表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新】魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~【45話で完結】  作者: 鷹茄子おうぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/37

切り裂き男の尋問

聞きたいことは聞けた。それに対するノガラの反応も見れた。これ以上、ここにとどまる必要はない。シンザーは丁寧に礼を言い、ウィズモアを伴ってノガラの住居兼アトリエを後にした。


「惜しかったなぁ…」

折角モデルになったのに、デッサンを台無しにされたウィズモアは、少し残念そうに呟いた。


「どうした?ヌードにでもなって変なポーズをとりたかったのか?」

「違うし!」

デリカシーの欠片もないことを聞いてきたシンザーに、ウィズモアは顔を赤らめながら否定した。


「それで…これからどうすんの?」

ケラケラと笑うシンザーを、ジト目のウィズモアが問い質す。


「そろそろ戻っている頃だろう…拠点に戻るぞ」

誰が戻っているのか?そんなことは聞くまでもない。あの切り裂き男を確保しに行った魔法戦士達だ。だがら、ウィズモアはこくこくと頷いた。


シンザーの予想通り、切り裂き男は確保されていた。既に簡単な尋問は終わったようだ。男の名はピサロ。ライラリッジには一人旅の途中で立ち寄ったそうだ。確保された時点で、所持金は1万リガしかなかった。ここまで聞いたところで、尋問係が見習い魔法戦士からマドンに代わった。


マドンはスキンヘッドで口髭を生やした筋骨隆々の大男だ。その見た目から、初めてマドンを見た子供が泣き出してしまった話は枚挙に暇がない。見た目だけではなく、この大男は巡回中に見つけた不審者を、ついうっかり半殺しにしてしまったこともある。


外に出すと必ず問題が起きるし、そもそも目立ちすぎるので、ファブロス隊に配属されてから半年後には専ら尋問を任されるようになった。誰もがすぐに問題を起こすだろう…そう思っていたが、ここでマドンは意外な才能を発揮した。尋問係としては実に優秀だったのだ。


ついうっかり机を壊してしまうことはあったが、それはすぐに特注品の机に変えられた。ここではついうっかり半殺しにしてしまったことは、ただの一度もない。それでついた異名が落としのマドン。シンザーとウィズモアは、隣室からその腕前を見せてもらうことにした。


「どうして…絵を切り裂いた?」

マドンは獲物に迫る猛獣のような迫力で、ピサロに迫った。


「よくあるあれか?世間を騒がせたかったってヤツ…」

子供ならギャン泣きすること間違いなしのマドンの迫力に、ピサロの顔は引きつっている。


「た、頼まれたんすよ…」

「誰に?」

ピサロがしどろもどろになるのは仕方がないが、マドンは低い声で容赦なく迫る。今日も尋問が捗っているようだ。


「だ、誰なんて…知らないっすよ。匿名の依頼の中から見つけたんで…100万であの絵をズタズタにしてくれって」

ピサロは一人旅をしている最中だ。簡単に路銀稼ぎができると思ったんだろう。


「その依頼、どこで見つけた?」

これは間違いなく何でも屋への依頼。となると、それを仲介した居酒屋等があるはずだ。その中で匿名の依頼の募集をする所なんて限られている。


「『風のささやき亭』です…」

そこはテネラニ追悼展のチケットを配っていたシンビネが主の居酒屋だ。色々と繋がってきたな…シンザーは微かに笑みを浮かべながら頷いた。


「何で…あの絵だったんだ?」

そこが重要なところだ。寄り添うツバキには曰くがある。


「だから、知りませんって」

まあ、そうだろうな…匿名の依頼主がどこの誰だか知らないが、わざわざ絵を切り裂く理由なんか書きはしない。だが、それで引き下がるほどマドンは甘くなかった。


ドンッ!


何かが爆発したようなもの凄い音が、尋問室に轟いた。マドンが机をぶっ叩いたのだ。マドンのやり方に慣れてきたピサロは、口調にも表情にも余裕が出てきていたが、一瞬で強張ってしまった。この様子をシンザーと一緒に隣室から見ているウィズモアも、ビクッとしてしまう。


「人を怪我させろとまで…頼まれていたのか?」

ピサロに向ける静かな怒りは、暴力は許さないと言わんばかりだ。マドンの経歴を考えると、説得力は皆無だけれど。


「あれは…成り行きで。け、怪我をさせるつもりは…なかったんです」

再びピサロはしどろもどろになってしまった。いつものことだ。落としのマドンは伊達じゃない。


「お、俺…めっちゃ反省してます。心を入れ替えてこんなこと二度としません。だから…」

ピサロは早く釈放されたい一心で都合のいいことを言っているが、そうは問屋が卸さない。


ドンッッ!


再びマドンアタックが炸裂した。ピサロの顔は青ざめ、ウィズモアは涙目だ。その一方で、シンザーは特注机の頑丈さに職人魂を感じていた。


「下手な芝居をしてんじゃねえ…」

猛獣ですら恐れをなして逃げ出しそうなマドンの迫力に、シンザーは感心してしまった。自身が話を聞くときには、紳士的に接するように心がけているが、これは正反対のやり方だ。


とは言え、これ以上ここにとどまることは得策ではないだろう。ウィズモアが家に帰って今日の出来事を話したら、ラヴァリーノ家から苦情が入るかもしれない。シンザーは場所を変えることにした。


ファブロス隊の拠点には、ちょっとしたカフェスペースがある。これまでにそこを気に入らなかった女子はいない。シンザーはそこへウィズモアを連れていくことにした。


「凄い人だったね…」

初めて見たマドンの迫力に萎縮してしまったウィズモアだが、ここで紅茶を飲んでジャムクッキーをいただき、安らいだように見える。


「まあ…そうだな。でも、尋問の腕はぴか一だ」

もちろん、シンザーはマドンを擁護する。ラヴァリーノ家から苦情が入り、マドンが飛ばされるような事態は避けなければならない。


「でもさ、やっぱり依頼人が別にいたんだね」

ファブロス隊にはマドンのような魔法戦士も必要だ…それぐらいのことは、ウィズモアも理解している。これは刺身のつまのようなもの。だから、話を本題に戻した。それを見抜いたシンザーは、内心ホッとしていた。


「そうだな…ロマネラもノガラも絵に描かれたツバキは自分のことだと言っているが、本心ではないのかもしれないな」

テネラニが何を考えながらあの絵を描いたのか…それはテネラニにしか分からないことだ。


「実は2人ともニ輪目のツバキが自分じゃないと思っていた…」

ロマネラはノガラを、ノガラはロマネラをやっかんでいた。ウィズモアはそんな経験をしたことはないが、その気持ちは分からなくはない。


「そうであれば、嫉妬心から絵を切り裂きたいと考えても不思議じゃない」

だから、匿名の依頼をした…そう考えると、筋は通っているように思える。もっとも依頼主がどちらなのかは、シンザーにも分からないが。


「だよね…」

ウィズモアは何とも言えない思いを感じていた。

100万リガという金額は、ピサロがしばらくの間は路銀の心配をする必要がない大金だ。だが、ロマネラにとってもノガラにとっても、それははした金に過ぎない。


馬鹿なことをしやがって…シンザーは口に出すことなく、ピサロの軽率な行動を非難した。一人旅なら、時間はたっぷりとあったはずだ。そして、ライラリッジには仕事もたっぷりとある。まともな仕事を選んでいれば、こうはならなかった。だから、シンザーはまったく同情などしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