やけぼっくいに火とかついちゃうの?
本作品は小説作法を無視している部分があります。
表現の一部としてあえて使っていますが、作法がお気になる方はご遠慮下さい。
本文中には、R指定までいきませんが軽度の性表現があります。
ご注意下さい。
あるセミナーに参加した時のことです。
そのセミナーは全12回の予定で、毎週金曜の夜に開催されています。
たまたま友人の女性で、こういうセミナーに興味を持っている人がいたので、その女性を誘って参加することにしました。
その女性は某クラブのホステスさんで、ここではギンザのアケミさん(仮名)としておきます。
アケミさんは30歳にリーチのかかったお年頃で、オトナのフェロモンを過不足なく備えた美人さんです。
お店が休みの日には勝負メイクをしないのですが、軽いメイクだけでも十分に人目を惹きつけます。
余談ですが、アケミさんとは友人であると同時に、割り切ったオトナのカンケーでもあります。
年に数回ほどフシダラなコトを致しちゃいますが、今回のセミナーのような会に同行するときは、友人としてのスタンスしかありません。
お互い恋愛感情もないのでこの辺は実にサバサバしたものです。
セミナー初日、私とアケミさんは定刻の30分前に教室へ入りました。
まだ受講者の姿もまばらで、私達は適度に良さそうな席を見繕って座ることが出来ました。
時間つぶしに雑談をしていると、次々に受講者が入室してきます。
自治体主催で参加料が安いせいか、受講者層は実に幅広いようでした。
一番多いのはスーツ姿の社会人ですが、他にもガクラン姿の高校生や関西に多そうなヒョウ柄スパッツのオバちゃん、持参した縁側に腰かけて猫を撫でているジジババまでいます。
そうこうしているうちに、空いている席も数えるほどになりました。
若い男性が空席を探しながら近づいてくると、空いていたアケミさんの隣の席へ腰をおろしました。
私はアケミさん越しにその男性をちらりと観察しました。
高校生……うーん、大学一年生くらいでしょうか、短い髪ときりっとした眉目が印象的なサワヤカな青年です。
(アケミさんの♂センサーが反応しそうだな)
などという私の心の声に感応したかのように、アケミさんは魅惑的な笑顔を浮かべてサワヤカ青年へ粉かけ……げふんげふん、話しかけています。
この年頃の男子は多かれ少なかれオトナの女性に弱いものです。
このサワヤカ青年も例外ではないのでしょう。
座ってからものの三分と経たないうちに、アケミさんのフェロモンビームに陥落寸前です。
彼が『鴨』と『燕』のどちらになるのかは、近日中に判明するでしょう。
(ご愁傷様、チーン)
私は心の中で彼のために手を合わせました。
私は、サワヤカ青年の青春の1ページとアケミさんのハンティングと、それぞれの邪魔をしないように知らん顔でそっぽを向いていました。
「ココ、いいですか?」
突然、すぐ隣から女性の声が聞こえて、私は「えっ」と驚きました。
さっと振り向くと、赤ちゃんを抱いた若いお母さんが私の隣の空席を指していました。
「あ、ハイ。ドーゾ、ドーゾ」
その女性――目がくりっとして見るからにかわいらしい――と正面から視線が合ってしまい、私はどきまぎとしながら席を勧めました。
(どこかで見たことがあるな? ……アレ、もしかして)
女性も私と同じようで、その表情が「あれ?」から「あ!」へと一瞬にして変わりました。
「和也? 和也だよね?」
「敦子……」
私は女性の名前を声に出すのがやっとでした。
まさかこんなとこで昔の彼女と再会するとは……。
「エ~、和也、ヒサシブリだね~。元気でやってたぁ?」
「うん、まあ、ボチボチとね」
敦子とは小・中学校の同級生で、その当時は特に親しくもなく、付き合いだしたのは卒業してしばらく経った22歳の春。
同窓会で久々に会って意気投合し、"何となく"そのまま付き合いが始まりました。
