バケモノと戦う
座布団を庭で燃やしているときに夫がかえってきた。
妻が燃やしているのがじぶんの座布団だときづいた夫は、どうしたなにが気にいらなかった、と怒ったようにきき、これは本物の夫だと感じた途端に泣き出した妻に、夫はそれいじょうはなにも言わなかった。
「 すぐに、《むこう山》のお寺へゆき、ご住職にはなしをきいていただきました。するとすぐに大笑いされ、『それはきっと、タヌキかキツネにからかわれているのだろう』といって、『つぎに出たときは、棒でうちすえればよい』と。獣は痛い目にあえばすぐに逃げてゆくものだと教えていただきました」
戸にかませる棒を用意し、待ち構えた。
そうして一日、家じゅううろついたが、どこにも出なかった。
「帰ってきた夫をむかえると、このごろ顔色がよくないといわれ、なにかほっと息をつけたおもいがいたしまして、ここまでのことをようやくはなそうと振り返れば、・・・もう消えていました。アレは、昼間にでるものだとばかりおもっておりましたのに・・・」
ときをおかずに本物の夫が帰ってきたが、こちらの顔色になどふれることもなく、すぐに目をそらされた。
後日、やけに早く帰ってきた夫にいきなり水をかけたがタヌキやキツネにもどらず、本物だとしれた。夫はしばらく熱をだして寝込んだのだが、そうするとあちこちの部屋で寝間着の夫をみかけ、今度こそ棒で叩いてやろうとかまえると、便所にゆくのに起きた本物の夫だった。 しかも、そのあたりからニセモノが急に消えることがなくなった。
本物の夫が家にいてもうまく動き、あっちでもこっちでも姿をあらわし、夫がそれを目にすることはない。こちらがだしたお茶もすまして飲むようになり、膳の飯も箸をつかって食べる。廊下をあるけば人の重みほどで床が鳴るし、獣の匂いもしないうえに、ついには、仕事や知り合いのはなしまでするようになった。
もう、 ―― どう見分けをつけてよいのかが、わからない。
困り果てもういちど寺にゆくと、前とは違って顔をしかめた住職が、こちらの住居をきいてきた。
『 あー、あのいえにお住まいか・・・』 だとすれば、ケモノではないかもしれぬと、経をあげてくれて、玄関と部屋に貼るようにとお札をくれた。
『真四角だという部屋がまだありますかな?でしたら、そこへはるとよろしい』
ここでようやく、住職からあの家でまえの借主に起こったはなしをきいた。
バケモノがいる?あのいえに?
それと戦って死んだ?
―― それならば・・・、
あたしが戦わねばならぬ相手は、ショウスケだ