用心せねば
まちなかで道のむこうに立っていたのは、色のぬけた着物を着た禿げ頭の大きな若い男で、首には透明な粒をつなげたながい数珠をさげ、経だかなにかの文字を刻んだ杖を手にしていた。
その姿をみとめたとき、むこうが、おお、とこえをあげて寄ってきたのだ。
まるで、めあての者をみつけたかのように。
だから、まえにどこかで会っていただろうかとも考えたのだが、それもちがった。
はじめて会った坊主が、いきなり、気にしていることを言い当ててきた。
―― これは、用心せねば
このごろはお山で修行もしていない行者が、それらしいことを言って家にあがりこみ、高いお祓い代をせしめたることがあると、このまえ耳にしたばかりだ。
「よ、『良くないこと』、の、ひとつやふたつ、どこの家でもおこるものでございましょう」
坊主がなにか言う前に、言ってやった。
まあ、これでもし、お札かなにかを売ってやろうと言ってきたら、値をきいてから、買ってやってもいいだろう。それに、あの首にさげている数珠。きっとあれは水晶だろう。そういう数珠を買えと言うならば、それぐらいは、買って帰ってもいい。
だが、坊主を連れて帰るのは・・・・。
「うむ、そうか。これはですぎたことをくちにした。では、これにて」
「うええ?」
いきなりきびすを返して坊主はむこうへ去ってゆく。
「 お おまちください!お坊さま!あの、その、なにか、なにか手立ては?『良くないこと』に効く、なにか、お札などございませんか?」
「あいにくとそういうものはもちあわせておらぬ。まあ、『むこう山』にある寺にでも、もらいにゆかれるとよい」
「で、ですが、それらの札は、すぐに燃やされてしまいました」
「ほお。燃やされたと?」
ようやく坊主は足をとめた。
「それは、なかなか『良くない』のオ。 ―― なにかお困りなら、拙僧にすこし話してみてはいかがかな?」
ふりむいた坊主のやさしい笑みをめにして、ショウスケは腹にためていた力が抜けたように座り込んだ。