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世界の名残

[Jan-27.Wed/08:00]


あんな壮絶に壮大に壮快に、ドラマティックにファンタジックにアクロバティックな一夜が明けた後だと言うのに、学校はある。まぁ、誰も昨夜の事件を知らないのだから当然と言えば当然なのだが、やるせない気持ちで胸が一杯だ。

私の左腕に巻かれているギプスは骨折の為ではなく、学校側に骨折だと偽称する為の物だ。まさか虎ぐらいの大きさの犬に噛まれて筋繊維が縦に裂かれて動かなくなるとこでした、とは口が裂けても言えやしない。っつか言えば翌日から待っているのは周囲の白い目と精神病棟だ。

「全治三週間……リハビリに二週間、か」

暫くは今まで通りの任務をこなせないかも知れない。まぁ、リハビリ次第で元通りになるのだから文句は言わないが。下手したら一生指が動かなくなっていた、と医者に言われた時は背筋が凍り付いた。

何より、この大怪我のせいで昨夜はドタキャンという結果に終わって仕舞ったのが凄く悔しい。まぁあれだけの怪我を負って、生きている現状が不思議なのだから甘んじる他ない。というか大量失血によるショック状態に陥りかけていたらしいし、輸血した今でも貧血気味で、最高最悪に気分が悪い。この気分の悪さは、下手すれば月の日以上だ。

ちなみに余談で、私がこれを知ったのは後の話になる。多量の血液の流出は心筋を肥大化させて血栓を起こしやすくなる、即ち左心室不全や心筋梗塞による心臓麻痺で死に至る可能性があるとの事。失血ではなかなか死なないと言われている自殺願望(リストカット)が危険だと言う所以はこれが原因らしい。

「あ、ミサト!」

鬱に入りながら通学路を歩いていた私は、背後から声をかけられた。振り返らなくても分かる。そこにいるのは私のクラスメイトであり親友である浅野セイカだ。

「セイカ。おはよう」

「うん、おはよウワッ!ど、どうしたのその腕!?」

私の隣まで小走りで並んだセイカは、挨拶を驚愕に変えた。

「あ〜、骨折。ちょっと不注意で車と事故っちゃって」

軽く腕を上げてみる。少し痛みが走ったが、顔に出さないでいられる程度だ。

「うわぁ、痛そう……よかったね右腕じゃなくて、って言っていいものかな……?」

「気にしなくていいですよ。心配してくれてありがとう」

私は素直にセイカに感謝した。やはり、表の世界には裏の様な殺伐とした気配がない為に、和んでしまう。というか癒されると言っても過言ではない。

「あぁ、そうそう。聞いた?昨日、放火があったんだって」

「放火、ですか。物騒ですね」

「だよねぇ。よりにもよって、二駅向こうの私立公園の林が燃やされたんだって」

ギクリと私は背筋を震わせた。……それはやはり、あの、暗黒光輪(アジ・ダハーカ)が放った炎弾の一撃だろうか?……考える意味もなくそうなのだろう。

「ミサトの家ってその辺だよね?何か知ってる?」

「いいえ何も知りませんよええ何も」

苦笑いを浮かべて答える。本当の事を言う訳にもいかないし、何よりその犯人は既に現世にいない。

ふぅん、とため息混じりに呟くセイカ。何か釈然としないと言わんばかりだ。

それから、私達は放火だとかの物騒な話題を避け、普段通りに他愛ない話をしながら学校へ向かった。何事もない、いつもの生活に戻れたんだという安堵感が、私を満たしてくれた。









[Jan-27.Wed/12:55]


