本物ではない
五、
ジョウカイはエセ坊主である。
おおがらで頭を剃り、首には粒のそろった水晶をながくつなげたおおげさな数珠をさげているし、旅の僧侶のような顔をして鉢を手に、その土地にある寺の経もよんで施しもうける。
だが、この世のどこの寺でも修行したことはないし、どの宗派にも属したことはない。だからといって、あたらしくおこした信仰などももっていない。
手にした杖には、さまざまな経からぬきとったお題目が彫られており、いっけんありがたいようにみえるが、本物の坊主にはみやぶられてしまうから、むこうから坊さんがやってきたときなどは、すぐに脇道にはいり、かくれる。
偽の坊主というまえに、ジョウカイは人ではないのだ。
いや、ただしくは半分は人だ。父は人だが、母はよくいう、妖怪の類のものである。
その母の親戚だとかいう男があるひやってきて、まだ幼かったジョウカイを坊主にする、と決めたのだ。
ふだんは怒ったことのない父が、そのときジョウカイのまえではじめて刀をぬき、《おじ》だという男に怒った。おまけにその刀は、青く重い火をまとってみせ、幼いジョウカイは、―― それをかまえた父が、こわくなってしまった。
こわい顔のこわい父に、みずから、坊主になる、と泣いてすがったので、父はしかたなく刀をおさめ、ジョウカイはこうして《坊主》になっている。
人とそうでない者との間にたつ坊主となって散歩にでると、ジョウカイでなくてはおさめられないようなことにあう。
だからジョウカイは、まだ《坊主》を続けているのだ。
研いだ包丁を震える手でもちあげた女の手をとめるように、ジョウカイは手をかさねる。
「 こわいはなしだのオ。それで、もう、どちらが本物の旦那かわからぬので、いっそ片方をなくしてしまおうかと思うたのか?」
「どちらかが、バケモノなのでございます」
「むう。だからといってやみくもに殺してしまったら、本物のほうを殺してしまうやもしれぬぞ」
「ですが、みわけがつきません。お寺でいただいたお札を張っても、どちらも『これはなによけの札か』とさわり、おなじ顔で同じ声でしゃべり、おなじようにうごくのでございます」
女の手から刃物がおちる。