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魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~  作者: 鷹茄子おうぎ


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夜更けの訪問

「やれやれ、今日もようやく終わったな…」

朝から賑やかだった『風のささやき亭』にも、夜が更けると静かな時間が訪れる。シンビネにとっては、待ちに待った至福の時である。


「こいつは…いや、これは大丈夫だな…」

ここのテーブルや椅子は、基本的にガタが来ている。だから、修理をしながら使っているが、修理をすべきかどうか…その見極めはシンビネにしかできない。


誰にも邪魔されることなく店内を見渡し、テーブルや椅子を慈しむように一つずつ確認する。この時間は何ものにも代え難いものだ。『風のささやき亭』を独り占めできるのも最高である。


もっとも娘にはすこぶる評判が悪い。ニヤニヤしながらボロいテーブルや椅子を運ぶシンビネの姿を見てしまったからだ。まあ、仕方がない。


キィ…


そんな至福の時に、予期せぬ訪問者がやって来ることは決して珍しいことではない。だから、シンビネはすぐに反応した。入り口の戸に目を向けると、そこには見知った男がいた。デレインである。


「デレインか…どうした?」

聞きながらシンビネは感心していた。『風のささやき亭』の入り口の戸は、いつもギーギーと煩い音を立てている。にも拘らず、デレインはこれ以上ないほど静かに入ってきたのだ。


ただ立っているだけなのに、まるで隙がない。ここで受け入れる際に、シンビネはツテを辿ってデレインを調べたことがある。軍はデレインをどんな得物も容易く使いこなす男と評価していた。二位武官の無駄使いだな…そう思うのは、シンビネだけではないはずだ。


それにしても、何の用だろう?シンビネはデレインが何をしているのかを知っている。迷子になったキジトラの捜索だ。今のところ、大きな進展はないとのことだった。


あれから何らかの進展があったとしても、わざわざこんな時間に訪ねてくる必要はない。そんなシンビネの疑問に答えてくれたのは、デレインではなくシンザーだった。


「相変わらずぼろっちいなあ、ここは」

シンビネはギクリとしてしまった。さっきまで店内には自分とデレインしかいなかったのに、いつの間にかそこにシンザーがいたからだ。


「お前さんはいつも神出鬼没だな…」

これまでに何度もこの手を食らってきた。そこには何か秘密があるはずだが、それが未だに分からない。


「俺は普通に入っただけだぞ?」

シンザーはケラケラと笑いながら嘯いたが、その言葉通りならシンビネはいつも気が付くはずだ。


「それで…今日はどうした」

シンザーに神出鬼没の秘密を聞いたところで、まともに答えてくれるとは思えない。だったら、用件を聞いた方がいい。


「例の件の真相が分かった。だから、それを伝えに来た」

シンザーが切り出した用件は、シンビネを少しばかり驚かせた。同時にかつて感じた好奇心を思い出していた。


「ちょっと待ってな…」

シンビネは2人を残して厨房に入ると、レモンウォーターを作って戻ってきた。


「旨いね!」

それを一口飲んだシンザーは、満面の笑みを浮かべた。デレインも満足げに頷いている。


「それで…一体どういうことだったんだ?」

身を乗り出してシンザーに尋ねるシンビネは、逸る気持ちを抑えきれないようだ。それに対して、シンザーは半年前の偽装心中事件から順を追って説明してやった。


「何も死ぬことはねえだろうに…」

テネラニが自身の才能に絶望して自死したことを知ったシンビネは、残念そうに漏らした。


「惜しい画家を亡くしたな…」

デレインは、この3人の中では最もテネラニのことに詳しいと自負している。だからこそ、本当に残念だと思う。


「それにしても偽装心中とはな…死んだ旦那が足元に転がっているのに、よく思い付いたもんだ」

仕事柄、シンビネは色んな人と出会ってきた。聞いた限りではロマネラは一般人のようだ。それを踏まえると、俄には信じられない。


「実際、あれはたいした女だよ」

あの日から今日までを思い返し、シンザーは率直にロマネラを評価した。


「ノガラという女がライラリッジにいたことも大きいんじゃないか?私生活でのテネラニは冴えない男だったが、ノガラはあらゆる意味で真逆の女だ」

デレインの見立てに、シンザーはニヤニヤしながら頷いた。


「そのノガラってのは、そんなにいい女なのか?」

興味を惹かれたシンビネが尋ねてくる。


「そうだな…あれは画家よりも娼婦の方が向いている」

抜群のスタイルを誇るノガラを思い出しながら、シンザーは失礼な論評をした。


「そいつは否定できないな」

絵画鑑賞を趣味としているデレインも、ノガラのことはよく知っている。だから、苦笑しながらそれに同意した。


「ぜひ会ってみたいもんだ」

「間違いなく忘れられない夜にしてくれるぜ」

そうなってくると、シンビネがそう思うのは自然なことだ。なので、シンザーは太鼓判を押してやった。


男だけの集まりで、女の話題になれば話が脱線するのは仕方がないことだ。だから、誰もそれを止めようとしない。その後は女の体のどこが好きなのか?という話になってしまった。


シンザーは分かりやすく胸を主張する。大きすぎず、それでいて重力に逆らっているくらいが丁度いい。そこには男の夢が詰まっている。これには多くの男が同意するはずだ。


一方で、デレインはおしりを推した。そこは最も女性らしさが出る部位と言っても過言ではない。柔らかくて気持ちよさそうなおしりは、反射的に惹かれる要素を秘めている。これにも多くの男は同意するだろう。


それに対して、老成したシンビネは背中を挙げた。女性らしい華奢なラインに男性は萌えると力説するが、そこが最高のポイントなのか?と言われると、意見が別れるところだ。


ウィズモアがこの場にいなくて本当によかった…シンザーは心の底からそう思っていた。いたらこんな話はできない。少なくとも今は。いずれは気を使うことなく、品のない話をすることになるのだろうが…。


男どもの低俗な会話は、まだまだ続きそうだ。それどころか大いに盛り上がっている。こうして夜は更けていく…。

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