ep.36 ギルドを築く
これが第36話のエピソードとなります。
申し訳ございません。
なぜか投稿されず、保存だけされていたようです。
最近は無断で休んでしまうことも多く、失敗も増えてきております。
実は、仕事を終えて帰宅してから執筆しているため、楽しい時は本当に楽しいのですが、仕事で疲れているときに続けようとすると、少しずつ歪みが出てしまうのです。
いつまでも謝罪だけではいけませんので、せめて言い訳を一つさせていただきました。
私の事情がどうであれ、読者の皆さまにとっては弁解の余地のない過ちであることは重々承知しております。
どうか寛大なお許しをいただければと存じます。
改めて、心よりお詫び申し上げます。
「木を伐りましょう!」
出勤してすぐの会議で、私が口にした提案だ。
「木を?」
セラが聞き返してきた。
「ええ。森がすぐ近くにあるんですから、伐らない理由はありませんよ」
私は頷いた。
今朝、目を覚ましたとき、なぜか妙に鮮やかな形でアイデアが頭に浮かんだのだ。
木材はこの世界でも当然、重要な資源だ。
どこの領地と取引しても、必ず需要がある。
「だが森は危険すぎるのではないか」
それがこれまでバザールが森に近いのに木材を伐採しなかった理由だった。
モンスターが頻繁に出没するからだ。
「オーガが安全を保障します」
私は自信満々に言い切った。
「……君が?」
「え? いえ! 本物のオーガです! 私がどんな奴隷の主人か、もうお忘れですか?」
「ああ! そうだったな。勘違いしたわい」
『……いや、この人、今まで私のことをオーガだと思ってたんじゃないだろうな?』
自然とギルドマスターへ向ける視線が鋭くなりそうになるのを堪えた。
『まあでも、上司に対してあまり無礼にするわけにもいかないしな』
私は無理やり話を先に進めた。
「オーガは存在感だけで他のモンスターを遠ざけます。安全の面では他にない保証になります。安定した供給が可能ですよ」
「商会はどうする? バザールにはまともな商会などないぞ? まさかネゴ商会を相手にするつもりではあるまいな! 奴らは悪魔だ!」
今度は部長が声を荒げた。ネゴ商会のことを思い浮かべただけで苛立ちが抑えられないらしい。
ネゴ商会は今のところ、唯一バザールまで足を運んでいる商会だ。
その独占的な立場を利用して、パインギルドに一方的に不利な条件を押し付けてくる。
「ネゴ商会の悪名は私もよく知っています。取引するつもりは毛頭ありません」
「ではどうするつもりだ? まさか領主様が新しく商会を組織でもされると?」
「もしそうしていただけるならありがたいですが、たぶん難しいでしょう」
部長の問いに、私は首を横に振った。
この世界はモンスターの襲撃が日常茶飯事だ。
商会を作るなら一度に大規模で組織しなければならない。
つまり、初期投資が莫大になるということだ。
しかも襲撃の可能性がある以上、護衛も必須だ。
規模が大きくなるほど護衛費用も跳ね上がる。
軽々しく「ギルドやバザール男爵が商会を作ればいいじゃないか」と考えられる話ではないのだ。
「ですが、他地域の商会を呼び寄せることならできます」
「呼び寄せる? どうやってだ?」
今度はギルドマスターが尋ねてきた。
これまでネゴ商会しか来なかったのには理由がある。
どこの商会に頼んでも、金にならないバザールにわざわざ来ようとはしなかったのだ。
「方法は二つあります」
「二つも!?」
誰かが驚いて声をあげた。
たぶん係長あたりだろう。
ちなみにこのギルドには、私とセラを含めて六人の事務員がいる。
部長、次長、課長、係長、主任、平社員(私)。
そして会議には社長にあたるギルドマスターも出席するので、七人での会議になる。その中で女性はセラだけだ。
「一つは観光で誘致すること。もう一つは……まあ、詐欺です」
「ふむ、詐欺という案は却下だな。観光について聞こう。バザールに何の見どころがある? 一体何を見せるつもりだ?」
ギルドマスターが問いかけてきた。
「見どころならあるじゃないですか。私の奴隷です」
奴隷となったオーガを見世物にするのは少し酷いと感じられるかもしれない。
だが、元々は人を何人も喰らった化け物だ。これくらいはむしろ温情だろう。
「オーガを見世物にするんですよ」
「……君自身か?」
「え? いや! わざとでしょうそれ!?」
ついに我慢できず、声を荒げてしまった。
「ああ、すまんすまん。君がオーガを奴隷にしたのは確かに私もこの目で見たのだが、どうも頭の中で『オーガがオーガを使役している』と誤解してしまってな。ややこしいのだ」
「そんなややこしいことありますか!」
呆れて言い返したが、本人も気まずそうに目を逸らすので、もう深入りせず流すことにした。
「さて、帝国内でモンスター――しかもB級クラスの奴隷を従えている人間が、他にいますか?」
「王都に何人かいると聞きますけど……」
セラが言葉を濁す。
彼らは〈テイマー〉と呼ばれているが、一つ共通点がある。
「ええ。でも彼らはプライドが高くて、自分のモンスター奴隷を人前で見世物にするなんて絶対しないでしょう」
自分たちを特別視しているのだ。
中には、自分のモンスター奴隷を、普通の平民よりも格上だと思い込んでいる女すらいた。
『……あの女とはどうか関わりませんように! いや、どうせ避けられないんだろうけど!』
