないで幹部になっている例外も居るらしいが、それはあくまで例外であり大半はそうではない。


 そしてアルトメシア教会を筆頭にこの世界の宗教団体は他の宗教や宗派に対しても寛容である場合が多い。そうでなくても表立って対立する事は各宗派でも禁じられており、宗教戦争などが勃発することがここ数百年は全くないというのだから驚きである。


 その理由として挙げられる最大の要因はやはり人類種がこの世界でそれほど強い存在ではない、いや生活圏をかなり制限されて魔獣や魔物に脅かされている現状を見れば多少の差異はあれど、その大半が非常に弱く脆い存在と言えることだろう。


 要するに小規模な諍いや紛争程度ならともかく、人類で本格的な戦争などをしている余裕などないのだ。もっともそう簡単にいかないのが人、特に人族というものではあるのだが。


 なお、アルトメシア教会内には幾つかの宗派が存在しているが、その大半が他の宗派と共存するようになっているらしい。


(まあ『教皇』と『法王』が別物として存在している他にも『巫女』なんて明らかに異色の天職があるからそうならざるを得ないんだろうな)


 それらを認めないと天職を否定することになり、それは現実的ではない。自分達だって天職を持ってその地位に居るのにそれを否定しては矛盾してしまうからだ。


 他にも例を挙げれば『枢機卿』『大司教』『司教』『司祭』『助祭』『神官』『聖騎士(パラディン)』『神父』『僧侶(ビショップ)』『聖人』『聖女』『牧師』『修道女(シスター)』と一般的に聖職者系と呼ばれる天職はキリが無いくらい存在している。


 なお聖職者系という分類は純潔を守ると効果が高まるか、もしくはそれらしい名前であること。後者は要するにそれっぽい奴ということだから案外適当なものである。


(教会の階級としては教皇と法王が同率でトップ。そこから順に枢機卿、大司教、司教、司祭、それ以下となっているのか。そこら辺は向こうのカトリックに近いのな)


 貴族の階級は天職のそれと同じだから非常に分かり易くていいのだが、こちらはこの話から分かる通りそうはいかないのが厄介である。例えば『巫女』は助祭から司祭辺りの地位に付いている事が多く、『聖女』は大司教から上の地位とされている。


 どうも貴族と違って天職の数が多い所為か段階付けがかなり複雑化せざるを得ないようだ。


 そんなアルトメシア教会だが、その活動は調べた限りではそう悪いものではない。各地に教会の支部を作ってそこで病人の治療などを行うこともあれば、炊き出しなどを行って貧困者の救済などの慈善活動も積極的に行っているのだ。


 各宗派によって祈りの対象や細かな戒律などは異なるものの、それは向こうの世界でも同じだし別段詳しく述べることでもないだろう。


 むしろ話を聞く限りでは少なくとも表向きには元の世界より各宗教が共存、もしくは下手な干渉をせずにお互いの領分を守っているようにさえ思える。


(そんな教会が一体何の目的があってこちらにちょっかいを仕掛けて来るんだ? まだ俺が異世界人だと伝わってる可能性は低いはずなんだが)


 今のところその情報をあえて流す人物が居るとは思えない。


 そして仕掛けてきているのがどの宗派なのかも問題である。


 もっとも信者の人数が多いこの世界を創ったとされる創世神やその係累の神に祈りを捧げる正統派。


 大地や海などの自然やそれらに宿るとされる精霊などを主に信仰する自然派。


 過去の英雄や勇者などを聖人として崇める聖人派などその派閥の種類は数えればキリがない。


 その中のどれかが――あるいは複数かもしれないが――こちらに何をしようとしているのかを調べる。それは並大抵の難度ではない。


 だからこそ俺はこうして対策をすることも出来ずにいるしかないのだった。もっともそれも後少しのことだったが。


 既にエストは全ての事情の説明と手続きを終えて隣街からフーデリオに向かっていると連絡が入っている。


 更にあの警告を聞いてからは念には念を入れてギルドに依頼を出す形でエストの護衛を雇ってあるし、余程の事態に陥らなければエストは無事に俺達の元に辿り着けるはずだ。


 冒険者の俺が依頼を出すのはなんとも妙な感じがするが、これは別に特別なことではない。相応の報酬さえ用意出来ればギルドは依頼という形で割とあっさりとお願いやら頼みも聞いてくれるのだから。


「あっちだってイチヤが護衛の依頼を出した事で警戒しているのは分かってるでしょうし、よっぽどの事が無い限りは仕掛けて来ないわよ」

「そうですね。この状況で教会とやらが仕掛けた場合はギルドに対して喧嘩を売るに等しいでしょうし、流石にそれは無いのではないですか?」


 二人の言う事は実にもっともだった。それなのに一抹の不安が残るのはどうしてなのだろうか。


 そこで部屋の扉がノックされる。俺の心配など杞憂でようやくエストが戻って来たのかと安心したのだが、残念な事にそれは違っていた。


 それどころかその後の言葉に俺はげんなりとさせられることとなる。


「ヒムロ様。お客様がお尋ねになられています」

「客だって?」


 エストなら客なんて言い方はしないだろうし、それ以外に心当たりはない。いやこっちに戻って来てから姿を見かけないポロン達がいたか。


 何でも長期の依頼でしばらくこの街を離れているとの事だが、それを終えて戻って来たのだろうか。


 そう考えてその客が誰かと尋ねた返答はこれだ。


「お名前はトール様で「未知の世界(アンノウン・ワールド)」のメンバーの一人とのことです」

「「「げっ!」」」


 厄介事の予感を覚えた俺達三人が同時にそんな呻き声を上げたのは至極当然の事と言えるだろう。


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