なにがモトか
二、
ずいぶんと歩いてからはいった料理屋は、ショウスケが仕事仲間のあつまりでなんどか訪れたことにある店で、むかえた店のおかみは連れの坊主をみとめ、なにかを察したように奥の離れへと案内した。
すぐ裏に竹林がせまり昼間でも薄暗いその離れは、おかれた火鉢がひとつではとてもあたたまれそうもなかったが、人にきかれたくないはなしをするのにちょうどよい。
店から届けられたお茶をうまそうに飲む坊主があやしいことに変わりなかったが、だれかにきいてほしかった。
「 その、わたくしはこのあたりで一番大きな」
「いやいや、そういうことはきかぬ。ただ、『よくないこと』が、どのようなものなのかをきかせてもらえぬか」
「・・・はあ。はい、ええ、その、 ―― みつきほどまえからになりますが・・・、家の者のようすが、なんだかおかしくなりまして・・・。はじめは、わたくしをおそれるような顔でみていただけなのですが、だんだんとめつきがけわしくなり、ひどいときには戸口をおさえる心張棒までむけられるようになり、いまではかおをみるたびに、心無いことばをなげられ、罵られるようにまでなりました・・・」
坊主がおもしろそうにくちもとをゆるめたので、あわててつけくわえる。
「いいえ、なにも、妻にとがめられるようなことなどしておりません。どこにも女はおりませんし、まじめにつとめております。そりゃあ、酒をのむことだってありますが、深酒などはせず、この料理屋での集まりも、一番初めに帰り支度をするほどでございます」
そう。なにが元でこうなってしまったのか、はじめはまったくわからなかったのだ。
「ようは、おくがたさまが、きゅうにおかしなことになったと?」
「はい」
「おのれに身に覚えはないと?」
「ええ」
「おくがたさまに、わけをたずねられたか?」
「わたくしが?いえ、たずねるどころか、こちらが近くによろうとすると、逃げるか、棒をむけてまいるほどで・・・」
ほお、とわらった坊主が湯呑をあおった。
「笑い事ではございません。はなしもすることもできず、にらまれるばかりなど、手のほどこしようもございません。 ―― ただ、 」
「『ただ』?なにか手の打ちようを思いつかれたか?」
坊主は軽い身のこなしでたちあがると、むこうの火鉢にかけられた鉄瓶から湯呑にお湯をついだ。