わたしは採れたて果実だったらしい
「二十歳を過ぎた女性は熟れ始めた果実と同じなんだよ」
三年振りに会えた婚約者の言葉の意味が理解できず、わたしは首を傾げる。
「僕は採れたての新鮮果実を捜さなければならない」
背が伸びて、声も以前とは少し違う。丸みを帯びていた柔らかな頬はどこかに消えてしまったけれど愁いを帯びた表情は変わらない。
「さようなら、オリビア」
相思相愛だと思っていた婚約者がわたしに別れを告げる。そんなに悲しそうな顔で意味のわからないことを言わないで、会いたかったと抱きしめてくれればいいのに。
追いすがる様に伸ばした手はアーネスト様に届かない。
「誰が腐った果実よーーーー!!!!」
目覚めると、そこは見慣れた自分の部屋のベッドの上。
「お嬢様は腐っておりません。食べごろ果実ですよ」
声を掛けてきたのは侍女のロザリー。
彼女はわたしが第三王子であるアーネスト様にお別れを告げられた現場にもいた。実家である公爵家を離れた今もわたしに仕えてくれているありがたい存在。
アーネスト様から捨てられて以来、恋人の一人もいないわたしは食べごろ以前の問題だと思うけれど。
「もうすぐ日が昇りますよ。早くお仕度なさってください」
ロザリーの言葉にわたしは飛び起きる。
農家の朝は早いのだ。新鮮な果実を朝のうちに採って出荷してしまいたい。
第三王子であるアーネスト様との婚約が決まってすぐに、彼は留学に行ってしまった。一年の留学から帰国後には結婚をする予定だったけれど、留学先の政変に巻き込まれて出国が難しくなり、やっと帰国することが出来たのは予定から三年の月日が過ぎていた。
アーネスト様が帰国されるのをけなげに待っていたわたしはその時、二十一歳になっていた。
彼の留学先は結婚相手の女性は若いことに価値があると言われているらしい。十代のうちに結婚することが常識なその国は海に囲まれた小さな島国。
塩害で育つ作物が限られたその土地では新鮮な果実はなかなか手に入らない。そのせいで、女性を果実に例えて、新鮮なら新鮮なほど価値があるという変な文化が出来上がったと聞く。
そんな環境で三年以上を過ごしたアーネスト様はすっかりその土地の風土に馴染まれておしまいになって、彼を待っていたおかげで二十歳を超えたわたしを新鮮な果実ではないからとあっさり捨てたのだ。
新しい婚約者を斡旋するから穏便に婚約を解消してほしいという王家からの願い出に、わたしは条件を出した。
新たな婚約者は不要なので、王家が所有している広大な果樹園を慰謝料として下げ渡してほしい。その願いは受理され、不憫に思ったのか伯爵という地位まで授けてくれた。
そんなこんなで、わたしは今や国一番の果樹園を運営する女伯爵だ。
「今日もガンガン採ってジャンジャン出荷するわよーー!!」
日よけのスカーフを巻きながら、わたしは果樹園に向かう。
果物は時期によって甘さや香りが変化する。
消費者の手元に届くときが最高の状態になるように、最高の状態で収穫して最短で市場へ出す。
完璧に熟した美味しい果物を、わたしは早朝に収穫してその日の市場へ出荷する。
これまでは収穫の翌日にまとめて運送されるため、市場に並ぶのは早くても収穫から二~三日後だった。
わたしがこの果樹園を譲り受けてからは早さこそ勝負と、自ら日が昇りきる前に鋏を持ち、独自の運送ルートを確保して最短で市場に並べることが出来るようになった。
おかげで、オリビア印の果樹園はブランド化し、高級贈答品として今や予約待ちの果樹もある。形が悪い果物はジャムなどの加工品に回す他、一部は規格外品として低価格で地元の人たちに販売している。
この果樹園に関わってくれる人たちが、自分たちが作った果物の味を知らないということにならないよう、旬の時期には採れ過ぎた果実をおやつ代わりに食べてもらって、美味しい物を作って届けるパワーにしてもらっている。
