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マルコスとの就活面接

マルコスと一緒にギルドマスターの前に立った。


ギルドの二階にはギルドマスターしかいなかった。


ヴェルミスは冒険チームの事務所に戻し、リシにも休憩室で休むように言った、とのことだった。


『職員用の休憩室は一階のはずだが? マルコスに駆け寄ったときの話か?』


そんなことを考えていると、ギルドマスターの溜息が聞こえた。


「……はあ。君よ、さっき嬉しそうに自慢していたアルバスとやらはどこへ行ったのかね? 代わりにマルコスを連れてくるとは。」


ギルドマスターは失望した様子で言った。


「えっと……お二人はご存じの仲だったんですか?」


「バザールで活動しておる傭兵の数など知れておる。知らぬはずがなかろう。」


正確に言えば、彼は傭兵から引退し冒険者として活動していたが、この業界ではそんな区別はほとんど意味がない。


傭兵出身なら、単に“傭兵”と呼ばれるのが常だった。


『さっき紹介した者がこの人です!ってハッタリは無理か……』


それでも、押し通すことにした。


「アルバスは長くバザールに滞在しないと思います。でもマルコスさんの実力はそれに劣らないはずです。」


「傭兵は雇わん。慣例じゃて。」


だが、ギルドマスターは首を横に振った。


「チッ! 当事者の前でよくそんなクソみたいなこと言えますな。」


マルコスにしてはずいぶん丁寧な抗議だった。


「無礼を承知の上で言わせてもらったが、事実は事実じゃよ。」


「へぇ、へぇ、どうせ傭兵なんぞお気に召さないんでしょう。」


マルコスは皮肉を込めてギルドマスターを見たあと、「見たか」と言わんばかりに私を見た。


『慣例とか、どこの老害発言だよ……』


反発心が湧いたが、まったく理解できないというわけでもなかった。


地球の歴史でも、先祖の知恵より新しい知識の価値が高まったのは第三次産業革命以降だ。


この世界では魔法が科学の多くを代替しているとはいえ、時代的にはまだ中世にとどまっている。


ならば、当然伝統や慣例は極めて重要な価値なのだろう。


……だが、それでも私のように急ぐ者にとっては厄介にしか感じられない。


『そんな設定、ゲームで見たことないんだが!?』


最大の問題は、“なぜ傭兵を正規職として雇わないのか”その理由をまったく知らないことだった。


今思い返せば、ゲームでも雇えるのは冒険者ばかりで、傭兵はそもそも候補になかった。


でもまさか、こんな事情があるとは誰が思う?


『交渉ガイド!!!』


答えが見えないこの状況で、私はのび太くんがドラえもんを呼ぶ気持ちで、交渉ガイドを呼び出した。


---


交渉内容を更新します。


交渉当事者 : マサかオ•ウガ、エイタン


交渉タイプ : 他者の採用交渉


交渉目標 : ヴェルミスの解雇およびマルコスの採用


交渉ヒント :

① 相手はあなたの提示した条件を拒否します。ただし、交渉の余地があります。

② あなたには他の交渉カードがありません。

③ 相手は現在、信念によって行動しています。ただし、突ける隙があります。

④ 相手の交渉目的は信念です。物質的な報酬よりも精神的価値を提示してください。

⑤ 説得のみで交渉が成立可能です。説得ガイドを開始しますか?(開始/キャンセル)


