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ep.37 伐採隊

伐採隊が組織された。一度におよそ五十トンの木材を運べる規模だった。


伐採隊を作ろうと決めた会議から半月で編成されたのだから、なかなかの速さだ。


実は、それには理由があった。


「クオッ! 悪いご主人だ! この間、美味しいの一度もくれなかった! 怒った!」


「だから今回の仕事をちゃんとやれば、本当に十個やるって言ってるだろ」


「ほんとだ?」


伐採隊の護衛も伐採も、木を割って砕くのも、荷車に積んで帰り道の護衛までも、すべてオーガにやらせるつもりだったのだ。


『あいつの短い足さえなければ、運搬も任せられるんだけどな』


オーガはそもそも歩くこと自体を嫌う。


ギルドマスターは最初、オーガについて「縄張り意識の強い奴だ」と言っていたが、それは間違いだった。


私が調べた限りでは、ただ動くのが嫌いなだけだった。


巣に執着を見せるのは事実だが、それは一ヶ所から動かず長く生きてきたから自然に染みついた愛着にすぎず、縄張り意識とはまるで違った。


要は、オーガに無理やり木材運搬をさせれば、抑えが効かないほど怒り狂うということだ。


私だって人間だ。ギルドの仕事で目を離した隙に、あいつが暴れでもしたら――あの日のような災厄がまた訪れる。


だが木を倒す、砕く、割るといった作業はほとんど動き回る必要がない。多少ストレスが溜まっても団子で機嫌を取れる。


だからこそ、木材を運ぶための運搬部を最大限に集めたのだ。


「今度は約束守れよ! でなきゃ本当に怒るからな! クオオ!」


「わかったって」


私はぞんざいに答え、運搬部の総監督に向き直った。


「こちらの準備もできました。行きましょう」


この運搬部の人々、特に総監督はオーガを怖がってはいけない。そこで私は数日かけて、オーガに芸を仕込ませたり愛想を振りまかせたりして、警戒心をかなり解かせておいたのだ。


「よし、出発だ」


初日は私も同行することにしていた。


オーガの餌を世話してやる必要があるし、伐採隊の作業がどの程度の速さで進むのか把握しておかなければならない。


そうして伐採隊の遠征と、私の出張予定をすり合わせるのだ。


「それでは、行って参ります!」


私は代表して城門の前に立ち、挨拶した。


門の前も城壁の上も、見送りに来た人々であふれていた。


「どうか無事で戻ってきてくれ。そなたたちの成功に、バザールの未来がかかっておる」


一番前で我々を見送ったのは、領主ダリウス・バザールだった。


領民の信任を失っても、なお責務を果たそうとする姿だった。


『……でも、別に戦に行くわけじゃないんだがな』


遠征や略奪に行くのでもなく、ただ木を切るだけだ。


成功だの失敗だのを口にするほどのことでもない。


それでも領主を含めた全員が、まるで戦場に赴く兵を送るように熱烈に声をかけてくるのだった。


「必ず無事で戻ってきて!」

「良い結果を祈ってます!」

「救世主さま! いつもありがとうございます!」


挙げ句に領主は、自分が使う旅用の馬車まで貸してくれた。


私はその馬車に乗り込み、苦笑しながら手を振った。


「いらっしゃいませ。ごゆるりとおくつろぎくださいませ、ご主人様」


馬車の中には、すでにウスキが乗り込んでいた。


領主の馬車といえども衛生面が心配だと、先に掃除に入っていたのだ。


「ありがとう」


「いえ、とんでもありません」


ウスキは目覚めた直後、不安が極限まで高まってリシの前で甘えた子供のようになっていたが、不安が解消されたあとは、このように他人の前では落ち着いた態度を保っている。


ただし、二人きりになると前よりも甘えん坊になった。


今回ウスキを連れていくのには、もう一つ理由があった。


「出発!」


総監督の声で、私たちは皆の期待を背負って旅立った。


――森に到着したのは、二日後のことだった。


馬なら一日で着く距離だが、オーガが何度も「休む」と寝転んだせいで遅くなったのだ。


もっとも、そのオーガのおかげで近隣の魔物に襲われる心配はなく、野営はずいぶん気楽だったが。


『あのまま急かさなければ、一日中寝転んでいたかもしれないな。……計画を修正すべきか』


本来なら私は一度だけ伐採隊に同行し、その後は出張に出ている間も伐採を進めて木材をできるだけ積み上げておくつもりだった。


だが今の様子を見る限り、私がいなければオーガは絶対に協力しない。


そして一つ重大な問題点があるが、奴隷視野共有はオーガーにも使用可能だが、LINE機能はなぜか使われなかった。


私が遠隔で命令を下すことができないのだ。


主人の命令権で「総監督の言うことを聞け」と命じればいいと思うかもしれないが、オーガと意思疎通できるのは私だけなのだ。


『今やった作業を、次から私が戻るまで同じように続けろ』


そう命じようと思っていたが、数時間ならともかく数日かかる仕事を、たった一言で隙なくこなしてくれるとは到底思えなかった。


かといって一日中横で逐一指示しても、この愚鈍な奴が全部覚えてこなすとも思えない。


『この件は帰ってから対策を考えよう。今は伐採を見届けるか』


「おいオーガ。ここでどうするか、覚えてるか?」


「覚えてるだ!」


「じゃあ、言った通りにやってみろ」


「クオ!」


オーガは得意げに近くの木へ歩み寄り、持ち上げた。


この森の木々は大きさも太さもさまざまだが、伐採対象は建物五階ほどの高さで、五人がかりで抱えてようやく囲めるほどの巨木だ。


そんな木が、根こそぎ引き抜かれた。


――ドオン!