果樹園が軌道に乗り、二年前から国の要請で他国からの研修生を受け入れるようになった。
「おはようございます!」
麦わら帽子から黒髪をのぞかせて、元気よく挨拶してくれるのはこの国では見かけない浅黒い肌をした彫りが深い男性。
朝の太陽よりも眩しくて爽やかで、わたしは目を細める。
「おはよう、ゴッダ。今朝も早いわね」
研修生である彼は伝えている集合時間より、いつも三十分は早く現れる。
早朝の眠さを吹き飛ばしてくれそうな端正な整った顔立ち。快活なゴッダはいつも楽しそうに農作業をしてくれる。
「オリビアこそ。いつも一番ですね」
経営者として書類仕事は山積みだし、営業も兼ねて人と会う約束も多い。
公爵令嬢として蝶よ花よと育てられたわたしは、待ちわびた婚約者に振られ、なかば自暴自棄に自分を果物に見立てて捨てた相手への反骨心から自ら果樹園の栽培に関わることを決めた。
面積だけは国一番だった果樹園の経営、栽培にテコ入れをして、今では売り上げも国で一番な果樹園にすることに成功した。
果樹園の人手は充分だし、信用がおける従業員たちが滞りなく作業をしてくれる。けれど、まだ日が昇りきらない静かな果樹園がわたしは好きだ。朝日を浴びてツヤツヤと輝く果物を収穫することは、単純に楽しい。
だから、時間が許す限りわたしは果樹園に立つことにしている。
「今日も完熟した美味しい果実だけを採ってね。まだ青い若い果実は絶対に採ってはダメよ」
アーネスト様が求めていたような若い果実はまだ苦みが残り美味しくない。
わたしは育てた果実は最高の状態で出荷することを理念に掲げている。
追熟が必要な果実はその期間を考慮して収穫して、追熟しない品種はギリギリまで木の上で熟すのを待ち、採れたてを出荷する。熟れ過ぎた果実はジャムなどに加工して、姿形は変えてもやはり最高の状態で市場に送り出す。
我が農園で育てた果実はどんなに熟れても美味しくいただいてもらえる。
これはきっとわたしなりのアーネスト様への復讐なのだ。
アーネスト様が留学していた間、わたしは王子妃教育はもちろん美しくなる努力をして、社交にも力を入れて、出来る努力は全てしていたつもりだ。
二十歳を過ぎたからという理由で捨てるに惜しいほどの女性になっていたと自負している。
そんな想いを勝手に果物に込めて、絶対に最高の状態で美味しく食べてもらうと決めている。どんな状態になっても例え旬が過ぎても、最高の状態で出荷してやるのだ。
「あ~、うまっ」
作業の手を止めて、ゴッダがブドウを口に運んでいる。
三年目の今年、やっと収穫できる量が取れる見込みの大ぶりな実をつけるブドウ。
彼は売り物には極力手を出さない良識を持っているので、収穫の際に落ちてしまった実を口に入れたのだろう。
「糖度が高くて見栄えもいいから、今年のうちの主戦力よ」
「これは絶対に売れますね。美しいし美味しいし、最高級のオリビアみたいだ」
最後の一言に驚いて振り返る。
目の前に大きな一粒を差し出されて思わずパクリと頬張った。
瑞々しくて美味しい。さすがわたしの果樹園の子。
背の高い彼が「美味しいでしょう」と自慢げに微笑んでいる。わたしの果樹園の子なんだけどね。もちろん、あなたを含めた農園のみんなで育て上げたんですけど。
「俺の国では『年上の嫁は金のブーツを履いて探せ』てことわざがあるんです」
ゴッダは確か二十二歳。二十六歳のわたしより四歳年下だ。
「すり減らない金のブーツを履いて探すだけの価値が年上の女性にはあるんだよ」
ゴッダは流暢にこの国の言葉を喋るけれど、時折敬語が崩れる。膝を曲げて、身長差があるわたしの目線に合わせて言ったその言葉に意味はあるのかないのか。
逸る胸に気付かない振りをして、わたしは収穫に戻る。
◇
一応伯爵という地位を得ているため、時には社交活動も行わなければならない。
今夜は実家でもある公爵家での夜会に参加する予定だ。
「今日もとっても素敵ですわ」
