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【毎日更新】魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~【45話で完結】  作者: 鷹茄子おうぎ


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あの日の朝に

「ある所に、一人の才能ある画家がいました。彼の描く絵は情熱的で、燃えるような魂を感じさせるものでした。しかし、彼自身は生み出す作品とは裏腹に、情熱とは程遠い静かな性格の持ち主でした」

シンビネの調査をもとに、テネラニの人となりを推察するとそうなる。これは間違っていないはずだ。


「恋愛に心を燃やしたこともなく、有名画家の娘と見合い結婚した後は、妻の実家の庇護の下、日々淡々と絵を描き続けていました」

若かりし頃のテネラニは、女性には無頓着だった。ロマネラとの出会いもお見合い。それはロマネラの父親が主導したものだった。おそらくテネラニの才能を見抜いてのことだろう。


「そんなテネラニ・キリマベラジに向けられた画壇の評価は、不当なものでした。情熱迸る画風は紛い物、実体験に裏打ちされていない小手先の技巧」

「やめてください!」

それはロマネラが最も聞きたくなかったこと。だから、声を張り上げ、シンザーの説明を遮った。


「尋問を始めた当初、窃盗犯はこのアトリエに侵入した日時を話そうとしませんでした。なぜかと言うと…彼は見てしまったからです。10月22日の夜、このアトリエでテネラニが自死しているのを。そして、心中事件の通報があったのは翌23日の朝」

悪くなった雰囲気を何とかするのは、ウィズモアの仕事だ。それが嫌という訳ではないが、もう少し考えて話をすればいいのに…そう思ってしまう。


「その日に侵入した…となれば自分に殺害の疑いがかかることになります。もっとも彼の前歴を調べれば、その可能性が極めて低いことも分かるのですがね」

ウィズモアの説明に、シンザーは少し補足してやった。


これまでの調べで、モルヴェドには殺人はおろか傷害の前もないことが分かっている。そんなヤツがテネラニを殺すとは考えにくい。


「自死したテネラニを見つけてしまった窃盗犯は、そのまま逃げようと思ったそうです。でも、結局壁に飾ってある寄り添うツバキを盗んだ…そう言ってました」

寄り添うツバキを見つめながら、再びウィズモアが事件の真相を語った。


「ちなみに、テネラニ画伯は1人で亡くなっていたそうです。ノガラ・ラベルフィーユの姿などどこにもなかった…つまり、テネラニ画伯は、あなたの御主人は、単独での自殺だった。それをあなたが心中に偽装したのですね?」

そして、シンザーが自らの見立てを締め括った。


ロマネラの目は混乱で満ちていた。すべてはシンザーとウィズモアが説明した通りだったからだ。もはや動揺を隠すことなどできそうにない。あちこちに視線を彷徨わせ、それからゆっくりと頷いた。


「あの朝、寝室で遺書を見つけました。自分の才能に絶望したって…一言だけ。すぐにラグーザさんに連絡して、ここに来てもらいました」

ロマネラはあの日のことを昨日のことのように覚えている。


いつも自分の方がテネラニより早く起きていた。そうして彼の身の回りの世話をする。それがロマネラにとっての喜びだった。あの日もいつもの朝だと思っていた。でも、そうではなかった…隣のベッドで寝ているはずのテネラニの姿がなかったのだ。


不審に思い、辺りを見回すと、サイドテーブルの上に遺書があることに気が付いた。それを読み、テネラニが自殺したことを悟った。アトリエの様子を見に行くことは…怖くてできなかった。本来なら軍の魔法戦士を呼ぶべき状況だが、それは憚られる。代わりにラグーザを呼ぶことにした。


ラグーザはすぐに来てくれた。遺書を見てもらうと、2人でアトリエに向かった。ドアに鍵はかかっていない。いつものことだ。何度か注意したが、直ることはなかった。でも、今はどうでもいい。恐る恐る中に入ると、そこには胸に魔法剣を突き立てたテネラニが倒れていた。


「テネラニさん…テネラニさん!」

それは予測していたことだった。それでもその現実を突きつけられると、ロマネラは遺体にすがり、何度も呼び掛けてしまう。もちろん、返事はない。


「テネラニさん…」

ラグーザも絞り出すようにその名を呼んだ。


どれほど呼び掛けても、テネラニが目を覚ますことはない。その現実を受け入れた時、ロマネラは急速に頭が冴えていくのを感じた。テネラニを、無名の自殺した画家として終わらせる訳にはいかない。


「ノガラさんを呼んでください」

ロマネラは冷静にノガラを呼ぶように求めた。


「はぁ?」

なぜここにノガラを呼ぶ必要があるのか?それがまったく分からなかったのだろう…ラグーザは何とも言えない声で聞き返してきた。


「ノガラ・ラベルフィーユよ」

ロマネラは有無を言わさぬ口調でラグーザに言った。ノガラに何をやらせるつもりなのか…それを説明するつもりはない。兎にも角にもノガラを呼んでくれれば、それでいい。


事情を知らないノガラは、ラグーザに呼ばれてすぐにセルヴェンカ家の邸宅にやって来た。そこで自死したテネラニを目の当たりにし、さらにロマネラの企てを聞いたノガラは、激しく動揺していた。


「偽装心中って…」

ノガラの呼吸は荒く、その体はガタガタと震えている。


「この人を、情熱の画家に生まれ変わらせるの。数々の恋に身を焦がし、炎のような感情のすべてをキャンパスに叩き付けた画家にね」

ロマネラは寄り添うように、それでいて絶対に逃さないと言わんばかりにノガラを抱きしめた。


こんなことはすべきではない…ラグーザはそう思っていたはずだ。この企てはノガラが断ればすべて終わり。彼女も犯罪には荷担したくないだろう。誰だってそう思う。見ていられないと言わんばかりに、ラグーザは2人に背を向けた。


「私の絵にも…説得力が出るかしら?」

この異常な状況の中、激しく動揺していたノガラは、僅かながらに理性を取り戻していた。何が自分のためになるのか?それを考えているようだった。


「もちろんよ。大衆は芸術作品の背景に物語を求めるの…物語性こそが、絵を本物にするんだから!」

ノガラが首肯しなければ計画は始まらない。だから、ロマネラは必死にノガラを説得した。


「やるわ!」

叫ぶようにノガラは言った。ノガラが計画に乗るとは思っていなかったのだろう…背を向けていたラグーザが、驚きに満ちた表情で振り向いた。


「でも、テネラニさんのためじゃない!自分自身のためにやるのよ!!」

ノガラは絶叫するように自分に言い聞かせた。


ノガラにはノガラの思惑がある。それはロマネラにとってはどうでもいいことだった。大事なことは、ノガラがロマネラの計画に同意したということだ。


「そうよ、それでいいの!」

上手くいくかどうかは分からない。それでも自身の策の第一歩を踏み出したのだ。恐ろしくはあるが、それ以上の喜びをロマネラは感じていた。そうして涙が止まらないノガラを抱きしめた。


それがロマネラの…いや、ロマネラとノガラが企てたことだった。

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