Grand King④
『 俺のネガキャンしてくれない? 』
確かに目の前のまるで全てのパーツをAIで算出し出力したのだと思い違う程に整った顔面のレン様はそう言った筈だ。
「ネガキャンって・・・?」
この言葉の意味を私は知っている。しかし、脈略も無く突然言われた言葉だったから動揺のあまり私は思わず聞き返した。
「え?ネガティブキャンペーンの事だけど・・・アンタ、SNSやってる筈だよね?あれっ・・・人違い?」
彼が私に返した言葉に驚愕し、私は再び彼が発した言葉の一部を疑問形で返した。
「えすえぬえす・・・??」
「えっ、SNS知らないの?」
「そっ!それは流石にわかります!!あとっ・・・、ネガキャンの意味もわかります・・・びっくりして一瞬だけ何の事かわからなくなっただけで・・・」
私はうっすらと目の前で今起きていることは非現実だと思い込んでいた脳が、現実を見ていると自覚した事により、出された信号で普段の倍鼓動を打ち始めた心臓を何とか正常に戻そうと胸を叩き、深呼吸してから彼にこう聞いた。
「ふぅ・・・・・・ど・・・どうして私に?SNSなら貴方のファンなら他にも沢山やってる人いるはず・・・・・・」
「それ、着けてたから」
レン様はさっきと同様に、【レン様ぬいぐるみ】を指指した。
「そのぬいぐるみの衣装、自作だよね?その"衣装の俺"はまだぬいぐるみ化してない筈だから」
「で・・・でも・・・!自作の衣装を着せてるオタクなんて・・・ほ・・・他にもたくさん・・・」
「いや、ここまで精巧に俺の『 戦闘衣装 』をぬいぐるみの規格に落とし込みながら再現している人間なんて一人しかしらない、『 なちゅ・・・・・・」
「わーーー〜!!!!!!」
私は叫びながらレン様の口を塞いだ。
レン様の口から出た二文字の単語は私がこっそり自作のレン様ぬいぐるみ動画を投稿しているSNS『 Eritter 』のアカウントでわたしがニックネームに設定している名前の前二文字と一致していた。
な・・・なんでレン様の口から私の『 Eritter 』の垢名の名前で出そうになったの・・・?
レン様のお目汚しにならない様、ブロックしてた筈なのに・・・。
ていうか。今、私何やってるんだ?
目の前にレン様が居て・・・その口を何故か私の手が塞いで・・・いる・・・?
「あっ・・・!えっ・・・!あっ・・・!あぁ・・・!」
レン様の口を塞いでしまった手を話したもののパニック状態の私の口からは言語にもコードにも類しない音が漏出し続ける。
レン様の口がまた動き、何かの言語を発しているが全く理解出来ない、それは完全に脳の許容量を超えていた私の意識が完全に消失する前触れであり、徐々に私の視界と耳界から脳に送られる情報がフェードアウトしたのだった。
目を開くと、まず真っ先に目に入った物は空だった。
そして、次に水が吹き出す音が消える、心做しか、少し涼しい。いや、それは当たり前か・・・だって、夜なんだから。
ここは何処かと視線を動かすと、大きな噴水が目に入った。
なるほど、今涼しく感じているのは「夜だから」だけが原因じゃ無かったのか。
噴水があるという事は、ここは恐らく学園の第3エリア内の大広場だろう。
という事は、私が今横になっているのは広場内のベンチの上で・・・・・・。
と、状況が理解出来てきた所で、私はついさっきまで目の前で起きた夢としか思えないシーンが蘇る。
フードを脱ぐレン様、話すレン様、そして・・・・・・
何故か私のEritterのニックネームを知ってて、それを口にしようとしたレン様の口を反射的に塞いでしまったシーンも。
私は飛び起きる様に上半身を起こすと、辺りを見渡す。
だけど、周りには誰もいなくて、噴水が吹き出す音だけが聞こえる。
「もしかして・・・夢・・・?」
「いや、夢じゃない」
「えっ!?」
突然、人が居なかったはずなのに、返事が聞こえた方向に振り向くと、そこにはレン様が立っていた。
「あと、少しで起きなかったら、これ置いて帰ろうと思ってた所だったよ」
と、言いながらレン様は私が座っているベンチの傍まで近づくと、手に持っている蓋付きのカップを私に差し出した。
「寒いから」
「そ・・・そんな!とっ・・・とんでもないいい!!」
私は慌ててブンブンと首を振った。
推しから飲み物を頂けるなんて、そんな夢見たいな事現実であってはいけない!
これを受け取ってしまったら、今後友達や家族から誕生日に貰うプレゼントを特別に感じなくなってしまうかもしれないから。
「いいから、受け取ってくれ、依頼費も込めてるから」
「い・・・・・・依頼費・・・・・・?」
「Eritterの事だよ。「俺のネガキャンをしてほしい」って奴、勿論、これだけじゃなくて、言い値も払うつもりだけど」
「・・・それなら、尚のこと・・・受け取れません・・・・・・」
「―――――― 」
いっ・・・・・・いっ・・・・・・言ってしまった・・・!!
目の前の推し様の言葉にあろう事か口答えしてしまった・・・!!!!
私はなんて軽率な事を・・・・・・!!!
ても、他に言い様が無かったのも事実。
だって、最推しのネガティブキャンペーンなんて・・・・・・やっばり、出来るわけが無いから。
「そう・・・・・・悪かった俺も最近疲れてどうにかしてたよ、ごめん、依頼の事は忘れてくれ」
レン様は寂しそうに言うと、私の横にカップを置いた。
「じゃあこれは付き合って貰った例だと思って・・・」
レン様は言うと物悲しそうに去ろうとした。その瞬間。
「待ってください!」
気づいたら、私は去ろうとするレン様を呼び止めていた。
「どうして・・・どうしてネガキャンされたいんですか・・・?」
聞いては行けない事なのかもしれない、というか推しの心情を知ろうとするなんて、烏滸がましいにも程があるだろう。
けれど、そのオタク意識を無くしてまで今聞かないと
私は一生後悔する気がした。
「俺・・・もう学園ランキングで勝ちたくないんだ」
背を向けたまま、レン様は言った。




