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天職に支配されたこの異世界で  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中


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第九十三話 無事に終わった結婚式とその後の密会

 物語なら強引な方法で叱咤激励された教え子が覚悟を決めるものだろうが、残念ながら現実はそう簡単ではない。結局メスカは例の結婚式までに決断する事が出来なかったらしい。


(これから先の人生が掛かっているに等しいんだからな。そう簡単に答えは出ないか)


 ただそうなると結婚式で歌う人物が居なくなってしまう訳だが、その穴を埋めるのに相応しいとかいうレベルを超えた人物が幸いな事に存在していたので問題はなかった。


(いや、別の意味での問題はあったか)


 伝説である【歌姫(ディーヴァ)】が代理で祝いの歌を歌った。その反響は凄まじいものがあったとのこと。なお伝聞系なのは俺がその場に居なかったからである。


 伯爵からも今回の件の功労者という形で招待はされたのだが断ったのだ。これ以上あの【歌姫(ディーヴァ)】に振り回されるのは勘弁して欲しいということにして。


 そんな形で【歌姫(ディーヴァ)】という驚愕の代理が現れるという予定外の事態はあったものの、その結婚式は当初の予定通り無事に終わった。と言うか【歌姫(ディーヴァ)】が祝いの歌を送った事で箔が付いたこともあり、伯爵家は面目を保つどころか周りから賞賛されたというのだから恐ろしい。


 もっともどうやって彼女に代理をお願いしたのかとか質問攻めされたとかで伯爵はかなり苦労したようだが。


 それにしても一体【歌姫(ディーヴァ)】はどれだけの影響力を持っているのやら。恐ろしい限りである。


「それでそんな【歌姫(ディーヴァ)】様がまた何の用だよ?」


 現在の俺はソラ達を宿に置いたまま指定された建物に一人で来ていた。そして呼び出したのは目の前に居るジュリアである。


 薄い黒いベールで顔を隠したその格好は貴婦人と呼ぶべきそれであり、恐らくはこれが【歌姫(ディーヴァ)】として活動する時の彼女の姿なのだろう。現にそのベールの効果なのか普通なら透けて見えるはずの顔が全く認識できないし。


「今回の件で迷惑を掛けたお詫びに幾つか忠告しておこうと思って。これでも年長者ですからね」

「年長者ねえ」


 そう言えばマハエルがうん百歳とか言ってったっけ。人魚族は長寿だと聞いていたが人とは文字通り桁が違うらしい。一体何世紀生きているのやら。


「ええ、そのおかげもあってこれまでにも何人かの異世界人と関わった事が有るくらいよ」

「何だって?」

「マリアと連絡を取って聞いたでしょう? 私が「未知の世界(アンノウン・ワールド)」に入ったのは何年か前のとある事件が切っ掛けだって。実はそれに異世界人と思われる人物が関わっていたのよ」


 更にマハエルもその事件とやらに関わっていたのだとか。そしてそれが縁でこうしてジュリアと雇われているらしい。


「もっとも確証がある訳じゃないわ。最後まで彼は自分が何者かを話そうとしなかったし、そんな事を聞ける状態でもなかったから」

「一体何があったんだ?」


 俺と同じ異世界人。その人物は絶望していたとジュリアは語り始めた。


「彼に何が有ったのかは知らない。でも突如として現れた彼は強力な天職を持って全てを破壊しようとしていたわ。自らの事を『破壊者』と名乗って。恐らくはそういう天職を持っていたのでしょうね」


 とある貴族が治める街に現れたそいつは何の前触れも無くそこの住民達を殺戮していった。


 狂ったように嗤いながら、すべて壊れてしまえ、と世界の全てを呪うような言葉を吐き捨てながら。


「そして彼はしまいには土地核さえも破壊しようとしたわ。それを止める為にその場に居合わせた私やマハエル、そして「未知の世界(アンノウン・ワールド)」のメンバーなどが戦い、最後には彼を殺した」