ロザリーが中心となり、わたしの身支度を整えてくれる。
未婚女性は男性にエスコートされて会場入りするのが常識だけれど、わたしは婚約を解消して以来、一人で行くことにしていた。
パートナーがいないわたしは色味やアクセサリーを相手に合わせる必要がないので、わたし一人で完璧になるよう、ロザリーはいつも最高の状態に仕上げてくれる。
「今夜も我が果樹園の宣伝をしてくるわ」
社交の場は時に商談に繋がる。
今夜は実家での開催なので、デザートには我が果樹園の果物をふんだんに使用してもらった。そこを糸口に会話を広げられたらラッキーだけど、単純に公爵家お抱えパティシエの作るデザートも楽しみだ。
夜会が始まり一通り顔見知りと挨拶をして、ダンスもせずにわたしはデザートが並ぶ一角に向かう。
桃のタルトにマスカットをゼリーに閉じ込めたテリーヌ、ベリーを載せたレアチーズケーキ、メロンのカスタードパイ、生クリームたっぷりのフルーツケーキ。
どれも宝石のように美しい。公爵家のパティシエが作ったのだから、絶対にどれも美味しいはずだ。
「オリビア?」
名前を呼ばれて振り向くと、皿に山盛りのデザートを盛りつけたゴッダが立っていた。
「どうしてここに?」
我が果樹園に研修生として来ているゴッダは、普段の作業着姿ではなかった。彼の国の伝統ある衣装を身に纏っている。黒のジャケットに金色のエポレットが映えたその衣装は、背が高く浅黒い肌のゴッダによく似合っていた。
「ゼリーは食べた? チーズケーキは?」
わたしの問いには答えず、何を食べたか聞いてくる。
「まだよ。どれにしようか迷っていたところ」
「全部美味しいけど、特にそのまま果実が入っているマスカットのテリーヌを最初に食べるのがオススメですよ」
なんとゴッダはすでにすべてのデザートを食べ終えて、今は二巡目に入っているらしい。どの順番で食べるとより美味しく味わえるかを一生懸命レクチャーしてくれる。
騒がしくなった会場に目を向けると、第三王子であるアーネスト様が入場していらしたようだ。
今年社交デビューしたばかりの伯爵令嬢をエスコートしている。
気のせいかもしれないけれど、周囲の視線を感じた。
滅多にないことだけれど、かつては婚約者だったわたし達が社交の場で鉢合わせすることは稀にある。その度に周囲の腫物に触るような態度に、わたしは勝手に傷ついてしまう。
わたしとアーネスト様の婚約が解消されてから約五年が過ぎた。
わたしは独身のまま伯爵となり果樹で成功を収めている。
アーネスト様も未だ独身のまま。婚約者を作らず、常に若い女性を連れていた。
「やあ、オリビア。久しぶりだね」
わたしの気持ちも周りの好奇心も気にすることなく、アーネスト様は声を掛けて来る。
「お久しぶりでございます」
膝を折って挨拶を返す。
「相変わらず独りで夜会に参加したのか」
誰のせいだと思っているのか。答えに窮して曖昧な笑みを浮かべた。
アーネスト様の呟きのような問いには答えず、簡単な近況報告のような挨拶を返す。
隣に並ぶ若くて可愛らしい令嬢もご紹介いただいて、「では」とその場を離れようとしたわたしの背に、アーネスト様は言葉を掛けてきた。
「僕が留学していた国では若い果実こそ宝だったけれど、最近、熟した果実も使い道があると教えてくれた者がいてね」
アーネスト様が嘗め回すような視線を向けてくる。
隣のご令嬢がギョッとした表情でアーネスト様を見上げるが、その視線に気付いていなようだ。
かつては目が合うだけで頬を染め合ったというのに、いつの間に品定めするように女性を見るようになったのか。
どこから見ても完璧と言ってわたしを送り出してくれた侍女たち。こんな男の目を潤すためではないはずなのに。
「次の夜会は僕がエスコートしてあげよう」
その言葉にゾッとする。
わたしを熟れ始めた果実だと言って、新鮮ではないからと婚約を解消したはずなのに。
