招待
本来なら友人たちと酒を酌み交わしているはずの週末の夜。
だが俺は、酒の代わりにキーボードの前に座り、ゲームに没頭していた。
通称「ギルド・タイクーン」と呼ばれるこのゲームは、中世ファンタジーの世界観に現代的なビジネス概念を融合させた作品であり、経営を好み、経営学まで専攻した俺にはまさにどストライクのゲームだった。
「は〜、楽しいな。中学以来だな、家にこもってゲームばかりやるのは。」
ゲームの内容は単純明快だ。
現実の企業を彷彿とさせるファンタジー世界のギルドに新入社員として入社し、そのギルドを発展させていくのだ。
もちろん、新人から社長までの超高速昇進というゲームならではの設定も健在。
タイクーン系ゲームはジャンルの特性上、明確なクリア目標を設定しにくい。
他のゲームはそれをさまざまな方法で補っている。
ギルド・タイクーンでは、プレイ期間に制限を設ける方式を取っていた。
つまり、「勇者ホワイト」が魔王を討伐するまでの期間内に、できる限りギルドを育てるというものだ。
「おおっ!ついに!」
思わず歓声が漏れる。
舞台となる「ファインギルド」――俺が育てたギルドが、ついに帝国一のギルドとなった瞬間だった。
―ピコン!
その時、LINEの通知音が鳴った。
画面を確認せずとも、誰からのメッセージかはだいたい想像がつく。
『退職した人間を週末まで困らせてくるとは…』
現実でも、俺は平凡な…いや、いわゆるブラック企業に勤めていた。
そして退職した。理由はいろいろ付けられるが、重要なのは一つ。
『人運がなかった。』
俺は会社に全力を尽くしていた。自分の会社でもないのに、売上だけで中堅企業クラスまで引き上げそうになったほどだ。
だが――
「チッ。」
蘇るブラック企業の記憶を振り払って、ゲームを続けた。
もうすぐ、俺の努力の結晶がモニターに表示されるはずだった。
―ピロン!
その時、モニターの隅にメールの通知が表示された。
「マジでうざいな…」
そう毒づきながら通知を消そうとしたが、よく見ると会社からではなかった。
「ゲームをプレイしてくださった政嘉男 宇賀さんへ」
メールの件名がちらりと見えた。
開発者からのメールだった。
俺の名前を知っていることには驚きはない。ゲーム内のキャラクター名を本名で設定していたからだ。
つまり、キャラ名として送られてきたのなら何の不思議もない。
『なんだ?スコアが圧倒的すぎて、他プレイヤーのやる気を削ぐとでも?』
このゲームにはオンラインランキングがあり、自信はあった。俺の記録が一位のはずだ。
ゲーマーとしてのプライドが天まで舞い上がる。
開発者の謝罪文を冷やかし半分で見るつもりで、俺はメールを開いた。
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「ゲームをプレイしてくださった政嘉男 宇賀さんへ
おめでとうございます。あなたはギルド・タイクーンの世界へ招待されました。
拒否権はありませんよww。」
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招待の文言とともに、意味不明な図が添付されていた。
そして、その図を見た瞬間――世界が点滅した。