昼休みは購買のパンで済まし、私は学校の屋上に来ていた。呼び出されたのだ。

「話って何ですか、時雨沢?」

「ん〜、ちょっとな」

地べたに座り込んでいるのは、見慣れた赤髪に茶色の瞳の少年だ。昨夜の銀髪と金色の瞳とは違う。

これこそが、私が知っている時雨沢タクミだ。

「まぁ、とりあえず座れよ」

「地べたにですか?行儀悪いですよ」

「……じゃあ立ったままでいいから聞けよ」

どこか不機嫌そうに、ぶっきらぼうな言いぐさ。彼らしくもない、と私が思っていると、時雨沢はケータイを取り出してどこかに電話をかけ始めた。

「……人を呼びつけておいてケータイとは何事ですか」

「いいからちょっと待てっつの。話があんのは俺だけじゃねぇんだ」

ケータイの向こうの誰かと話し始める時雨沢。二、三何かを喋り、ケータイを私に突き出してくる。

「ホラ、出てみろ」

「……?」

よく分からない内に私は時雨沢のケータイを受け取り、受話部分を耳に当てる。

「お電話代わりました。どちら様でしょう?」

『……余だ』

………………………………………………………………………………………………、ん?

「ら、極彩色(ランダムカラー)!?」

信じられない。電話の向こうの人間は、間違(まご)う事なく、昨夜の事件の張本人である極彩色(ランダムカラー)だった。

どうして異端審問官(ランダムカラー)が、時雨沢とコンタクトを取っているのだろうか?

とりあえずケータイの音声を拡聴モードに変え、時雨沢の前に置く。私はハンカチを下に敷き、その上に正座して座る。こうすれば私と時雨沢は普通に極彩色(ランダムカラー)と話す事が出来る。

とりあえず私は、先程の疑問の旨を訊ねてみた。答えたのは時雨沢だった。

「ん。コイツ、昨日はとりあえず俺の家に泊めたんだよ。今は家の電話を使わせてる」

「……は?」

『細かき事情がありて。今は灰色銀狼(シルバーアッシュ)の世話になっておる次第だ』

……いや、全く要領を得ずに意味が分からない。何を言ってるんだろうこの人達は?

極彩色(ランダムカラー)の要たる三次方陣(3Dテクノラシート)は、暗黒光輪(アジ・ダハーカ)といふ天使クラスを召喚せしめた事で修復不能の破損を負うた。よって今の余は極彩色(ランダムカラー)たり得ん。そうよな……さしずめ、無色透明(ノーカラー)と言ったところか』

極彩色(ランダムカラー)、改め無色透明(ノーカラー)は苦々しく吐き捨てる。

『理論だけで言えば天使すらも召喚出来た筈の三次方陣(3Dテクノラシート)だが、……まことに遺憾ながら、実力のなさを痛感した』

「いえ。それは特に問題はないかと。それは現代兵器(こちら)の世界で言えば、突撃銃が毎分七〇〇発撃てるというカタログデータの様なものですし。理論上では可能ですが、そこまでオーバーロードすれば確実に銃身(バレル)が焼け付いて弾詰まり(ジャム)するだけです」

『???』

訳が分からないと言わんばかりに呻く無色透明(ノーカラー)。時雨沢も同じく表情を歪めている。

とりあえず、このまま魔術講義をするつもりは更々ない私は、無色透明(ノーカラー)に訊ねる。

「……で?どうして貴女は怨敵である時雨沢……灰色銀狼(シルバーアッシュ)と親しげな関係になっているのですか?」

『……』

返事はない。言いにくい事なのか、と私が考えていると、時雨沢が語りだした。

「あ〜。つまり、あれだ。三次方陣(3Dテクノラシート)がブッ壊れた世界十指の極彩色(ランダムカラー)……無色透明(ノーカラー)に用はないって言われて教会を追われたんだとさ。んで、俺が匿ってんの」

「あぁ、そういう事ですか」

何となく事情が分かった。三次方陣(3Dテクノラシート)を開発した功績で、今まで世界の十本指に入っていた魔術師が、たかが人狼一人を倒せずに二つ名の力を失ったのだ。そりゃ、お偉いさんが手のひらを返すのは道理だと思う。

そもそも、無色透明(ノーカラー)は若年過ぎたのだ。恐らく二十歳前後と言った頃合いだろう。そんな人間が周囲の反感を買わない訳がなく、今回はいい露払いの言い訳となって仕舞った訳だ。

