希望を抱く少女
聞き間違いだろうか?
「蒼井 理加?奏の妹?」
あいつから、奏から妹がいるなんて話は聞いたことがないが。
「はい!あ、でも姉と違って、あまり魔法は得意じゃないんですけど。」
得意じゃない?魔法が使えるのか?
魔法を学ぶことができるのは高校から。故にそれ以前に知っていたとすると親か親類に教わったということになる。
それが許されるのは名門の家くらいだ。
奏も入学当初は固有魔法も通常魔法も使えなかったはずだ。
もし、家庭で教わらずに魔法が使えるならば、それは…
「先天的固有魔法か。」
先天的固有魔法は生まれた時から持っているもので、百万人に1人の確立で生まれてくる。
「はい。うまく使えないんですけど。」
少し落ち込んだ表情で答えるが、すぐに元気な表情に戻って、詰め寄ってくる。
「それで!先輩は、姉さんのことを知っているんですか!?」
「え?あ、ああ。」
とっさに答えてしまったが、すぐにしまったと後悔する。
知っているから、なんだというのだ。
俺が救えなかった彼女のなにを教えてやれると言うんだ。
「じゃあ一つだけ教えてください。」
やめてくれ。
俺には答えられない。
「姉さんは、人の、世界の役にたちましたか?」
「え?」
予想していた質問とは違った。
てっきり彼女の最期を聞いてくるものとばかり。
いや、それよりも、なんだって?
世界の役に立ったか?
なにを聞いているんだこの娘は?
「世界の役に立ったか?それが君が聞きたいことか?」
「はい。姉さんとの約束でしたので。自分たちが使う魔法は世界の、人のためになるように使おうって。」
人のため、世界のため、あいつがいいそうなことではあるな。
なら、答えるべき言葉は決まっている。
「奏は、君のねえさんは、・・・・」
決まっている、はずなのに。
言葉にできない。
確かにあいつはいつでも他人を優先するようなやつだった。
あの時もそうだった。
敵をすらあいつは・・・・。
「あの・・・。」
答えを渋った俺を催促するような目で見てくる。
「たっていたよ」
「え?」
「君の姉さんは、いつも人を優先してるいいやつだった。だから、世界はどうか知らないけど、人の役には立っていたよ。」
これが限界だった。
この娘には話して聞かせるべきなんじゃないかと思うが、今はやめておこうと俺は思った。
その後、理加を女子寮まで送ると、俺はすぐに男子寮の自室に戻った。
戻る途中すれ違う生徒から居心地の悪い視線を浴びせられたが気にする余裕は俺にはなかった。
ーーーーーーーー魔法はきっと人を、世界を幸せにしてくれる。ーーーーーーーーーー
あいつはよくそんなことを言っていた。
なにを馬鹿なことをと、俺は笑った。
その度にあいつは怒ったっけ。
いつだって希望をもっていた。
自分が頑張れば、他人のためになると本気で信じてた。
「私は姉さんの意思を継ぎたいとおもってますよ。私が魔法をもっと使えるようになれば、みんな喜ぶはずです。だって魔法は人や世界を幸せにするものですから。」
女子寮に着く前に、理加はそんなことを言っていた。
姉の面影もあってか、その言葉は俺に重くのしかかった。
かつて笑い飛ばした言葉は、もう笑えない言葉は、希望を抱いた少女に受け継がれていた。