 最後までその彼とやらは説得に応じるそぶりを見せずに暴れ続けた。その姿はまるで泣き叫ぶ子供のようだったとジュリアは語る。


「私はその直近の彼を含めてこれまでに三人の異世界人と思われる人物達に接触したことがある。そしてその全員が彼ほどではないにしろ自棄になっている、どこか自暴自棄になっているように感じた。だから正直に言って私は異世界人にあまり良い印象を持っていないの」


 この件ですぐに俺の前に現れなかったのも見定める意味があったらしい。

 俺が彼らと同じように精神に問題を抱えているのかどうかを。


「加えてその『破壊者』の彼だけど、最後には人間ではなくなったわ」

「人間ではなくなった?」

「ええ、そうよ。私達に追い詰められた彼は暴走した。その瞳を赤色に変貌させて」


 赤色の瞳。それはつまり、


「魔物になった……てことなのか?」

「最終的には体も元の形なんて残さないくらいに異形化していたし恐らくはね。もっとも死体は欠片も残さず消えてしまったから確証がある訳じゃないけれど」


 その話について俺には心当たりがあった。これまでにも何度か言われたではないか。まるで死んでいるかのようだとか、本当に人間なのか、と。


 それらの言葉を思い出しながら無意識の内に俺は自らの手を見つめる。この失った物を取り戻したと思っていた体は、実はそうではなく全くの別物に変わり果ててしまったのではないかと思いながら。


「だから私は異世界人であるあなたに対してすぐに全幅の信頼を置けないし、私が知る全てを話す気にはなれない。もちろんシャーラ達が認めたヒムロイチヤという個人は嫌いじゃないのだけれど、これまでの経験上すぐに全ての情報を話す気にはなれないわ」


 異世界人という括りで勝手に区別されるのは少々業腹ではあったが、その気持ちも理解出来なくはない。


 俺だって暴走して異形化するかもしれない奴をすぐに信頼できるかと聞かれれば答えは否なのだから。それどころか危険を避ける為にも距離を取ろうとするだろうし。


「まずあなたの身体についてだけど、どうせマリアが血液サンプルとかを内緒で採取して調べているだろうから、その結果が出るまでは気にしないようにしてなさい。気にしたところで仕方がないでしょうし」

「おい、ちょっと待って。血液を採取された記憶など欠片もなんだが?」

「だから内緒でって言ってるでしょ? 大体シャーラとマリアが揃って何もしない訳がないじゃない。特に異世界人であるあなたなんて垂涎物の獲物もとい研究対象でしょうし」


 なんだその当然の事を聞くなと言わんばかりの言い方は。人の体から勝手にサンプルを取るとか普通ではない。……いや、だからこその【医狂い】に【変態外道研究者】なのか。


 改めてこいつら「未知の世界(アンノウン・ワールド)」に常識とかを求めるのが不毛だと実感させられる。どいつもこいつもまともじゃない。


「二つ目だけど、私が招集されて更にリーダーまで動くとなると余程の事態。ううん、控えめに言っても異常な事よ。それに加えて最近の「力の信奉者(パワー・アドマイヤー)」の妙な動き。何が起ころうとしているのかまでは私は分からないけど、このまま何もない事だけは絶対にあり得ないわ。だからいつ何が起こっても良いように準備だけは怠らないようにしておきなさい」

「その口調だと俺が巻き込まれる事は確定なんだな」

「むしろこれまでの事を考えてあなたが巻き込まれない可能性があると思うのかしら? 実際に巻き込んだ私が言うのも妙な話だけれど」


 俺が関係ない内に事態が収束する事を望んだが、実際にそうなるイメージが欠片も湧かないのが自分でも悲しいところである。


「それとこれが最後だけど、エストって子の件で教会が妙な動きを見せているわ。最悪近い内にあなたに接触してくるかもしれないけど、その時に正体や能力を知られないように気を付けなさい。バレたら保護の名目で一生監禁される事も有り得るわ」


 この最後の忠告だが、残念な事にそれが正しかったことを俺は知ることになる。何故ならエストが教会に保護(・・)されたという知らせがしばらく後の俺の元に届けられたからだ。

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