ちなみに彼女はヒロインである。
ギルドを成長させていけば、いずれ必ずバザールに現れる。
彼女が登場するのは必然なのだ。
ただでさえ苛々する性格なのに、同じテイマーが自分のモンスターを見世物にしたら、「テイマーの誇りがどうのこうの」と言って徹底的に絡んでくるに違いない。
『まあ、その時はその時だ』
「それなら希少価値はあるわね」
セラが認めた。
『オーガのサーカスだぞ? これが珍しくないなら、金だってただの石ころじゃないか』
もっとも、この世界では錬金術師が本当に金を作り出すので、実際金はただの石ころ同然なのだが。
「それで、誰を相手にするつもりだ? もう候補の商会主でも決めてあるのか?」
「木材を大量に捌くには、小規模では話になりません。最低でも伯爵家直営の商会クラスが必要です」
「ふむ。ならばいっそ伯爵家そのものを相手にした方がいいのではないか? 珍しい見世物は貴族の方が好むだろう」
「ええ。私もそう考えていました」
私の脳裏に、白髪の男の姿がよぎった。
『そういえばアルバスはもうすぐ発つと言っていたな。出発前に何か助けになることがないか聞いておかないと。……そういえば姓も知らなかったな』
人脈管理は事業をする上で何より大切だが、立て続けに事件が起きて余裕がなかった。
『アルバス以外にも、別のプランは考えておくべきだな』
無意識のうちにセラを一瞥した。
セラは満足げに、私の話に集中していた。
分家筋とはいえ貴族は貴族。
バザールの経済を立て直せる希望が見え、気分が良いのだろう。
「よし。では今日の会議はここまでだ。皆も忙しかろうが、適当な商会候補を考えておくように。……オーガ君、少しギルド長室まで来なさい」
『オーガ呼ばわりは、もう変わらないな……』
心の中でぼやきつつ、私はギルドマスターの後に続いた。
ギルド長室に入り、客用のテーブルに向かい合って腰を下ろす。
「君の計画はすべてオーガを利用したものだな。オーガによって受けた災難だが、うまくいけばバザールは逆に安定した収入源を得られる。亡くなった者たちには申し訳ないが、これはむしろ女神様の導きではないかとすら思えてくる」
かなり非人道的な言葉だったが、それでも仕方のない事実でもあった。
むしろ、死者に「申し訳ない」と口にするだけ、この人に人格者としての面があるのだ。
「順調すぎて逆に不安ではあるが……いや、これ以上はやめよう。まだ始まってもいない計画に水を差しても仕方がない。では伐採隊を組織した場合の予定を詰めようか」
伐採隊の結成自体はギルドマスターが引き受けてくれるという。
私は、伐採隊の遠征期間や手順、オーガの配置など細かい点について話を交わした。
話が終わり、ギルド長室を出ながら私は考えた。
『ギルドマスターの言うことも一理ある。前回も「順調すぎる」と浮かれていたら、結局二つも爆弾を踏んだしな。……不安だ。執務室に戻る前に、アルバスのことを確認しておいた方がいい』
私は一階に降り、アルバスの担当受付嬢であるミアを探した。
『……視線が痛い』
隣の二人の受付嬢から妙に強烈な視線を浴びていたが、気づかないふりをしてミアに訊ねた。
「もう発ったわよ」
「えっ? アルバスさんがバザールを? もう?」
「ええ」
……案の定、一つの計画が早くも危うくなった。
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凄惨な光景だった。
間に合わなかった。
勇者ホワイトは深く嘆息した。
「どうか……一人でも生き残りが……!」
押し寄せる罪悪感をいったん脇に追いやり、ホワイトは必死に生存者を探そうとゴブリンの巣をかき分けていった。
だが、見つからなかった。
ホワイトが軍勢を急襲したとき、ゴブリンたちがとった行動は衝撃的だった。犯していた女たちを、すべてその場で殺してしまったのだ。
囚われていた女性たちは皆、冒険者だった。
ゴブリンは一対一であれば、一般人でも対処法さえ知っていれば討てる、最弱の魔物に過ぎない。
それなのに彼女たちは、抵抗すらしなかった。
ホブゴブリンの洗脳に囚われていたからである。
「やはり……ホブゴブリンだった……」
実のところ、ホワイトはすでに一度、ホブゴブリンと遭遇していた。
だが、見慣れぬ姿のゴブリンに不意を突かれ、戸惑った一瞬の隙に取り逃がしてしまったのだ。
ホワイトは生来、慎重な性格だった。
その慎重さのおかげで勇者としての成長は順調に進んでいたが、こうした問題の芽を事前に摘み取ることには、いつも失敗していた。
「……」
ホワイトは涙をこらえながら、無言で女性たちの亡骸を収容していった。
こんなときばかりは、身分を明かせないことが口惜しかった。
勇者の名を使えば人手の支援を得るのは容易い。だがそうすれば、勇者の所在が一瞬で広まってしまう。
人々の勇者に対する態度は極端だった。
平民は勇者を過剰に敬愛する。その敬愛ゆえに、勇者の噂を抑えようもなく拡散させてしまう。
貴族は未熟な勇者を足元に置こうと必死だ。勇者の影が少しでも見えれば、目の色を変えて群がってくる。
それらをすべてはねのけられるようになるには、少なくともA級にまで上り詰めねばならない。
勇者ホワイトの現在の等級は――B級。
「俺は……まだ弱い!」
亡骸をすべて収めたホワイトは、勇者としての旅路をさらに急ぐ決意を固めた。




