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【毎日更新】魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~【45話で完結】  作者: 鷹茄子おうぎ


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シンビネの策略

巡回馬車に乗ってライラリッジを北へ北へ。ライール川に架かる優美なアルコイリス城を素通りし、馬車がこれといった特徴のない街の一角に差し掛かったところで、シンザーは御者に降りることを伝えた。どうやらここがシンザーの目指していた目的地のようだ。


「それで…ここには何があるの?」

シンザーは何も教えてくれないが、ウィズモアはかえってワクワクしていた。


「何があるのか?ではなく、誰がいるのか?だな」

これといった特徴のない街の一角に相応しい地味なアパートの一室、シンザーはウィズモアの質問を訂正しながらドアノックを叩いた。


「誰だ?」

「シンザー・アーチバルド」

誰何の声を上げた男に対して、シンザーは簡潔に自分の名を名乗った。


ドアの覗き窓が開き、中から外の様子を窺う男がいる。それに対して、シンザーはリラックスして自分を晒した。一方で、シンザーの隣に立つウィズモアは、何一つ見逃さない心づもりで周囲を観察している。


今後のことを考えると、好奇心だけで物事を見ていては駄目だ。それは野次馬のすること…これからの私は違う。決意を新たにするウィズモアを尻目に、男はシンザーのことをじっくりと観察してからドアを開け、2人を中へ通した。


「久しぶり…って訳でもないか。元気にしてたか?デレイン」

シンザーが訪ねた男はデレインという名のようだ。たぶん、何でも屋を生業としているんだろうな…シンザーが気さくに声を掛ける横で、ウィズモアなりに有言実行である。


「ああ…元気にやってるよ。お前はともかく、そっちは?」

デレインの興味は、シンザーからウィズモアに移ったようだ。


「ウィズモア・ラヴァリーノです」

どこまで話していいのか分からなかったので、ウィズモアは最低限のことだけを話すことにした。


「ああ…その節はウチの、ファブロス隊のヤツらが迷惑を掛けたな」

ウィズモアの髪はルビーのような深い真紅で、それほど明るくない室内にあってもキラキラと輝いているように見える。それもあって、赤い髪の女がライラリッジに現れた直後の捜査で、ウィズモアは捕縛されるという憂き目に遭った。


「ん…いい経験ができたから、迷惑じゃなかったよ」

デレインは申し訳なさそうだが、ウィズモアはそれほど気にしていなかった。魔法戦士のあれやこれやに興味が尽きないウィズモアにとって、独房に入れられることはそんなに悪い話ではない。


とは言え、ラヴァリーノ家の人間が独房に入れられるなど、あってはならないことだ。すぐにウィズモアの父カルドソのもとに知らせが届き、激しい抗議がなされた。


ウィズモアは独房生活を堪能することなく、あっさりと釈放されてしまった。気持ちは分かるけど、ちょっとやり過ぎなのよね…ウィズモアはそう思っているが、あの父なら仕方がない。


もっともウィズモアに落ち度がなかった訳ではない。巡回中の魔法戦士に名を尋ねられた時、ウィズモアはただのウィズモアと答えている。その時にウィズモア・ラヴァリーノと答えていれば、その後の展開はまったく違うものになっていたはずだ。


迷惑をかけたという自覚はある。なので、自身の推しの一人でもあるテネラニの絵をプレゼントした。可愛い娘からのプレゼントということもあり、カルドソはとても喜んでくれた。だから、ウィズモアは終わりよければ全てよしと思うことにした。


ウィズモアの反応が意外だったのか、デレインはクククと笑った。噂には聞いていたが、たいしたヤツだ。シンザーの相棒にはちょうどいいかもしれないな…そんなことを思いながら、デレインはシンザーに向き直った。


「今日は何の用だ?この前も言ったが、立場を考えると用もないのにここを訪ねるのはいただけないな」

デレインは一応シンザーに苦言を呈した。聞く耳を持っているとは思っていないけれど。


「問題ない。今日は仕事だ」

おそらくそれは予想していなかったのだろう…デレインは本気で驚いている。これにはウィズモアもクスクスと笑ってしまった。


「聞かせてもらおうか…」

平静を装っているが、関心を持っていることは隠せない。デレインは身を乗り出してシンザーの話を聞くことにした。


「こいつだ」

シンザーは懐から取り出したテネラニ追悼展のチケットを、デレインに見せた。


「テネラニの追悼展か…これはシンビネが配っていたな」

デレインは何でもないことのように言ったが、それはシンザーの見立てが正しかったことを裏付けるものだ。ウィズモアは思わずこくこくと頷いてしまった。


「俺の知る限り、貰ったヤツらはみんな売り払っていた…俺も売った。興味はあるが、目立ちたくないからな」

デレインは少し残念そうだ。シンザーと違って、ガラの悪そうな見た目からはそういう分野に縁遠い感じを受けてしまうが、実は絵画鑑賞を趣味としている。人は見かけによらないということだろう。


「ここにくる前にチケ屋のナザリトの所に寄ってきた。こいつは大暴落しているそうだ…シンビネは何でこれを何でも屋に配ったんだろうな?」

シンザーの目つきが鋭くなった。デレインの一挙一動を見逃さない目だ。


「シンビネが何を考えているのか…そんなことは俺にも分からん。だが、ナザリトに損をさせようとしてやっている訳ではないはずだ」

「そうだな…それはあり得ない」

デレインの見立てに、シンザーは納得しているようだ。でも、ウィズモアはちっとも納得できない。


「今のところは損をさせているようにしか見えないけど…」

それはウィズモアだけでなく、裏の事情を知らない者なら誰もがそう思うだろう。それにはシンザーが答えてくれた。


「シンビネも若い頃は何でも屋をやっていた。その時、行動を共にしていたのがナザリトの父だ」

「じゃあシンビネって人は結構なお年なの?」

「そうだな…もう60は越えているはずだ」

シンザーとウィズモアのやり取りを、デレインは温かい眼差しで見守っている。


「もう何十年も前の話だから、何があったのかははっきりとは分からない…確かなことはシンビネが何でも屋をやめて『風のささやき亭』を始めたのと、ナザリトの父が死んだのは同時期だってことだな」

これにはデレインもこくりと頷いた。


「絶対に返せない借りがあるってこと?」

「たぶんな」

神妙な顔つきで聞いてきたウィズモアに、シンザーは今日の天気でも話すかのような軽い口調で答えた。


「じゃあ、このチケットはこれから値上がりする可能性が高いってこと?」

「そういうことになるな…」

やはり何らかの事件に繋がる可能性があるのだ。これにはシンザーはもちろんのこと、ウィズモアも確信を持った。

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