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アゴラ伯爵領

「交渉成功!


あなたの忠実なる奴隷、ウスキがネゴとの交渉に成功しました。


―交渉ガイドが提示した目標を達成しました!


報酬が与えられます。


ガイド目標:ネゴの現財産をすべて奪取すること。


交渉成果:ネゴの現財産をすべて奪取すること。


交渉ポイントが付与されます。


ポイント:1,000pt


※奴隷代理交渉の実績を達成!


報酬:①遠隔交渉ガイドが解放されました。奴隷視界共有スキルを通じて、ご主人が任意に発動できます。奴隷視界共有スキルが必要です。

   ②主人と奴隷の運命の糸が解放されました。これからは人間奴隷、あるいは知能の高い魔物奴隷と主人は距離に関係なく互いの存在を感じ取ることができます。知能の低い魔物奴隷の場合、ご主人にだけ存在が伝わり、魔物奴隷は感覚を遮断されます」


ウスキ――つまり私の奴隷が成功させた交渉も、私の方に成功メッセージとして表示された。


私はすぐさまウスキにラインを送り、褒めてやった。


途中、またしても絵文字の送り方が気になったりもしたが、ウスキがちょっとしたことで落ち込んでいるようだったので、先に慰めてやることもあった。


そしてしばらくして、再びウスキからラインが届いた。


【ご主人様。ネゴの奴の追放を終わらせました!】


【よくやった。もう休みなさい。】


【ありがとうございます。でもまだ休めません! ご主人様のためにギルドを飾り付けておきますね♡】


【前にも聞いたけど、いったいギルドをどうするつもりなんだい?】


【ふっふっふ! 楽しみにしててくださいね。ヾ(•̀ ヮ <)و】


やはりウスキは教えてくれなかった。


主人に嘘をつくことはできなくても、主人のためになることなら事実を隠すのは許されるらしい。


「まったく……恐ろしいな。」


こうして未来への不安をひとつ残したまま、さらに数日を馬車に揺られて過ごした。


伯爵領まであと一時間ほどの距離に近づいたころ、御者が「ここからは安全です」と言って馬車を止め、幌を外してくれた。


田舎のバザールからほとんど出たことのない私のために、わざわざ気を利かせてくれたのだ。


ちなみにこの御者もバザール出身で、故郷を救った私に感謝しているのだという。


そのおかげで四方が開け、景色を思う存分楽しむことができた。


そしてついにアゴラ伯爵領に到着した。


「ここがアゴラ伯爵領か! うわあっ!」


私は実年齢に似つかわしくもなく、子供のように素直に声をあげてしまった。


ついに目にしたのは、私たちがよく思い描く中世西洋の壮大で立派な城郭だったからだ。


『やっぱりこういう光景には男を子供に戻す魔力があるよな。バザールもこんなふうに変わるまで頑張らなくちゃ。』


私が貴族になることはないだろうが、こんな立派な城で最も影響力のある人物のひとりになれるとしたら、どんな気分だろうか。


馬車が城門の検問を通り、領内に入るまで胸の高鳴りは収まらなかった。


いや、領内に入るとさらに心臓は激しく鼓動を打ち始めた。


「こ、これは……。」


城内の景観は、ファンタジーにありがちな中世西洋ではなかった。


古代だった。


『水道橋!』


古代ローマのアクアダクトに似た建築物が、通りごとに中央に建ち並び、その上を水が流れる音が響いていた。


そしてその水道橋は、まるで現代の車道の中央分離帯のように通りを分け、馬車は片側の道を一方通行で走っていた。


水道橋のあちこちからは、建物の屋根へと小さな水路が延びており、その小さな水路を伝って流れた水は、各家庭に給水したり公共の井戸を満たしたりしているのだろう。


『本物のアーチ橋じゃないか!』


そしてそのすべての水路は、本当にローマの水道橋のようにアーチ橋によって支えられていた。


実のところ、この世界には特に発展している分野がひとつある。それは建築だ。


形態固定魔法はD級から学べて応用範囲が広く、もっとも有用なのは建物の荷重分散を無視した自由なデザインを可能にする点だ。


もちろん支えねばならない荷重が大きければ大きいほど、形態固定魔法を付与する魔法使いの等級も高くなければならないのは当然だ。


だからこそ、領地ごとにどれだけ高く多様な建築があるかが、その領地の力を誇示する手段ともなっていた。


だが、このアゴラ伯爵領は魔法を用いず、元の世界の古代ローマのように純粋な工学技術だけで、同じ用途の建築物を再現しているのだ。


「すごいでしょう?」


子供のように口を開けたまま水道橋を眺めていた私に、御者が声をかけてきた。


「素晴らしい! アーチ建築の美しさと実用性にすでに気づいておられるとは、アゴラ伯爵様のお顔をぜひとも拝見したくなりますね!」


私は興奮した気持ちのまま答えた。


「おお! おわかりになりますか。私も最初にこれほどの規模の建築物にまったく魔法処理が入っていないと聞いたときは、嘘だと一笑に付したものです。だってあんなふうに真ん中がすっかり抜けているのに、崩れ落ちないなんて、魔法としか思えないでしょう。」