オーガがその木を無造作に放り投げ、地響きが起こった。


「おい! もっと慎重に下ろせ! 下手すりゃ人が死ぬぞ!」


人々は森の外れに十分距離を取ったつもりだったが、木があまりに大きく、危うく押し潰されるところだった。


「クオ! わかった! じゃあ砕くだ!」


砕く要領については、「あまり細かくしすぎるな」とだけ伝えてある。


木が巨大だから、オーガが乱暴に割っても持ち帰って加工すれば使えるのだ。


「クオオ! ウオッ! クオオオ!」


オーガは期待通り、木を滅茶苦茶に叩き割っていった。


こうして粗く砕かれた木片を、人間たちが繊細に割り直し、荷車に積んでいく。


割り残りのくずも捨てる必要はない。 燃料として有用に使われるだろう。


木は本当に捨てるものが一つもないありがたい存在だ。


「よし、次の木だ!」


「クオ!」


こうして数本の木を砕いた時点で、目算でも五十トンを優に超えていた。


「よし、もういい」


「クオオ! じゃあ美味しいのくれるんだ?」


「ああ、ほら」


【オーガの餌を十個購入しました】


今回は本当に、団子を十個買ってオーガに渡した。


「クオオオ! 良いご主人!!! ありがとぉだ!!!」


「団子やっただけで、すぐ良いご主人に変わるんだからな」


苦笑する私をよそに、オーガは肉団子をがつがつと食べ始めた。


「さあ、皆さんもう少し休んだら再開しますよ」


私は二日の疲れを癒やしている人々に声をかけた。


そして総監督に近づき、尋ねる。


「どれくらいかかりそうですか?」


「ふむ。この調子なら三日は見たほうがいいでしょうな」


「三日、ですか」


ちょうどいい。


「ウスキ!」


「はいっ!」


領主の馬車からウスキが飛び出してきた。


「監督さん、オーガはここに残していきますので、安心して作業してください。私は森の中へ少し行ってきます」


「え? 危険ではありませんか?」


「ええ、大丈夫です」


私は一度ウスキを見やってから答えた。


「……そこまで断言されるなら。お気をつけて」


「はい」


私は森の方へ向き直った。


「行こう、ウスキ」


「はいっ!」


ウスキは私が森へ連れていく理由を問うこともなく、素直についてきた。


いや、むしろ何かを期待しているようでもあった。


他人の前では落ち着いた態度を装いながらも、妙に浮き立つ足取りで私の後ろに続いてくる。


やがて人目が届かなくなると――


「ご主人さまぁ!!!」


ウスキが無邪気に、背中へ飛びついてきた。


「やれやれ。これじゃどっちが主人でどっちが奴隷かわからん」


「えへへ~、一度だけでいいから、おんぶしてください。 ね?」


もちろんウスキは魔力で自分の重さを軽くしているので、全く負担はなかった。


体重そのものを減らすのではなく、ほんの少し浮かせているのだ。


Cランク以上になると魔力を念動のように扱えるらしく、Bランクなら腕力だけでDランク並みの膂力に匹敵する力を出せるという。


だから最近のウスキは、呼ばれたり急ぎの用事があれば文字通り飛んでやってくる。


それなのに、わざわざおんぶをせがんでくるのだ。


「わかったよ」


私は重さは感じないものの、きちんとおんぶしている格好を取ろうと、後ろ手に回してウスキの尻を支えた。


最初は普通に腿を支えていたのだが、「不安だから尻を持って」と駄々をこねられ、こうなったのだ。


「ん♡」


耳元で、満足げな声がもれた――まるで艶めかしい吐息のような。


「さあっ!行くぞ」


私は頭を振って知らぬふりをし、歩を早めた。


「ひひっ!」


そんな私を見て、ウスキはいたずらっ子のように笑った。


『本当に、どこが主人と奴隷なんだか』


まるで、姪にからかわれる叔父のようだ。


「ご主人さま、これからどこ行くんですか?」


ようやく気になったのか、ウスキが尋ねてきた。


「私の記憶が正しければ、この先一日ほど歩けば小さな洞窟がある。そこへ行く」


「ええっ!? やだやだ~そんな人気のない所にか弱い女の子を連れてって、何をなさるおつもりですかぁ!」


「誰がか弱いんだ。バザール最強の女が」


それでも、ウスキがこのように軽く近づいてきていたずらもしたりすると、本当に安らかな関係になって、このようなツッコミも自然に出てくる。


「えへへ~。で、ほんとに何をしに行くんです? そこに何があるんですか?」


「奇縁だ」


「奇縁?」


「ああ」


私は歩みを止めず、頷いた。


「勇者の奇縁を借りに行くんだ」

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