「で、今イタリア……というかヴァチカンに帰っても、俺ら異教徒と共闘した事も含めて宗教裁判だとか何だでいざこざが起きるのは確実だろうから、ほとぼりが冷めるまで日本に滞在するつもりらしい。で、どっか住む場所を見つけるまで俺んちに滞在するって訳だ」

『左様』

「ふむ。大体の事情は掴めました」

で、と私は言葉を続ける。

「話したい事というのは近況報告だけですか?私も少し気になる事があるのですが」

『いや、まだある』

無色透明(ノーカラー)は電話の向こうで咳払いし、暫く無言で押し黙った。時雨沢はやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。

『……今回は、悪かった。汝らの協力があったからこそ、暗黒光輪(アジ・ダハーカ)を還す事が出来た』

「……その件については、そもそも貴女が樫の(オークロッド)を振るっていた間に無力化出来なかった時雨沢に問題があると思いますので、貴女が謝る必要はないと思いますが?」

「……あれ?この話って俺のせいなのか?」

納得いかないと言う表情の時雨沢だが、私は敢えて聞こえなかったフリをして議題に入る。

「少しいいですか無色透明(ノーカラー)?時雨沢も」

「あん?何だよ」

『何ぞ?』

「今回の件で、少し疑問が残る事があります」

そう。一昨日から始まった、極彩色(ランダムカラー)が巻き起こした事件。これにはいくつかの疑問が残っている。

「納得のいかない疑問は全部で三つ。一つは、一昨日の事です」

「ん?何かあったっけか?」

訝しむ時雨沢。

「あの日、私は物音を聞きつけてあの場に向かいました。魔力の流れを関知出来ない私でさえも、あの異変に気付いたのです。……無色透明(ノーカラー)。貴女はあの日、空間切断(カットアート)の魔術を使っていませんでしたね?」

『如何にも。灰色銀狼(シルバーアッシュ)が逃走していた為に、其の様な暇はなかった』

「これが一つ目の疑問です。あの時、どうして私以外の人間が来なかったのか。あそこの私立公園は駅と住宅地を結ぶ形で設立されているので、散歩や登下校などの都合で人通りはいい筈です。……では何故、誰も来なかったのでしょうか?」

「……言われてみればそうだが、」

『偶然ではなかろうか?』

時雨沢は無色透明(ノーカラー)と同じ答えらしい。あの時、誰も来なかったというのはただ近くに人がいなかっただけだ、と。

「確かに、これは偶然で片付けられます。……が、私はその直前まで友人と居ました。その他にもチラホラと他人もいました。あの一帯だけ人がいない、というのはどうなんでしょうか?」

「……」

『……』

押し黙る二人。私は構わずに次の疑問に繋げる。

「二つ目は、どうして三次方陣(3Dテクノラシート)で地獄犬(ヘルハウンド)暗黒光輪(アジ・ダハーカ)を召喚したのか」

『……其については余も疑問だった』

三次方陣(3Dテクノラシート)とは、あらゆる存在を強制力を以て召喚する術式(タクティクス)だ。それが例え天使であろうと竜であろうと、問答無用で召喚する。言い換えれば、召喚者も何が出てくるか分からない一種の博打でもある訳だが。

しかしそれはあくまで、対象が特定の範囲内にいた場合だけだ。天使や竜が現世に降りる事は神話レベルで滅多にない為に、今まで彼女はそれらを召喚した事がなかった。だからこそずっと『理論上』という言葉を使っていた。

「……地獄犬(ヘルハウンド)はケルトの冥府女帝(ヘカテー)の飼い犬、暗黒光輪(アジ・ダハーカ)はゾロアスター教の天使クラスの存在です。それが何故、この地で三次方陣(3Dテクノラシート)によって召喚出来たのか」