---


『よしっ! 説得できる!』


交渉ガイドの内容がさっきとは変わっていた。


マルコスを連れてきたことで、交渉は新しい局面に入ったのだ。


『慣例に従うのも信念に含まれるのか? まあ、いいや。重要なのは最後の一行……!』


説得ガイド。交渉ガイドのサブ機能と考えればいい。


もちろん、広い意味では交渉中のすべての言葉が説得に含まれる。


だが、説得ガイドは金銭や物資などの条件ではなく、言葉だけで交渉が成立可能なときにだけ起動する特別機能だ。


『始めよう!』


「説得を開始します。」


説得ガイドは一度にすべての情報を提示するわけではなく、ステップ・バイ・ステップで進行される。


「正規職に傭兵を採用しない慣例が生まれた理由は、傭兵の“非協力的な性質”にあります。


雑務をいとわない冒険者と異なり、傭兵は戦闘や護衛に関する依頼に固執する傾向が強く、扱いづらい存在とされてきました。


まずこの点を自ら話して、相手の信頼を得ましょう。」


「ギルドマスター。」


私は声を落ち着かせ、説得ガイドの指示をそのまま口に出すように語った。


相手の懸念を先にこちらから話すことで、「それを分かっていてなお提案するのか?」と自然に思わせる。


その思考自体が、私の主張に対する興味を生むのだ。


「ふむ。よう理解しておるではないか。その上でマルコスを推す理由があるのかね?」


「マルコスは、傭兵としての誇りよりも、家族を守る選択を取れる立派な家長です。これを強調してください。」


『交渉ガイドが認めたロマンチストとは……』


ツンデレなマルコスへの好感度が一段と上がった。


『説得ガイドに、私の方が説得されそうだな。』


その気持ちのまま、私はギルドマスターにマルコスのことを伝えた。


「ふん。家族のために金を稼ぐためならどんな依頼もこなす……そうは言うがのう、あやつは誇りの塊のような奴じゃ。わしが耳にしてきた噂を知らぬとでも?」


ギルドマスターはこれまで耳にしたマルコスに関するトラブルを挙げ、正規の依頼ではパーティの協調性が重要だと語った。


「あなたはすでに、マルコスの優れたリーダーシップと協調性を目の当たりにしています。それをうまく説明してください。」


今回は少し曖昧なガイドだったが、何を言うべきかはすぐに分かった。


「ギルドマスター。先ほど私がここバザールに来る途中、ゴブリンの群れに襲われた話を覚えておいでですか?」


「もちろんじゃ。アルバスとやらの活躍が見事だったと申しておったな。」


私はにっこりと笑って頷いた。


「実は……」


私はその時の出来事をもう一度説明した。


今度はマルコスに焦点を当てて。


ゴブリンの群れが現れたとき、誰よりも先に立ち上がったこと。


ゴブリンが矢を放とうとする気配にすぐ気づき、他の者にまず伏せろと叫んだこと。


そして、自分も伏せた後に誰よりも先に馬車を飛び出し、ゴブリンの群れに突っ込んでいったこと。


終わった後も、自分に先に絡んできて死んだ相手の遺体を、文句一つ言わず片付けたこと。


『うーん……自分が思っている以上に、私はマルコスを高く評価していたのかもしれないな。』


「人を説得するには、まず自分を説得せよ」とはよく言ったものだ。


まさにその通りで、私は自分の言葉に納得していた。


「……お前、人を照れ死にさせる気か。」


面と向かって称賛されたマルコスは、照れた様子でそう言った。


無表情のままで。


『キャラづくりが徹底してんな……さて、肝心のギルドマスターの反応は?』


意外にも、彼は複雑な表情で私を見つめていた。


「お主……まことに妙な奴じゃのう。」


「はい?」


ギルドマスターはいきなりそう言った。


「リシ嬢はお主にとって何なのじゃ? 一目惚れでもしたのか? 何故ここまで尽力するのかの?」


『……うぐっ!』


一目惚れとまではいかないが、手を握られた時にときめいたのがヴェルミスに初めて食ってかかったきっかけだったのは、事実だ。


「それは……正しいことだと思ったからです。」


どう答えるか悩んだ末、そう答えた。


私の言葉を聞いたギルドマスターはうなずいて、口を開いた。


「よかろう。お主の提案どおり、ヴェルミスは解雇し、その席にはマルコスを雇おう。マルコスよ、お主は大人しく働けるのか?」


マルコスは信じられないという表情で答えた。


「もちろんです。」


「交渉成功!


あなたはエイタンとの他者の採用交渉に成功しました。


ガイド目標:ヴェルミス解雇およびマルコス雇用。


交渉成果:

① ヴェルミス解雇。

② マルコス雇用。

③ マルコスの好感度上昇!態度にやや変化が見られます。

④ エイタンの好感度もわずかに上昇。


⚠注意:今回の交渉成果により、「人の感情」という無形資産を得ました。これは変動性の高い資産であり、あなたの今後の行動によってその価値が大きく変動します。


交渉ポイントが支給されます。

ポイント:1,000pt」


『やった!』


「ついてまいれ。」


ギルドマスターがマルコスを伴い冒険チームの事務所へ向かうのを見送り、私は拳をぎゅっと握りしめた。


「お主は一階へ降りて、ミア嬢から残りのギルド案内を受けてきなされ。明日また会おうぞ。」


途中でギルドマスターが振り返り、そう言った。


「はい!」


私は元気よく返事をして階段へ向かった。


―ササッ!


「?」


階段に近づいたとたん、何かが素早く逃げるような音が聞こえた気がした。


『……ネズミか? まあいい。』


少なくとも今だけは、この達成感に浸っていたかった。

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