御者の言葉は、この世界に魔法があるがゆえに科学や工学的思考が十分に発達しないという一面をよく表していた。


「空間の丸い頂点を成すレンガが荷重を均等に分散させ、橋へと伝えているのです。そのおかげで空洞の上に積まれたレンガの重さまで橋に伝わり、崩れ落ちることがないのですよ。」


「ほう。そんな原理があったとは初めて知りました。さすがは救済者様、博識でいらっしゃる!」


マルコスや他の冒険者たちがそっけないのに比べ、御者は意外にもこうした人間の非魔法的な成果に興味があるらしく、私の説明に目を輝かせていた。


いや、あるいはマナに目覚められなかった一般人の劣等感なのかもしれない。


私の個人の感想だが、かつてウスキが宙を飛ぶ姿を見ながらふと思ったことがある。


『魔法のない元の世界では、人間は自分の体を浮かせるために、飛行機という何倍も大きな乗り物を作らねばならなかったのに……。』


それを、マナに覚醒した者は素の身体でいとも容易くやってのけるのだ。


もちろん念動力で自力飛行するにはB級に到達しなければならないと、ウスキから聞いたことはある。


B級の実力者になるのが容易いと言うつもりはない。


だがウスキにとっては、中学生くらいの年齢で既にD級に到達し、あの事故の後にギルドの寄宿舎管理人として過ごしながらもC級となり、ホブゴブリンと一度戦っただけでB級へ昇格してしまった。


少なくとも、この子にとっては造作もないことだった。


もし私がこの世界に生まれ、ウスキと幼なじみだったなら、きっと劣等感に狂い、彼女を遠ざけ嫉妬していたかもしれない。


この世界の人々、特に一般人は実際にそういう感情を抱いているだろう。


だが、規模が大きければ大きいほど優れた魔法使いが必須とされる建築の世界で、魔法を一切使わずにこのような大規模建築を成し遂げたというのは、まるで一般人がマナ覚醒者に一矢報いたように感じさせる偉業だった。


だからこそ、私たちは無意識のうちに興奮していたのだ。


「この道路はずっと真っ直ぐに続いているのですか?」


かなり走ってきたにもかかわらず、一直線に伸びている道路を見て、私は御者に尋ねた。


「ええ。このまま進めば中央広場に出ます。その広場が道路の終点で、広場との境ごとに駅伝所がありますよ。もうすぐ見えてきます。あの広場の入口もなかなか見事なものです。」


「おお! それは楽しみですね!」


そうしてしばらく走ると、御者が言っていた広場の入口が見え、私は再び口を開けるしかなかった。


「いかがです? 言った通り、見事で壮大でしょう?」


「ええ……。」


どうしてそうではないだろう。


その広場の入口とはまさに――


『こ、コロッセオ……!?』


やはりローマの建築物であるコロッセオと瓜二つだった。ただし実際のコロッセオより外壁が分厚い。


「そ、そこはまさか剣闘士たちが血戦を繰り広げる闘技場なのですか?」


「え? 違いますよ。申し上げた通り、広場の入口です。実はあの広場の外壁もまた水道なのです。」


御者は呆れたように手を振った。


『そういえば……。』


道路の水道橋が、そのコロッセオのような構造物に繋がっていたのだ。


「ほら、あれが見えますか?」


御者がある方向を指さした。


「……え?」


そこにはさらに巨大な水道橋が、山地のある領外から広場の外壁まで続いていた。


「私もよくは分かりませんが、聞いたままをお伝えすると、あのように外部から引いてきた水を、広場の外壁内部で均等に分け、内側と外側へ一定の流れで流す仕組みだそうです。」


『ああ、なるほど。』


外部の水道橋で水を引き込み、コロッセオの最上部に外部水路の半分の規模の水路を設け、均等に流す。


そして構造を支える柱の内部に、水量と柱の数を考慮して正確に一致する大きさの穴を開ければ、水はそれぞれの方向へ公平に分配される。


『口で言うのは簡単だけど……。』


これが丸ごとアゴラ伯爵の功績なのかは分からないが、工学的知恵において相当な人物であることは間違いなかった。


「さあ、到着しました。伯爵の館は反対側です。当然ですが、広場を横切るのが一番早いでしょう。」


駅伝所に到着し、御者が馬車を止めた。


「私はここまでです。救援者様、どうかバザールのためにも、この出張で必ず成果をあげられますようお祈りいたします。」


馬車を降りた私に、御者は丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。必ず最高の成果を持ち帰ります。」


帰りもおそらく同じ御者の馬車になるだろう。辺境の領地バザールへ行く馬車は多くないからだ。


この御者が最初に耳にする出張の結果が、どうか良い知らせであるようにと願いながら、私はコロッセオのような外壁を抜け、広場へと歩を進めた。

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