この話も偶然という言葉が適用される。日本は様々な国の文化や風習の交差点の様な土地柄なので、あらゆる宗派が存在する。ゾロアスター教も例外ではない。

「ですが、神話レベルで現世に現れない天使クラスが、果たして降りてきた地が日本だった、とは考えにくい。まぁ、それさえも奇跡に近い偶然と言えなくもない訳ですが。可能性で言えば、の話という事を忘れない様に」

私は大人しく聞き込んでいる二人に対し、尚も続ける。

「三つ目は、事件の発端にして根本の話です。どうして極彩色(ランダムカラー)なんて大物が、たかが人狼一人を滅ぼす為に日本に来たのか」

先日、私が思考の渦に巻き込まれた正体はこれだった。冷静に考えてみればおかしいのだ。

「世界十指の魔術師である極彩色(ランダムカラー)が、人狼一人の為だけに極東の国に派遣された。本来ならば、これはもっと教会の下っ端の役目ではありませんか?あまりにも大袈裟過ぎます。スケールの違いで言えば、コンビニで万引きした子供を捕らえる為に軍隊が出動する様なものです」

『……余は、その人狼は強大な力を持ちておるから、余にしか出来ぬと聞かされていた。……実際は大した事はなかったが』

「……傷つくな。まぁ、あれじゃね?三次方陣(3Dテクノラシート)を破壊させたかったからとか」

無色透明(ノーカラー)と時雨沢はそれぞれ意見を唱えるが、それでも釈然としない。

「三次方陣(3Dテクノラシート)が破壊したのは単なる結果論に過ぎません。そこまで考えるのは深読みというものです。……まぁ、その辺もローマ十字教なりの思惑があった偶然、と言って仕舞えばそれまでですが」

全ては偶然の一言で片が付く事ばかりだ。だが、だからこそ言える。

果たして、ここまで偶然が重なるものだろうか?

何となく重苦しい雰囲気が流れ始めた頃、丁度、予鈴のチャイムが鳴り始めた。天の救いとばかりにため息を吐く時雨沢。

「んじゃ、とりあえず授業だから。ケータイ切るぞ、アンデル」

『了解した』

時雨沢は地べたに置いていたケータイを取り、通話を切ってポケットに仕舞い込んだ。ン〜、と大きく背伸びをしながら立ち上がる。身長一九〇弱の人間が背伸びをすると、より一層大きく見える。

「アンデルというのは?」

「ん?あぁ、アイツの名前。アンデル・ランダンデル。アイツも俺の事は下の名前で呼ぶぞ?」

「たった一夜で随分と仲のよろしい事で」

「い、居候だからだよ。変な勘ぐりするな」

「ふむ、まぁ良いでしょう。私には関係ない事ですし、そういう事にしといてあげましょう」

「(……関係ない、ね。……そんなにハッキリ言わんでも)」

「何か?」

「な、なんでもねぇよ。ホラ、さっさと教室戻るぞ!(泣)」

何故か慌てながら、時雨沢は先行して歩きだした。

「……ところで、無色透明(ノーカラー)の用件は済みましたが、何やら貴方も話があったのではなかったのですか?」

私の言葉を受け、ピタリと時雨沢は動きを止める。後ろから見ても分かるくらい、耳どころか首まで真っ赤に染めつつ、油を差していないロボットの様にぎこちない動きで私に振り返り、

「……色々と、世話になったな。お前には借りが出来たな」

目を泳がせながらそれだけ呟き、時雨沢は階段を駆け降りていった。

「……びっくり。素直なもんですね」

私の呟きは、緩やかな風に流された。









[Jan-27.Wed/16:10]


放課後、校門に信じられない人物の姿を発見した。

「……カナタさん?」

「ん?あぁ、ようやく出てきたか」

校門に座り込んでいたのは、誰あろう時津カナタだった。カナタさんの学校からこの中学に来るには、駅とは逆方向に歩かなくてはならない。そこまでして、何故に彼がここにいるのか、私には分からなかった。

