とある邸宅へ
入り口を警備している軍の魔法戦士に礼を言い、シンザーとウィズモアは追悼展を後にした。ニャブリには遅れると伝えているが、そろそろ拠点に顔を出した方がいいだろう。
「どう思う?」
今朝のラグーザとのやり取りで何を感じたのか?シンザーはウィズモアに尋ねてみた。
「ん…証拠がないからね。あれ以上は無理だと思う」
「だな…」
ウィズモアの感想には、シンザーも同意した。
そもそもこの見立ては絵が切り裂かれた直後にしたものだ。その時点では、ロマネラやノガラが絡んでくることになるとは思いもよらなかった。筋が通っているように見えるが、何の証拠もない。何かを見落としている可能性もある。これ以上、そこに拘るのは得策ではないだろう。
昨日と違って、ニャブリは拠点にいなかった。立場を考えると、そんなにおかしな話でもない。その代わりという訳ではないだろうが、思わぬ人物が2人の帰りを待っていた。
「うん?ソムニアじゃん」
まさかカフェスペースにソムニアがいるとは思わなかったので、ウィズモアは驚きの声をあげてしまった。ウィズモアに気付いたソムニアは、椅子から立ち上がって一礼した。
「お届けした方がいいと思いまして」
「ありがと。はい、どうぞ」
ソムニアが差し出した雑誌を受け取ったウィズモアは、それをシンザーに手渡した。
「芸術の道標…」
「有名な美術雑誌だよ」
雑誌のタイトル名を呟いたシンザーに、ウィズモアが補足してあげた。
「今月号にはテネラニ・キリマベラジの追悼特集が組まれています」
さらにソムニアが補足してくれる。至れり尽くせりだな…シンザーはそう思いながらこくりと頷いた。
「なるほど…」
表紙には額縁入りの寄り添うツバキが印刷されている。シンザーは展示されていた寄り添うツバキとの違いに気が付いた。気にはなるが、今は心に留めておくだけでいいだろう。
「それでは私はこれで」
「ん…ありがと」
用を済ませたソムニアは丁重に別れの挨拶をし、ウィズモアはもう一度簡単にお礼を言った。その間にシンザーは目当てのページを目指して雑誌をパラパラとめくり、追悼特集をじっくりと見ていた。
「本人のスケッチブックのようだな…」
そこにはテネラニが描いたと思しきスケッチが、何枚も掲載されていた。
ライラリッジのどこかの風景、秋の風物詩の落ち葉の山、アオガエルっぽい小さなカエル…これが事件を解決する手掛かりになれば御の字だが、ここから何かを見いだすのは難しいように思える。
「これはアトリエの周辺かな?それからブナの落ち葉…こっちはアオガエル。やっぱり上手だね」
ウィズモアの感想は月並みなものだが、そんなことよりよく分かるな…シンザーは思わず感心してしまった。
「近所を歩き回って、色々と写生していたんだよ。それをもとに絵を描くの。もちろん、そうじゃない場合もあるけどね」
芸術の分野では、ウィズモアの方に一日の長がある。その見立ては間違っていないだろう。だから、シンザーはこくこくと頷いた。
追悼特集をじっくりと見ながらページをめくっていたシンザーの手が、ピタリと止まった。見過ごせないスケッチを見つけたからだ。ここは専門家の意見を聞きたいところだ。
「これは?」
「ん…間違いなくツバキだよ」
シンザーの質問に、ウィズモアは自信をもって答えた。ならば、これは寄り添うツバキのもとになったスケッチとみていいだろう。
「少し調べてみるか…出るぞ」
これらのスケッチがどこで描かれたものなのか…それを突き止める必要がある。これにはウィズモアもこくこくと頷いた。
まずはウィズモアの見立てをもとに、テネラニのアトリエに行ってみることにした。ロマネラがいたらなんか嫌だな…ウィズモアはそう思ってしまう。別にロマネラのことが嫌いという訳ではないけれど。
「ここから見たアトリエがこの絵だよね…」
「そうみたいだな」
ウィズモアの見立ては正解だった。ライラリッジのどこかの風景だと思っていたスケッチは、アトリエを描いたものだったのだ。
「なるほど…こっちに行ってみるか」
「うん」
この分だと、テネラニはこの周辺でスケッチをしていた可能性が高い。そう判断したシンザーは、アトリエを後にしてウィズモアと一緒に周辺を歩き回ることにした。
街道と街道が合流する広場に立つ立派な巨木、波を模したように見える独特な形をしたオブジェ。テネラニのスケッチの多くは、アトリエ周辺で見ることができるライラリッジの風景だった。
もちろん、落ち葉の山やアオガエルのように、はっきりと確認できなかったものもある。だが、これまでの経緯を踏まえると、この近辺で描かれたものと考えていいだろう。そうこうしているうちに、2人はとある邸宅の門にたどり着いていた。
「これが…この邸宅の門、だよね?」
テネラニのスケッチを見ながら、ウィズモアはシンザーに聞いてみた。
「そうだな…この門であってると思う」
そこにはテネラニがスケッチした門と瓜二つな門があった。間違いないと判断したシンザーは、ウィズモアに同調した。
「レガルディア第15邸宅…だったら入ってもよさそうだな」
「ん…そだね」
ここはレガルディアが管理している邸宅の一つ。シンザーとウィズモアは、軽く一礼をして敷地へ入っていった。
奥には立派な邸宅がある。だが、カーテンは閉められ、窓も開いてはいない。パッと見た感じでは、誰も住んでいないように見える。それでも庭はしっかりと管理されているようだ。そして、そこには見過ごせないものがあった。




