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どれほどふえるか

ここでおわりです

おもしろそうにわらっている坊主と目があった。

「さあて、ショウスケどの、どうする?」


「はあ?どうするもなにも、こいつがバケモノで、わたしの『中身』をうばっていると、はっきりしたじゃあないですか。はやいところこいつを、この世から消してください。気味きみが悪くてしょうがない」


 強気になって唾をはきかけるようにいうと、妻ににらまれた。


「なんだその目は。おまえもいま、きいただろう?いいか?そいつはな、」



「ショウスケどのだと言うただろう」

 のんきな坊主のこえがはさまる。



「そう、わたしだ。・・・が、そうではなく、そっちはバケモノなのだから、」


「いやいや」と、坊主が首をふる。「 ―― だからな、そっちもショウスケどのだ。まあなんというか、この家が産んだショウスケどのだとでもいえばいいか」


「・・・・家?」


 坊主はふたりのショウスケが立つところをゆびさした。

「そのあたりだろう。真四角の板の間があったというところは。そこがな、すこしおかしなぐあいにゆらいでおってな。まあ、遠い昔は井戸があったかもしれんが、いまはいい。ともかく、そのゆらぎのせいで、この家に住むものが、もうひとりできるらしい」


「だから、それがバケモノだと」


「いや、『もうひとり』なのだ。よいか?この家の前の借主だという男がひとりで死んでおったのは、『もうひとり』のおのれを刺し殺したからだ。普通のバケモノであったなら消せるかもしれないが、あいてはただの『おのれ』だぞ。それゆえ、刺した傷がすべてかえったのだろう。元の者が死んだので、もうひとりも死んでようやく消えたのだ」


「そ、そんなばかな!」


 ショウスケがさわぐのなどきこえぬように、坊主はバケモノと認めたショウスケと手をとりあう妻に声をかけた。

「そういうわけでな、一人を刺すと、もう一人にも傷がつく。くれぐれも、短気をおこさぬようにな」


 妻はすなおにうなずいている。



  なにを?


 この坊主は、なにを物騒なことを言っているのだ。


「坊主のくせに、バケモノをほうったままか!」

 どなったショウスケに、部屋をでようとした坊主はふりかえり、にやりとわらいかけた。


「その『バケモノ』はあんたでもある。それに、あとからできたショウスケのほうがどうやらいい男になりそうだな。 ―― よいか、あとの『ショウスケ』どの、これいじょうもとのショウスケどのの『中身』をとるなよ。アヤカシでもないおぬしがそんなことをしても、元のショウスケどのは消えたりせぬ。あとはな、この家をはやいところでたほうがいいだろう。どんな坊主のどんな札も、そのゆらぎはなおせまい。さもないと、 ―― 」



 すううう、とふすまがひらく音がしてショウスケはむこうをみた。


 となりの部屋にだれかがはいって、とん、とふすまはとじられた。


 坊主はいつのまにか消えていた。



 のこされた三人が顔をみあわせたとき、こんどは玄関のほうの廊下が鳴った。



 そうしてつぎには庭の木戸が、だれかがとおったようにひらいてゆれた。




 

 「 ―― 『ショウスケ』がどこまでふえるか、わからぬだろう」





 どこからかひびいてきたジョウカイの声は、わらいをふくんでいたが、三人は悲鳴をあげてだきあった。







 ショウスケが、ふたりよりあと、ほんとうに増えたかは、


  ―― ジョウカイも知らぬという。


 






目をとめてくださったかた、おつきあいくださったかた、ありがとうございました!

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