アーネスト様はわたしとの婚約を解消されてから何人かの女性と浮名を流していた。どの方もまだ社交デビューしたばかりの若い、彼の言葉を借りれば新鮮果実だった。
誰の手垢もついていないような無垢な彼女たちは、教養もマナーも完璧で家柄も求められる王子妃に選ばれることは難しい。
アーネスト様が求めた新鮮果実たちは、彼の妃になれなかった。
きっと、今夜隣に立つ表情がコロコロと変わる可愛らしいご令嬢もそうだ(もっとも急におかしなことを言い始めた殿下に対するお気持ちもお顔に現れているので、彼との将来はもう望んでいなさそうだけれど)。
いつまでたっても結婚はおろか婚約者も立てることが出来ない彼に、きっと誰かが言ったのだ。古い果実に王子妃の責務は任せればよいと。
一代限りの伯爵となったわたしが、王家からの打診を断れるだろうか。まだ決まってもいない、けれど嫌な予感にゾワリと鳥肌が立った。
「オリビアが夜会に一人で出るのは今夜が最後ですよ」
先ほどまで気配を消しているかのように静かだったゴッダが、わたしの隣に並ぶ。
「きみは、サウンデッド帝国の……」
ゴッダを見て、アーネスト様が驚く。
彼は大国サウンデッド帝国からの農業研修生。その立ち振る舞いからただの農家の子息ではないのでは? と思うこともあったけれど。
「ゴッダ・テトリラスと申します。お見知りおきを」
大国とはいえ、陸路でも海路でも遠い距離のサウンデッド帝国との交流は盛んではない。主流の王族くらいは頭に入っているけれど。
確かテトリラスとは現在の王の弟が臣籍降下して与えられた公爵位ではなかったか。年齢から考えると、ゴッダは王弟の息子、だろうか。
我が農園に迎えた研修生達は、この国と交流が盛んなあちこちの国から受け入れている。
身元がしっかりした意欲のある者達として国が保証してくれているので、国際交流の面が強い研修生達の素性を、わたしはあえて調べたりはしなかった。
良家のご子息だろうと思っていたゴッダが、実は大国の王家の血筋だったとは。
注意してみると、彼の今日の衣装は伝統的なサウンデッド帝国のそれだ。
「俺の国では食糧難の時代があって、大切な食べ物を相手に贈ることでプロポーズをする文化が出来たんです。相手の手から直接、口に食べ物を受け入れることで信頼と愛情を受け入れてもらう」
ゴッダの手がするりとわたしの腰に回される。
「オリビアは今朝、俺の手から直接ブドウを食べてくれたからね」
語尾にハートがつきそうな甘やかな声音で、わたしの顔を覗き込む。
確かに、今朝、ブドウをその手から食べた。
年下の他国の、よく働く男の子。
わたしには大切な自分の果樹園が。
結婚なんて、あれ以来考えたことがなくて。
「俺の家も果樹園があって、こことは違った品種もたくさんあるよ。研究も盛んだから土壌改良や品種改良なんかも相談に乗れるし」
断る理由を口にする前に、ゴッダが新たな情報を出してくる。
「来年には国をまたいだ鉄道が通る計画が本格化するから、数年後には移動の時間も大幅に短縮されるしね」
グッと言葉に詰まるわたしにゴッダは追い打ちをかける。
「僕が婿にいってもいいし、お嫁に来てくれてもいいよ」
よく働いて貪欲に学ぶ農業研修生。
ゴッダがわたしを見つめる瞳にいつしか特別な感情を滲ませるようになってきたことに気付かない振りをしていた。
いつか国に帰ってしまう人。
わたしは若くないからと振られたあの頃から、さらに年を重ねた。
誰かに値段をつけられるような生き方はしない。
アーネスト様との婚約を解消してから、わたしは自分を他者の判断に委ねることを止めた。自分の足で立ち、自分で自分の価値を決めてきた。
愛情を差し出すことに怯えていたわたしの瞳をまっすぐに見つめてくれる。
「果物は熟してからが一番美味しい。今日も明日も、オリビアはきっとずっと食べごろだから、毎日あなたを味わわせて」
顔を寄せて耳元でそっと囁かれる。
一瞬で体中が沸騰したみたいに熱くなった。
