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気付いたら6歳だった。
違う。この身体に生まれて6歳になり登っていた木から落ちて頭を強く打った際に前世の記憶を取り戻した。
そりゃもうびっくりしたよ……生きたいとは願ったけど、それはかつて自分であった私で。
木から落ちたときに失神し、部屋に運ばれたらしい。
目が覚めて医者から頭にできたこぶ以外は異常がないことを告げられると家族たちはそれぞれ仕事へと戻っていったけど。
私は思い出した前世の今際の出来事を考えていた。
交通事故でどうやら私は死んだらしい。
そして気付いたら、まさか生前自分がやっていた乙女ゲームの攻略対象として生まれ変わっていた。
なんてラノベの世界。
こんなご都合主義があっていいのか!?いや、実際あるんだし。
私が生まれ変わったのは、通称『女神シリーズ』と呼ばれるゲームの世界の少年だった。
シリーズ名が某大作と同じで微妙だけど、これはユーザが言い出して定着したものだから仕方がない。
攻略対象というか、主人公次第で攻略対象となるが正しいのかな~?
どうせなら同時にやっていた平安時代乙女ゲーのほうに生まれ変わりたかった!
なにせ、このゲームは油断するとスペ○ンカーの主人公みたいに、ぼこぼこと人が死ぬのだ。
知らずにこのゲームの一作目を買った演劇部のゆうちゃんとか涙目で即オクに出してたっけ……
シリーズ一作目「残酷な女神は恋をする」はひどかった。
主人公のステータス、選択肢、親密度すべてを適切に進めないと相手のキャラクターたちが次々死んでいく。
恋愛ゲームなのに、だよ!?
周りのイケメンや美少女がそれはもう見事に次々死んでいく。
ゲームバランスもシビアなものだからお目当てのキャラを落とそうとすると、それ以外の選ばれなかった攻略対象に数人の犠牲者がでる。
しかもお相手として選ばれても、最後の最後で主人公である彼女の選択肢によっても、死が待っていた。
それは物語の鍵となる秘密上、仕方ないものではあったものの、乙女ゲーとしては非常にバランスが悪すぎた。
誰だってそうだ。一部以外は夢みたくて乙女ゲーを選んでいるのに、わざわざ欝になる作品を選ばない。
発売されてから一週間でネット上の関連掲示板、大手ショッピングサイトやゲームサイトのレビューが大荒れになったのには茶を吹いた。
ここまで説明して(私は誰に説明しているんだろうか?)いうのもなんだけど、私が生前、死亡数時間前までプレイしていて、続きをやりたいと願ったゲームは女神シリーズの二作目「慈愛の女神は剣を振るう」のほうだった。
ディレクターかライターが代わったのか、評価を見た会社が方針を変えたのか判らない。
二作目は一作目「残酷な女神は恋をする」の主人公の親友が主人公で、まさに正統派の乙女ゲーだった。
ただし、こちらも前作ほどではなくても主人公が攻略対象であるキャラクターに関わらない選択肢を取り続けると、そのキャラが死亡する。
だけど二作目は主人公と攻略対象との関係性が深くなった分、親密度とフラグ立てのみで進むただのアドベンチャーになっていたため、そこまで不幸になるキャラを出さないように進めることができた。
前作の主人公やシステムがいろんな意味でマニアックだったと思う。
乙女ゲームとしては難しすぎたのだ。
まぁ、『信○の野望』を秋月家でクリアできるゲームマニアで、欝展開も好物だった私は一作目もシナリオ回収100%スチル回収100%音声回収100%になるほどやりこんだワケだけど。
絵師さんの大ファンだったしさ~。
そうそう。設定は適当、バランスはムリゲー、こんな糞ゲーであるにもかかわらず2作目が発表されたのは何故か?
絵師が素晴らしかったのだ。
当時のその道では有名な漫画家を絵師に起用し、一作目はその漫画家の信者もゲームを買ったため、縮小化しつつある乙女ゲーム界の売り上げとしてはそこそこヒットを飛ばした。
じっと鏡の中の自分をみる。
エメラルドのような緑の瞳に、少し癖のある金の髪。
大好きな絵師さんが描いたキャラクターがそこにいる。
笑顔を作ると鏡の中も花が咲いたように笑った。
土地の風習から肩まで伸ばされた髪型から、幼い自分の顔は愛らしい少女のようにも見える。
今は女の子のようにみえるこの顔があと10年もすれば立派な美少年になることを知っている。
前世では中の中。頑張って着飾って中の上くらいで。
可愛いなんて家族と親戚からしか言われたことなかったのにさ。
しっかしなぁ……
一作目「残酷な女神は恋をする」と二作目「慈愛の女神は剣を振るう」
これはどっちのシナリオなんだろう?
思い出してから神様に祈ってみたりしたけど特に奇跡は起こらず判らないコトだらけだ。
前者であれば血みどろの、後者であればほぼ恋愛ゲーム王道の√<<ルート>>を辿ることになる。
まぁ今考えても仕方ないし。
8歳まではのんびり過ごしますか。
8歳になれば「彼女」がこの城にやってくる。
16歳になれば王都へいき、『彼女』と出会うことになる。
物語の終わりは彼女たちの18歳の誕生日まで。
ふふっ、あだ名がゲーマーの元廃人を舐めるなよ。
不名誉なそのあだ名を思い出して私は極悪な笑みを浮かべる。
鏡の中の笑顔は無邪気なままだった。
一作目はバッドエンドも含めて全クリアしてるんだ。
その間にある死亡フラグなんてぶっ潰すぞー!
私はそう決意して、寝台へと潜った。
恐怖に震える身体を丸めながら。




