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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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「指輪のハジメ」

作者: ふじきり
掲載日:2026/05/13

 期間限定・忘れ物販売所でひとつの指輪を買った。

男なのに明らかに女物の装飾された紫色の四角い石が付いた指輪だ。「誰に」ってわけじゃなくて、たただ見て楽しむために買った。

「綺麗だな……」

 時々光にかざしてはそのキラキラ具合を楽しむ。それで十分だと思った。

 男の名前は井水良平。平凡な独身会社員だった。手取りもそれなりなのでマンションなんかには引っ越しも出来ない。ただの木造アパート暮らしだ。

その男が唯一ちょっとだけ自慢出来るのは部屋にある出窓だった。

たまたま角部屋が空いていたので入ったのだが、住みだしてから出窓ってちょっとお洒落でいいなと思うようになっていた。

そこに綺麗な皿を置いて指輪を置いて楽しむ。二階だから出来る楽しみでもあった。


でもある日、それが変わった。

朝起きたら出窓に男が腰かけていたのだ。

「ぇっ……。えっ、ちょっと! あんた、誰!? なんでそこにいるん!?」

「いつも愛でていただきありがとうございます。指輪の精・ハジメです」

「はっ!?」 何言ってんの!?

 しかし男の恰好を見ればちょっとそれも納得してしまう物があったりした。

男の服装はヒラヒラスケスケの布を纏っているだけの姿だったのだ。髪は金髪。顔付からして日本人ではなかった。そしてとても綺麗だったので、思わず見とれてしまうくらいだった。

「あっ! 駄目駄目駄目駄目っ。はいっ、夢! これは夢! あー、何も見えないっ。俺は何も見ていないっと!」

 相手を無視して手っ取り早く支度をすると五分で家を出た。

ガチャガチャと鍵をかけると駆け足で家から遠ざかる。そして距離を置くとやっと振り返り自分の部屋を見てみるが、当然出窓の部分は見えず、見えるのは玄関ドアが一部分だけだった。

「あの部屋に帰るのか……」

 そう思うと気が重かった。

「泥棒ではない。でも普通の人間でもないよな……。あのナリ……。演劇かなんかみたいな服装……」

答えは皆目分からない、だ。だけど帰らないと。自分の家だし。そう思いながら部屋のドアをそっと開けて中に入る。

「あ、おかえり」

「ぇ……」 まだいるんだ……。

「普段はあんなに優しくしてくれるのに、どうして逃げるんです? 私、やっとカタチになれたのに……」

「……あんた、誰?」

「指輪の精・ハジメです」

「人間じゃなくて?」

「優しくしていただいたので貴方に見えるカタチになりました。これからも愛でてくださいね?」

 可愛く首を傾げてくる美青年。でもそんな言い分すぐに信じられるわけもなくて、どうしたらいいのかとても迷う。

「お前のその名前……」

「昔ご主人だった方から頂いた名前です」

「ぁ、そう」 そういうのもアリなんだ……と簡単に納得してしまった。


本来名前なんてなかった者に名前を付けてしまった時点で、もしかしたらこいつが生まれてしまったのかもしれない。


困るんだよな、そういうの。

思ってはみるが、それが正解かどうかも分からない。でも指輪を気に入ったのは事実だし、この男の言っていることが合ってるとしたら多分消えない。

「えっと。俺は忘れ物販売でこの指輪が気に入って買った。お前はこれにくっ付いてる人型ってことでOK?」

「合ってるようで合ってません。私はくっ付いてるわけではなく指輪の、正式に言えば指輪の石です。綺麗にしてもらえたので私も綺麗なはず。優しくして頂けたのでカタチになれました。ありがとうございます」

「うーーーん」 そういうものなのかな……。そう考えればそうなのかな……とも思うけど、頭のオカシイ奴なのかなともちょっと思う。だけど上から下まで何度見てみても害があるようには思えない。その点は安心だと判断した。

「お前、飯とか食うのか?」

「食べろと言われれば多分大丈夫。でも優しく撫でてくれたり、話しかけてくれた方が嬉しいかもです」

「へ、へぇ……」

 そう言われて返事に困るが食費が倍になるのはちょっと困る。考えているとスタスタと近寄ってきたハジメが顔を覗いてきた。

「ご飯、食べないんですか? 私、作ります?」

「出来ないだろ」

「見てたから多分出来ますよ?」

「見てた?」

「毎日ここから見てたから」

 腰かけていた出窓を指さす。

「お前さぁ……」 いいよ、そんなことしなくて。

 服装からしてすぐに火がついてしまいそうな恰好からして無理があると思えた。

それに「見てただけ」で「作ったことがある」とは言ってないのだ。良平は黙って彼の両腕を掴むと静かに床に座らせた。

「自分の物は自分で作ります。座って待ってて」

「そう、ですか?」

「そうですっ」

 良平は腕まくりをしながら冷蔵庫から食品を取り出すと、鍋でお湯を沸かしながら野菜を切って肉を炒めた。

「まずその服装、どうにかしような」

「どうしてです? こんな感じ嫌いですか?」

「好きとか嫌いとかいうより時代に合ってないから」

「そうですか……」 案外気に入ってんですけどね……。

小声で言いながら自分の服装を改めて見ているハジメ。

体格は良平よりもデカかったから、ちょっと可愛がり過ぎたかな……? とも思った良平だった。 終わり

20260512



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