それから一年ほど仲良く付き合いましたが、仕事の関係等で互いの環境が徐々に変わってきて、"何となく"音信が途絶え気味になり、そのまま自然消滅しました。
始まりも終わりも"何となく"というのもいい加減な話ですが、終始貫徹していればそれもまたヨシ! などと、当時はウソブイタものです。
その敦子と約十年ぶりに偶然再会したのですから驚きもヒトシオです。
「いま何歳?」
私は敦子の抱える赤ちゃんを見ながら聞きました。
「ン、来月で一歳。もう手がかかってタイヘンなのよぉ」
幸せそうに言う彼女を見て、私の心はちくりとしました。
別に未練があったって訳ではないんですけどね、我ながら不思議なもんです。
それから間もなく授業が始まりましたが、私達は構わずにずっと思い出話をしてました。
二人で無邪気に笑い合っていると、付き合い始めた頃の、一番楽しかった時に戻ったようです。
そう感じたのは懐かしさだけではありません。
それは、敦子が昔のままだったから。
見た目も話し方も、です。
最後に会った23歳の頃とまるで変わっていません。
言わなければ三十代半ばとは誰も思わないでしょう。
(アンチエイジングっていうヤツかな? 最近の美容技術は大したもんだなぁ)
などと感心ながら、私のハートはドキドキッ☆っとしちゃいました。
気がつくと授業はとっくに終わっており、受講生の半数ほどはすでに教室を出ていました。
ふとアケミさんの事を思い出すと、アケミさんもサワヤカ青年の姿もなく、おそらく連れ立って帰ったのでしょう。
(『お持ち帰り』……かな?)
それなら好都合と、周囲にアケミさんの姿がない事を念入りに確認した上で、私は敦子へ声をかけました。
「駅まで一緒に行こうか」
「うんっ」
セミナー会場から敦子の通る改札までは地下通路で数分だったので、残念ながら「一緒に」というほどではありませんでした。
「じゃあ……またネ」
彼女ははにかんだ笑顔を浮かべて、小走りに改札口へ消えていきました。
私は彼女の後ろ姿を見送ると、いくらかの寂寥とその何倍もの高揚を感じました。
一週間後にはまた彼女に逢える、と。
だからって別にメクルメクフリン的なナニを期待している訳ではありません。
ただ、なんというか、学生の頃の純粋な気持ちに戻ったような、そんな感じでした。
それ以来、毎週金曜の夜のセミナーは、私にとって大きな楽しみになりました。
なにせ、回を重ねるごとにアケミさんとサワヤカ青年の雰囲気がドンドン妖しく淫靡チックになっていく……。
(ヲイヲイ、どーなるんだコレ? 止めなくていーのかコレェェェ!?)
――みたいな、まあ他人のフリしときましたけどネ、ふふふ。
ソレはソレとして、ホントに大きな楽しみになっていたのは、もちろん敦子とのフレッシュな逢い引きの方です。
甘酸っぱいような~、くすぐったいような~(はぁと
敦子も同じだったと思います。
昔とはいえ、心も体もよく知った関係という気やすさと、でも昔とは違うのだと一線を引いた微妙な距離感が、お互いに心地良かったのでしょう。
話す内容といえば、小~中学校の頃の同窓ネタがほとんどで、イロコイ系の話にはならないようにお互い避けていました。
――やけぼっくいにナントヤラですからね。
こうして楽しく金曜の夜を過ごすうちに、セミナーは11回目を迎えました。
残すところ、あと1回。
来週で……終わってしまいます。
(敦子と会えるのも次で最後か)
私は、アケミさんとのカンケーでお分かりの通り、男女の仲について決してクリーンでも聖人君子でもありません。
結構、いろんな女性と楽しんでいます。
それでも、ヒトヅマである同級生とセミナーが終わった後にも逢い引くという事は、著しくフテキセツだろうと考えていました。
せめて、同じヒトヅマでも、同級生とかじゃなくて全く知らない行きずり系ならOK……っと、イヤイヤ、不倫は文化とかそーゆんじゃなくて。
--来週の授業が終わったら携帯もメアドも聞かずに、「またどこかで会おうね!」と言って笑顔で別れよう。
そう心の中で踏ん切りました。
