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青雲を駆ける  作者: 肥前文俊
第七章 結婚披露宴
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披露宴にてエイジの一芸を見て

十一話 一芸をみたナツィオーニ視点です。

 領主という立場から見て、エイジという男は非常に価値が高く、また危険性も高い男だった。

 この男をどう使いこなすか、そこに領主としての腕のふるいどころだった。


 最初は強制的に従わせることが良いのではないかと考えていたが、なるほど、優しいだけではなく牙も持っている。

 最悪手に負えない猛獣となって、こちらに牙をむく可能性も考えると、多少の妥協はしても、自分の懐に納めたほうが良い。

 ナツィオーニにとって、エイジはそんな存在だった。


 それがいつの間にやら、積極的に味方にした方が良いと考えるようになった。

 ナツィオーニの予想を超えて、エイジは魅力的であり、危険な存在だった。

 敵に回れば損でしかなく、味方になれば大きな力になる。

 だったら、積極的に身内へと待遇を改めたほうが賢い。

 肌感覚として、反りのあわない相手でなかったことも幸いした。

 気付けば親族待遇を約束することになった。


 今回はナツィオーニ自身が主催となっての披露宴だ。

 島中から村長やその代理が集まる一大イベントで、本人が来るのか、それとも代理を寄越すのか。

 祝いの品はどれだけ奮発するのか。

 そういった所で、相手の心中を量る良い機会だった。


 とくに今は、東側がきな臭いからな……。


 同じように税を課していても、村々の発展には差ができる。

 とくに西側はシエナ村の発展が著しく、それに準じてモストリ村もまた、交易で大きな利益を得ている。

 東側のヴァンガードなどは、かなり面白くない状況だろう。

 戦に発展させるわけには、けっしていかない。

 ようやく掴んだ平和なのだ。

 安寧なくして発展なし。

 ナツィオーニとしては、安定した基盤を構築して、息子に後を継がせたいところだった。


 それだけに、この危険な状況をエイジがどうにかできると聞いた時は驚いた。

 もちろん確信があるわけではないだろうが、披露宴の出し物として使えるならば都合がいい。

 鍛冶師というから金属の加工をするだけかと思えば、次々と新しい物を作り出す、意外性の塊のような男だ。

 一体どのような手段を取るのか、じつのところかなり楽しみだった。


 話を聞いてみると、演舞と試し切りを行うということで、なんだそんなことか、というのがナツィオーニの実感だった。

 エイジは生粋の武人ではない。

 ナツィオーニからすれば、あくまでも思考や知識が脅威なのであって、エイジ自身を取り除くことには対して脅威を覚えていない。

 演舞を行うと言っても、大したものではない。

 そのように考えいた。


「何だこれは……」

「ふぅむ、見かけによらぬ動きですな」

「これは付け焼き刃でできる動きではないな。かなりみっちりと修練を積んでる動きだ。いったいいつの間に、どうやって身に付けた?」

「さて、実戦経験があるとは聞いていませんが……」

「あんな動きをしているやつがいれば俺が見落とすわけがない」


 フランコと話しているが、衝撃的だった。

 エイジはシエナ村の農夫たちを掴んでは投げ、掴んでは投げを繰り返している。

 その動きは早く鋭く、一瞬たりとも遅滞が見られない。

 にもかかわらず、エイジに呼吸の乱れが見られない。

 むしろ、意識して余裕を保ちながら動いているように見える。

 これで息を止めながら全力で動けば、一体どれほどの戦力になるのか。


 戦場では転んだ相手というのは、非常にトドメを刺しやすい。

 エイジ自身が相手を転ばせ、誰かがトドメを刺すようにすれば、恐ろしいまでの戦力になるだろう。

 それに、襲いかかっている役の村人たちの動きは、戦場での突進と同じなのだ。

 もちろん手には何らかの武器を持っているかどうかの違いはあるが、至近距離になってしまえば、長物はかえって邪魔になる。


「俺が相手をすればどうなるかな……?」

「止めて下さいよ。万が一があれば困ります」

「ふふ、お前でも万が一があると思うか」

「ナツィオーニ様の場合、馬上から戦うでしょうから、投げられることはないでしょうが、お互いがたった状態であれば、その恐れもあるかと」

「……一人の戦士としては、ぜひ一手演じてみたいものよ」

「本当に止めてくださいよ。いま貴方に何かあれば、それからどうなるか想像はついているでしょう?」


 フランコが本気で睨んできたから、惜しいとは思いつつ、組手に誘うことは諦めた。

 かなりいい勝負になると思うんだが、残念なことだ。

 そんなことを言っていると、エイジがフィリッポという、ナツィオーニと同じぐらい大きな木樵を一瞬で投げ飛ばした。


 これはスゴイ。

 エイジとフィリッポでは、身長で三〇センチ、体重で四〇キロほども差がある。

 比べれば体格の差は歴然だ。

 生半可な身のこなしではフィリッポは投げられない。


 披露宴場に大きなどよめきが起きたのも、当然のことと言えた。

 とは言え、戦の本質が分からぬ者には、実力ではなく投げられたフリ(・・)をしているのではないか、と勘ぐるものも出てしまうだろう。

 それぐらい、小さな者が、二回りも大きな男を投げ飛ばす姿は、見た目に印象を与えた。


「ふん、どうせヤラセさ!」


 リリルカ村のガジールか。

 どうやらエイジたちが注目を浴びるのが面白くないようだな。

 領主主導の披露宴でケチをつけるという意味を理解していないらしい。

 まったく忌々しい男だ。こいつこそぶん投げてやろうか。

 ナツィオーニが冷ややかなめでガジールを睨んでいたが、そのガジールは立ち上がったかと思うと、エイジに向かって走り出した。

 慌てたのがフランコだ。


「ナツィオーニ様!」

「放っておけ。エイジがなんとかするだろうさ」


 椅子を蹴立てて立ち上がり、青褪めた表情でナツィオーニに視線を向けるが、ナツィオーニ自身はかえって安心した。

 場をかき乱し、口先だけ(さえず)っているなら脅威だったが、動き出してしまえば排除できる。

 おそらくエイジの相手にはなるまい。

 ナツィオーニの期待に答えるように、エイジがガジールを投げた。


 ……投げ合いで勝負したら勝てるか?

 相手をほとんど掴まずに、体重移動だけで重心を崩して投げる、見事な技。

 エイジの技術の高さに、ナツィオーニとしても勝算が浮かばない。


「くくく、見事だな……」

「まことに、ナツィオーニ様の予言どおりになりましたな。この光景は見えていたんですか?」

「当たり前だ……」


 拍手を始めると、他の者も追随するように拍手が沸き起こる。

 ここは素直に称賛しておこう。

 恐るべき男を手懐け、懐へと入り込ませたのは、他ならぬ己の手腕なのだから。


 あとは離反を防ぐために、しっかりと報いてやればいい。

 誠実を心がけている相手には、その求めている所を与えてやればいいから、上に立つ者としては分かりやすくて良い。

 何倍にもして返してくれるだろう。

 ナツィオーニはエイジを重用することを、改めて心に決めた。

この話が面白いと思って頂けたら、ぜひすぐ下の評価を押していただけると、とても作者として喜びます。


ご協力お願いします。m(_ _)m

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