「どう、したんですか?誰かと待ち合わせですか?」

「……バァカ。お前を待ってたんだよ。かれこれ三〇分だ。遅ぇんだよ」

「それは済みませんでし……え?私!?」

信じられない。どうして彼が私を待っていたのか、その動機がまるで分からない。

だって、この人は、私を嫌っているのだから。

私とは正反対に――。

「……腕。どうなんだ?骨折したって聞いたけど?」

「へ?あぁ、全治三週間だそうです。その後はリハビリに二週間はかかるんだとか」

「……そっか。それじゃ仕事の方はしばらくは無理そうだな」

「……もしかして、私の安否を聞きに来ただけですか?」

だとすれば、少しでも嬉しいと思って仕舞った私は大バカ野郎だ。私に会いに来たのではなく、ただ仕事の為に来たのなら、そこに個人の感情は関係ない。嫌でもやらなければならない。仕事とはそういうものだ。

カナタさんは立ち上がり、ズボンの埃を払い、右手を差し出してくる。

「鞄。僕が持つ。片手じゃキツいだろ」

「……え?」

意味が分からない。カナタさんは私が呆然としている事に苛っとしたのか、眉をしかめながら私の手から鞄を取り上げた。

「ホラ、いいからとっとと貸せ――重っ!おまっ、これ重過ぎだろ!?何が入ってんだよ!」

「え、えぇと、辞典が三冊程……」

「学校に置いたりしねぇの?」

「規則で禁止してますから」

「……ったく、これだから優等生は。真北とはスゲェ違いだな」

ブツクサと呟きながら、それでもカナタさんは何事もなく歩きだした。私はと言うと、動けずにいた。

カナタさんは振り返り、訝し気な表情で告げる。

「昨日はお前がそんな目に遭ってたってのに、知らなかったとは言えお前抜かしてスミレやユーサクと遊んでた訳だし。その詫びって訳でもねぇけどさ。今日ぐらいは夕飯作ってやるよ。その手じゃ料理なんか出来ねぇだろ」

――瞬間、沈んでいた私の心が、白綿の様に軽くなった気がした。

「……何だよ。帰らねぇのか?どっか寄るなら付き合うケド?」

「――いえ」

私はかぶりを振り、一歩、カナタさんに向かって踏み出した。

今はこんな関係でもいい。傍にいれれば、それだけで満足だ。

だけど、それはあくまで『今は』の話。

――覚えておいて下さい、カナタさん。いつか必ず、私はこんなちんけな関係を壊してみせますよ。

「私に、寄り道している暇はないんですよ」

「?」

心に罪悪感を感じながら、それでも私はカナタさんの隣に並んだ。

いつか、必ず。









「ちなみに、私は任務から外されるつもりはありませんよ?」

「……は?だってお前、その腕――」

全自動(フルオート)射撃は無理ですが、半自動(セミオート)ででしたら旧式突撃銃だって片手で扱えますよ。戦術の幅が狭まるのは確かですが」

「ハァ……お前って本当にゴリラ並の怪力だよn――痛ッ!痛い痛い痛い!ちょっ、片手でアイアンクロウ・ハングツリーは無茶だって――って持ち上がってますねハイうわスゲェ足が地面を離れてるよ!待てッ、悪かったハイ全面的に完璧に議論異論の余地なく僕が悪かったですから!ちょ、おまっ……意識、が……ッ!」









[Jan-27.Wed/Unknown]


ピッ、ピッ、ピッ。

心電図は単調な電子音を奏で、生命の波を冷淡に打つ。

様々なコードに繋がれた、長い黒髪の少女。口と鼻を覆う人工呼吸器は、少女の呼気の度に白く曇る。

……ミサ、ト。

その唇は、言葉こそ発さなかったものの、弱々しく言葉を形作る。

眠れる少女。

能面の様に感情の映らない寝顔。

うっすらと、ほんの僅かに瞼が震え、ガラス玉の様な眼球が僅かに覗く。

……ミサト。

今度は、弱々しくもはっきりと唇が動いた。

この瞬間、

眠れる少女は、目を醒ました。

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