そんな男心を知ってか知らずか、敦子との間にビミョ~~~な空気が漂うようになりました。
きっかけは、敦子がぽつりとつぶやいた一言。
「私たち……あのまま付き合ってたらどうなってたカナ?」
私はとっさに返事に窮しました。
その流れなのか、敦子はダンナさんとうまくいっていない事を語り始めました。
主な原因は、ダンナさんが子供に一切興味を持たないこと。
そういえば、私が敦子の赤ちゃんを軽くあやした時に、敦子がとても不思議そうな顔をしていたのを思い出しました。
その時は、私が赤ん坊をあやすのはそんなに変なのかな、と思いました。
しかし、そうではなく、敦子は、ダンナさんと同世代の男が自分の赤ちゃんをあやす姿を見慣れていなかったようです。
もしかしたら初めて見たのかも知れません。
私が何と言葉にすればよいか困っていると、敦子はくりくりのかわいい目でじぃ……っと見つめてきます。
(見た目は)22~23歳のかわいい女性にこんなにされては、私のよーな30代半ばのおっさんはもうドキドキものです。(///∇///) イヤー
目をあちこちに泳がせていると、サワヤカ青年とチチクリあいながら興味津々でこちらを覗っていたアケミさんと視線が合いました。
するとアケミさんは、
(  ̄ー ̄)b グッ!!
と親指を立てました。
ちょ、待ッ! イケってか? イケってのか!?
でででででもさっ、即座に飛びつくわけにはいかないでしょ。
おっさんにも考えなきゃーイカンことがイロイロあるんですっ。
それにコレは超えてはいけない一線、飛び込んではいけない領域ではないでしょうか。
……でも。
でもね?
少しだけ、そう、ほんの一歩だけ。
ほんの一歩踏み込んでしまえば、そこは――
メクルメク フリンのセカイだお~~(*´ω`*)
もうね、エロスの妖精『ヤケボックル』がどーにか火ィつけようとフーフー吹いてんのが分かるんですよ
フーフー、メラメラ、フーフー、パチパチ
ちょ、やめっ、コレ以上盛り上がっちゃったら家庭が……モラルが……うああぁぁあぁあぁぁぁあああぁ♪
こちらの思いなんか、ヤケボックルは一向にお構いなし、ホントに構わないよ、コヤツはっ
ゲラゲラ笑いながら、フーフーしちゃってんの、顔真っ赤にして
妖精には酸欠とかないんか、ええい、誰かコヤツを止めてぇぇぇ!!!!!
――なとど、私が心の中で葛藤していると、敦子が口を開いた。
「ねぇ、来週は子どもを預けてくるつもりなの。だから、ね? ……遅くなっても平気よ」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ボ ッ (祝・やけぼっくいに着火)
――と、ここで目が覚めました。
……え? ああ、すみません。
夢オチですよ、ベタですが夢オチ。
そんな、ね?
美人ホステスのアケミさんとタダレタカンケーにあるとか、さ。
十年前と変わらない元カノとフシダラナカンケーになるとか、さ。
……そんなんあるはずないじゃないですか……クスン。
あ~ぁ、どうせ夢なら『来週の授業後のイカガワシー展開(R18指定)』を見てから目覚めたかったなぁ。
どんだけやけぼっくいが大炎上してるか、させちゃうか、イヤッ大炎上させずにおくものかっ!!!
って、夢だけど、ホントに楽しみだったのに、はあぁぁぁ……。
ブブブ、ブブブ、ブブブ……
あ、携帯だ、ちょっと失礼しますね。
「ハイ、モシモシ。ああ、アケミさん。どーしたの? え、セミナー? 来週の金曜の夜から12回!?」
――正夢って信じますか?
私は信じたいナー。
ふふふ。
END
お読みいただきありがとうございます。
この作品は実話を元に再構成しております。
コメディにしたかったので、小説作法を無視した手法や顔文字を使って現実感を薄めるチャレンジしました。
このチャレンジによって、読者のみなさんの楽しさが少しでも増えていれば大成功です。
笑って読んでいただけたら幸せです。
ありがとうございました。