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【毎日更新】魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~【45話で完結】  作者: 鷹茄子おうぎ


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暴騰するチケット

ウィズモアにとってはいつもの朝ご飯だが、シンザーにとってはいつもとは段違いに美味しい朝ご飯を堪能し、2人はラヴァリーノ家の離れを後にした。見送ったソムニアは、ウィズモアがご機嫌だったことに満足していた。


「まずはニャブリの所に行くんでしょ?」

「もちろん」

今朝は妙に機嫌がいいウィズモアに聞かれ、シンザーも笑みを浮かべながら答えた。


ウィズモアの言うニャブリの所とは、ファブロス隊の拠点のことである。どうも拠点とは言いたくないようだ。可愛くないからとか…そういう理由だろう。その気持ちは分からなくもない。シンザーにとってはどうでもいいことだが。


離れでのんびりしていたせいで、拠点に着いたのはいつもより遅かった。だからと言って、誰かから咎められるようなことは滅多にない。軍の魔法戦士の中でも、ファブロス隊は時間に縛られることは稀だ。だから、シンザーはここにいるのだ。


「今朝は少し遅かったですねぇ…」

いつものように、のんびりと問い質してきたのはニャブリである。稀なことだが、そういうことがない訳ではない。


「例の件について調べていたんで」

実際はソムニアが作ってくれた朝ご飯を堪能していたのだが、テネラニに関する話もしていたので、あながち嘘という訳ではない。


「それについて、隊長に動いてほしいことがあります」

ファブロス隊の隊長であるニャブリは、こう見えていつも忙しくしている。拠点にいないことは珍しいことではない。そういう意味では今日はついている。


シンザーの要請を、ニャブリはすんなり受け入れた。そもそもそれほど無茶な要請ではないので、ニャブリにも断るという選択肢はないだろう…ここまではシンザーの思惑通りに事が運んでいる。


これで今日の用事の一つは終わりだ。ここからはいつも通りブラブラすることになる。いつものようにチケ屋のナザリトの所に行くことになるが、それは世間話をするためではない。


「今日も暇そうだな…でも、何でもやる隊が暇なのはいいことだよな」

相変わらず聞き捨てならない言葉を連発するナザリトだが、その言い分には一理ある。いつものようにジンジャーエールを堪能しながら、シンザーは頷いてしまった。


「この前のチケットのことなんだが…あれからどうなってる?」

それこそシンザーが知りたかったこと。暇で暇でしょうがない訳ではない。


「色んな人から話を聞いてね…ちょっと強気の値段に変えたんだ」

ナザリトが提示したテネラニ追悼展のチケットの額は2000リガ。それはシンザーがチケットを買った時の20倍に当たる額である。


「それはそれはまあ…」

ついこの前まで暴落していたチケットが、今度は暴騰である。これにはシンザーも苦笑してしまった。


「どうしてそんなことになったんですか?」

ウィズモアは目をぱちくりさせながらナザリトに尋ねた。


「追悼展で絵を切り裂く事件があっただろう?それ以降、興味を持つヤツが増えてるんだよ。これでも安いぐらいさ」

ナザリトはほくほく顔で答えてくれた。


確かに暴騰したが、それ以前が酷い有り様だったからな…適正価格に戻っただけと言われれば、それまでのことだ。頬がゆるみっぱなしのナザリトを見ながら、シンザーは冷静に分析していた。


「そう言えばお前さん達に売った日だったな…あれから見に行ったのか?」

「そうだ」

シンザーとウィズモアが事件に巻き込まれたことを察したナザリトは、ほくほく顔から一転して少しバツが悪そうになった。


「気にすんな。俺はまったく気にしていない」

事件なんてものは必ず起きるものだ。だったらその場に居合わせた方が解決の可能性は高まる。だから、シンザーは気にしていない。ウィズモアもそうだろう。


もっともナザリトがそういう人柄だからこそ、シンザーはこのチケ屋を贔屓にしているのだ。そして、同じようにその人柄に惹かれてやって来たヤツがいた。


「ようシンザー、久しぶりだな。そっちは新しい女か?」

ボサボサの髪に無精ひげとだらしない服装、にも拘らずどこか憎めないこの男の名はパネンカ。レガルディア・タイムズの記者だ。


「ちげえよ…この娘はウィズモア・ラヴァリーノ。俺の部下だ」

シンザーは簡潔にウィズモアの紹介をし、ウィズモアは軽く会釈した。


「そして、こいつはパネンカ。レガルディア・タイムズの敏腕記者だ」

シンザーは簡潔にパネンカの紹介をし、パネンカはガハハと馬鹿笑いをした。


パネンカを加えて4人になった一同は、ジンジャーエールを片手に雑談に花を咲かせた。先程までチケットの話をしていたので、話は自然とテネラニ追悼展のことになる。


「俺達もこの前行ったんだけどさ…あれからテネラニ追悼展はどうなっている?」

ナザリトからチケットが暴騰している話は聞いたが、それは結果だ。そこに至った原因…パネンカならそれを知っているはずだ。


「レガルディア・タイムズでは、事件の翌日の記事でかなり詳しく伝えた。それもあって、事件以降に訪れる人が増えたんじゃないかな」

いい記事が書けた自負があるのだろう…パネンカは少し自慢げに話してくれた。


「どうしてあんなに詳しい記事が書けたんですか?」

ウィズモア自身はその記事を見ていないが、高機能ゴーレムのウィズはしっかりとそれを読んでいる。その上で生じた疑問。この記事、詳しすぎじゃない?


あの切り裂き事件は昼下がりに起きた。そこから取材をして記事を書いていたのなら、こんなに詳しくは書けないはずだ…実際に他の新聞では、この事件の扱いは小さい。どういうことなんだろう?それを知れば誰もが気になるはずだ。


「追悼展の記事はもとからあったんだ。採用されなかったんだけどな。つまり、あの事件のおかげで日の目を見たって訳だ」

パネンカの説明は理に適っている。ウィズモアも納得することにした。


もっともあの時画廊にはそれなりに人がいたからな…口コミで追悼展のことを知ったって人もいるだろう。或いはその中にサクラがいたのかもしれない。何にせよ、シンザーは自身の見立てが間違ってはいないように思えた。


だが、そこには大事なものが欠けていた。ここは鎌を掛けてみるしかないだろう…そうするだけの価値はある。さてさて、明日は何が出てくるか?それを楽しみに待っていることに気が付いたシンザーは、少しばかり苦笑してしまった。

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