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【毎日更新】魔法戦士のお仕事~とある画家の死にまつわるエトセトラ~【45話で完結】  作者: 鷹茄子おうぎ


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出会いと別れ

ノガラがシンザーとウィズモアを案内したのは、アトリエと客間を兼ねたような部屋だった。そこはノガラのイメージに相応しい高級感と大人っぽさを感じさせる空間だ。


ソファの座り心地の良さを堪能したシンザーは、テネラニの遺作である寄り添うツバキが切り裂かれたこと、絵を切り裂いた犯人が未だに逃走中であることを簡潔に伝えた。


「寄り添うツバキが切り裂かれるなんて…何だか自分の体を切られるような気分だわ」

その仕種も物言いも、妙に芝居がかっているように感じるが、ノガラの手に掛かるとそれほど違和感はない。


「あの絵に描かれている花はノガラさんとテネラニ画伯、お二人の姿だと聞いています」

先程までの下心満載だったシンザーとは打って変わったシンザーが、ノガラに紳士的に尋ねた。


「彼は最後の作品に、私への愛のありったけを込めたのよ」

芝居がかった物言いも、慣れてくればどうってことはない。それがノガラのやり方なのは容易に推測できる。だから、そのペースに乗る必要はない。


「ねえ」

「はい?」

ここまで蚊帳の外に置かれ気味だったウィズモアを慮ったのだろう…ノガラはウィズモアに声を掛けた。少し油断していたウィズモアは、思わず聞き返してしまった。


「デッサンに協力してくださらない?」

「協力って?」

ウィズモアはノガラの真意を測りかね、聞き返した。立ち上がったノガラは、イーゼルに立て掛けられたキャンバスのもとへ、蠱惑するように歩いていった。


「お二人のどちらかに、モデルになっていただきたいの」

「モデル…」

意外な申し出に、ウィズモアは戸惑いを隠しきれない。


「もし断るなら、これ以上何も話すつもりはなくてよ」

妖艶な笑みを浮かべながら、ノガラは自身の要求を受け入れるように迫った。


「なるほど」

シンザーもこういう展開は予測していなかった。それでもそれをおくびにも出さずに、涼しい顔で頷いた。


「ここはジャンケン…かな?」

「そうだな」

ウィズモアの提案を、シンザーはすんなりと受け入れた。丁度いい機会だ…魔法戦士のずる賢さを、教えておいてやろう。


「最初はグー、じゃんけんポン…あっ、勝っちゃった」

勝負は1回でついた。ウィズモアの勝ちだ。正確に言うと、シンザーが負けてやったのだ。指の筋肉の動きを読めば、勝つのも負けるのも自由自在である。


「じゃあ、よろしく」

勝って喜んでいるウィズモアに、負けたシンザーがモデル役を任せた。


「えっ、私勝ったんだけど」

「でも、負けた方がやるとは言ってないし」

これにはウィズモアも戸惑いを隠しきれないが、シンザーはさも当たり前のようにこじつけた。


「ズルい…」

「それではよろしく」

立場上は上司でもあるシンザーに言われ、ウィズモアは渋々とモデル役を引き受けた。


それでも絵画鑑賞を趣味としているウィズモアにとって、絵のモデルになれることは中々に興味深いことである。実は満更でもないウィズモアは、ノガラに言われるままに凝った意匠の椅子に座った。


椅子に行儀よく座るウィズモアを、ノガラがキャンバスに描いていく。ノガラのデッサンをそれとなく見ているシンザーは、感心したように頷いた。さすがは画家、上手いね。


「何を聞きたいのかしら?」

ウィズモアのデッサンをしながら、ノガラはシンザーを惑わすように聞いてきた。


「お二人の出会いから…お願いします」

画家よりも娼婦の方が向いているな…シンザーはそう思いながらノガラに答えた。


「彼と恋に落ちたのは去年の春よ。桜が満開の頃だったわ…」

どこか遠くを見るような目つきで、ノガラはテネラニとの出会いを語り始めた。


「2人で燃えるような夏を過ごしたけど、秋になると、彼は心のバランスを崩し始めたの」

事件に関係があるのかどうかは分からないが、この手の話が大好きなウィズモアは、目を輝かせて聞いている。


「何か、理由でもあったんですか?」

「モデルは喋ってはダ~メ」

話を聞くだけでなく、身を乗り出して尋ねてきたウィズモアを、ノガラは色っぽく窘めた。


「はい…」

これにはウィズモアも大人しく引き下がり、再び行儀よく座った。


「あの人、私が他の男に気持ちを移すのを恐れたのよ」

そういうことはこれまでにもよくあったのだろう…ノガラの声色には、複雑な感情が垣間見える。


「一緒に死んでくれ、永遠に一緒にいさせてくれ…そんな風に情熱的に言われたから、それもいいかなって思っちゃったの」

素敵な思い出を慈しむように、ノガラはテネラニとの出会いと別れを話し終えた。


「テネラニ・キリマベラジは自らの胸をナイフで刺し、あなたは毒草のセンペルヴィレンスを摂取した…」

半年前の心中事件について、シンザーはノガラに間違いないか確認した。


「テネラニさんのアトリエの庭に咲いていたから…丁度いいと思ったの」

かつてはハーブティーの原料や薬草として用いられていたセンペルヴィレンス。それが庭に咲いていても別におかしくはない。そして、ノガラも先入観を抱いているようだ。


「2人の愛を死によって成就させるつもりだったのに。運命って残酷ね…」

心底悲しそうに語るノガラを見るに、そこに虚偽はないように思える。だが、本当のところはどうなのか…それはこれから確認することにしよう。


「はたして、本当に運命だったのでしょうか?」

シンザーは丁寧な言葉使いで疑問を呈した。思わずデッサンの手を止めてしまったノガラに、シンザーは謝罪するように軽く頭を下げた。


「事件の資料によれば、あなたの中毒症状はそれほど重いものではなかった…摂取した毒草は致死量には遠く及ばない量でした。致死量を勘違いしていたんでしょうかね?」

シンザーの指摘は思いもよらないものだったのだろう…ノガラは何も返すことができなかった。


「それとも本気で死ぬつもりじゃあなかったとか?」

行儀よく座っていたウィズモアが、再び口を開いた。先程はモデルは喋るなと言ったノガラだが、今回は何も言わなかった。


「もう一つ、小さな疑問が。お二人は心中を企てたそうですが、なぜテネラニ画伯はナイフで、そしてノガラさんは毒草で命を絶とうとなさったのか…一緒に死ぬのであれば、同一の方法を選びそうなものですがね」

この問いに対して、ノガラは描いていたデッサンに八つ当たりするようにグシャグシャと書きなぐった。


「死を決意した人間は、理屈では説明のつかない行動を取るものよ!特に私達のような美の世界に生きる人間はね」

激情に駆られたノガラは、これまでの人を惹きつけて惑わすような話し方をかなぐり捨て、自らの主張をぶちまけた。


立ち上がったノガラは、シンザーを睨み付けている。事態は一気に緊迫してしまったが、数多の修羅場をくぐってきたシンザーは、この程度のことで動じたりはしない。


「なるほど…激しい情緒、炎のような衝動、それらに突き動かされるのが芸術家。そういうことですかね?」

シンザーは自分なりに解釈した芸術家論を披露し、ノガラを宥めようとする。


「その通りよ」

それは的を得た解釈だったようだ…ノガラは満足げに頷きながら首肯した。

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