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魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~  作者: 鷹茄子おうぎ


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それぞれの目的

「そして、この前の切り裂き事件に繋がる訳か…お前さんがあの場にいなければ、どうなっていたか分からんな」

シンビネは重々しい口調であの事件を評した。


これにはシンザーもデレインもこくりと頷く。女の魅力について散々語り尽くし、脱線に脱線を重ねた話はようやく元の話に戻った。ここからは真面目に話が進むことになりそうだ。


「確かにお前ほど勘がいいヤツはいないな」

デレインは少し茶化すような物言いだが、これ以上ないほどにシンザーを称賛していた。


「裏から手を回していたヤツがいただけさ。たぶんカルドソだな…それがなければ、俺じゃなくても気付いているよ」

シンザーの言い分は、決して謙遜ではない。それからとんでもないことをさらりと言ってのけたが、それについてはシンビネもデレインも聞き流すことにした。


「まあ、心中なのに死に方が違ったり、テネラニを恋愛に奔放な男に仕立てようとしたり…やり方は杜撰だったな」

一通り説明されただけなのに、シンビネは押さえるべきポイントをしっかりと押さえている。これにはシンザーだけでなく、デレインも頷いた。


「だが、早咲きのツバキや額縁についた繊維片に気付いたのはたいしたもんだ」

「まあな」

デレインは感心しながらそれを指摘し、もちろんシンザーも否定しなかった。


「テネラニとノガラが出会った時、ツバキの花は既に散っていた…ほんの小さなミスが大きな影響を与えちまったな」

シンビネが嘆息しながら漏らした感想には、誰もが同意するはずだ。


2人が出会った設定をあと1ヶ月…いや、2ヶ月前にしておけば、その後の展開はまったく違うものになっていただろう。そういう意味では運がよかったな…シンザーはそう思わざるを得なかった。


「それから額縁に付いた繊維片か…それが事件があった日に目を付けた男に繋がる。不思議なことがあるもんだ」

シンビネは奇妙な違和感を覚えていた。この一件は随分と都合がいい…いや、都合がよすぎる。


「まるで誰かが描いたようだな…」

同じ違和感を覚えているのだろう…デレインがぽつりと感想を漏らした。


真相を知れば誰もがそう思うはずだ…でも、誰がそんなことを企てたのか?そもそもそんなことができるヤツがいるのか?それは誰にも分からない。それどころか、多くの人はそんなヤツはいないと答えるだろう。


そんな中、シンザーはユリーシャの報告をもとに書かれた報告書のことを思い出していた。それにはただの偶然としか思えない必然、完璧な精度の未来予知、本人も気付かぬうちに行動を操られる…そんなことが書かれていた。


他の誰かがそれを言えば、一笑に付されることだろう。だが、それはレガルディア最高の魔法使いと云われるユリーシャの言葉だ。無視することはできない。


本当にそんなことができるのなら、あの女を捕まえることなど不可能だな…シンザーは苦笑しながらレモンウォーターを口にした。考え方を変える必要がある…この件にあの女が関わっているのかどうかは分からないが、シンザーはそのように思い至っていた。


行動には目的があるものだ。それは今回の事件に関わった人達を見るとよく分かる。テネラニは自身の才能に絶望して命を断ったとされているが、その行動の裏には画壇への抗議もあったはずだ。


ロマネラがそのことをテネラニから聞いていたのかどうかは分からない。だが、おそらく同じ思いを抱いていたのだろう。ならば、テネラニの自殺を受け入れられないのも無理もない。


画家としての評価が芳しくなかったノガラにとって、あのテネラニとも不倫関係にあったという設定は悪くない話だ。それにより、自身の評価を一変させることができるかもしれない。


テネラニの絵を多数所有するラグーザは、それらの絵の価値が上昇するチャンスと捉えた。いずれ真相が明らかになるにしても、それは当分先の話と考えていたに違いない。ならば、これは悪くない話だ。


彼らの行動には目的があった。その是非はともかく、それは納得できるものだった。


では、あの女はどうか?この件にあの女が関わっていた明確な証拠はないが、関わっていた可能性はあるように思える。だとしたら、その目的は何なのか?それが分かれば交渉の余地もありそうなんだがな…そんなことを考えながら、シンザーは頭を振った。


「どうかしたのか?」

急に無口になったシンザーを慮り、デレインはシンザーに声をかけた。


「いや…何でもない」

「そうか…」

シンザーの様子は何でもなくはなかったが、デレインはそれ以上は何も聞かなかった。


ユリーシャの報告書は、軍では一位武官にしか開示されていないものだ。二位武官であるデレインに、おいそれと話す訳にはいかない。


シンザーには自分に話せないことがある…デレインもそれは承知している。だから、何も聞かないのだ。


「さてと…帰るか。邪魔したな」

話せることは、あらいざらい話した。用件はこれで終わりだ。立ち上がったシンザーに倣って、デレインも席を立った。


「いやいや、面白かったよ。ありがとな」

シンビネは2人に礼を言った。そうしてギーギーと煩い音を立てながら戸を開け、夜更けの訪問者達を見送った。


こうして寄り添うツバキ切り裂き事件は、幕を閉じた。それから半年程が経った。

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