「オリビア? 大丈夫!?」
へたりと倒れこみそうになったわたしを、ゴッダの大きな手が受け止めてくれる。
柔らかな土に植樹する時も、落ちた果実を拾う時も、枯れた葉を掃き集める時も、彼はいつも穏やかに、けれど好奇心に満ちた瞳をしていた。
きっと彼ならばお互いに変わりゆく姿を愛おしんでいけるだろう。
「待て、どこに行くんだ」
倒れこんだわたしを介抱しようと抱き上げたゴッダを、アーネスト様が止める。
「婚約者が疲れたようなので、控室で休憩を」
アーネスト様がわたしに言った言葉はなかったことにするかのように、『婚約者』と語気を強めて言った。
一時の感情で振ったわたしのことを、アーネスト様がずっと執着していたことは知っていた。
出席予定のない夜会に若い女性を連れて突然現れて鉢合わせしたり、誕生日には贈り物も送られてくる。
いつまでもかつてのようにわたしの心は自分にあると勘違いしておいでだったのだ。いつでも、彼の言葉ひとつでわたしは戻ってくると、そんな馬鹿なことを思っていたのだろう。
婚約解消の慰謝料として譲り受けた果樹園はただ広いだけの国営の土地だった。そこで最高級の果樹を育てて売り出し、観光地化までした
今では金の成る木となったそこをわたしとともに王家に戻す目論見もあったのだろう。
そんな浅はかな男だから、今も若い女性にしか相手にしてもらえず、それも短期間で終わりを告げる。まともな仕事もせず、留学期間のつらかったことを今でもグチグチと話しているらしい。
わたしが採れたてではない熟した果実なら、彼は青いうちに枝から落ちた果実だ。
熟すことも出来ず、甘やかに匂い立つこともない苦いだけの果実は地に還るしかない。
「アーネスト様、さようなら」
かつての婚約者に別れを告げる。
心の底にはずっと彼に対する淡い初恋が埋まっていた。
けれど、もうその実は木から落ちて、青いまま朽ち果てた。
今は、新たに芽吹いた果樹を大切に育てていく。
日の当たる場所で水をやり肥料をやり、時には余分な枝を切り落として。いずれたくさんの花をつけ、美味しい果樹をわたし達に与えてくれるだろう。
◇
ゴッダを婿に迎えて十年が経った。
我が果樹園はますます売り上げを伸ばし、高級果樹として一部は外国へ輸出もしている。
結婚当初に比べれば陸路も海路も発展して、以前よりは気軽にゴッダの祖国にも行き来することが出来るようになった。
「オリビアー」
わたしを捜すゴッダの声に「はーい」と返事をする。
子供たちと一緒に草むしりをしていたわたしを見つけ、ゴッダは嬉しそうに笑った。
「もう、あたちもいるのよ」
「僕だって」
下の子二人が不満そうに頬を膨らませるが、長女は呆れたように腰に手を当てて言う。
「お父様はお母様をとっっっても愛していらっしゃるから、一秒だって離れていたくないのよ」
子供たちの言葉に、ゴッダは大きく頷く。
「きみ達のことも、もちろん愛している」
ゴッダがしゃがんだままのわたしを後ろから抱きしめるので、彼の柔らかな髪が首筋にあたりくすぐったい。
「でも、オリビアは特別」
そう言って、わたしに優しく触れて、匂いを嗅ぐ。まるでとっておきの果物にするみたいに。
「わたしも愛しているわ」
一日に何度も言っているというのに、ゴッダは毎回とっても喜ぶ。
強く抱きしめられ「きゃあ」と倒れこんだわたしに子供たちが「お母たまを助けなくっちゃ!」と飛びついて来る。
三人の子供と、わたしをこよなく愛している夫と息が切れるほど笑い合うのが、今のわたしの日常。
かつての婚約者に、新鮮な果実ではないからと別れを告げられた。
わたしは果物ではない。それに、あの頃よりもっと新鮮でもないだろう。
けれど、大切に育てている我が果樹園の果樹たちと同じように、精一杯根を張り枝を伸ばし葉で光を浴びて、ぐんぐん水を吸い込んで。いつまでも成長していこうと思う。
愛おしい家族と一緒に。




