罠かもしれぬ
三、
ショウスケはおのれの家をあらためてながめ、なんだか落ち着かなくなってきた。
こんなふうに得体のしれない坊主をつれて帰ったら、いったいどうなるだろう。
玄関に先にはいり、おそるおそる帰ったことをつげると、うかがうように顔をだした妻が、おかえりなさいまし、と暗い声でむかえた。
「ああ、こちらのお坊さまは、その、」
「おまちしておりました。どうぞこちらへ」
ショウスケが坊主のことを紹介するまえに、妻はお辞儀をして坊主をむかえた。
まるで、来ることがわかっていたかのようだ。
暗い廊下をまがってすすみ、つぎにめんしたふすまをほそくあけて、妻はうしろについてくる男二人をにらむようにふりかえってから部屋にはいった。なにも気にすることなくあとに続こうとする坊主の袖を、ショウスケはあわててひいた。
「お坊さま、お坊さま、これはもしや罠かもしれませぬ」
いつもはこちらと顔を合わすのもさける妻が玄関まで出迎え、坊主のことを問いもせずに家の奥へ導くなど、どう考えてもおかしい。
「ば、化け物は不思議な力があると申しますから、さてはお坊さまがくることを予見してまちかまえていたのでは」
ショウスケが声をひそめてつたえたことを、坊主はおもしろそうにわらいとばした。
「ならば、ここから先がみものだぞ」
「いやいや、部屋にはいったとたん、襲い掛かって来るやもしれません」
「むこうから出てくるのなら手間がはぶけて良い」
「そんな、むこうが刃物をもちだしたらどうします?」
「バケモノが刃物か。それはないだろう」あやつらは、そういうモノが苦手だからな、と言い切るなり、ふすまに手をかけ、ひらききった。
ショウスケは、坊主の陰にかくれるように身を縮め、なにかが襲ってくるのをまちかまえた。
「お待ちしておりました」
部屋の中で誰かがそういって、ショウスケはそうっと首をのばし、部屋の中をみた。
妻が、隣の部屋との仕切りになっているふすまに背をつけるようにして立っている。
そこから離れたところに、
座布団にすわる
―― ショウスケがいた。