くらべたい
ゆびさされた坊主は声をあげてわらいだした。
「あやしいのはそちらも同じではないか。家にかえるのをずいぶんとしぶっておったの」
「そ、それは、このごろ、あやしい坊さんがいるというので」
「それに、このごろ物覚えが悪くなったと言ったが、さて、それはほんとに『このごろ』か?だとしたら、前のことははっきり覚えているだろう?ショウスケどの、いつ、どこでお生まれになった?」
「それは、 ・・・・・」思い出せない。
「この家にすみはじめたのはいつごろからだ?」
「いつか・・・ええっと・・・」これも思い出せない。
だが、坊主の言葉をおもいだした。
「 は、刃物を!たしか、そういうものが苦手だと、さきほどおっしゃいましたな。それならば、わたしとこの男で、くらべてくださいまし!」
「そうか?くらべたいか?いいのだな?」
すると坊主が懐から、真っ黒な鞘におさまった小刀をとりだした。「刃物は魔がつくこともあるが、手入れされた刃物は魔をよける」鞘から身をひき抜くと、ぎらりとひかる刃をたててみせ、まずはこの家でまっていたショウスケの前にだした。
刃の背をむけられているとはいえ、やはり手はだしにくい。息をとめるようにしてからそれに触れてみせた。
「やはり、触れられるか。さて、おつぎのショウスケどのはいかがかのオ」
目の前にたつそれをみているうちに、息が苦しくなってきた。
となりに立つ男は、つまむようにして刃を持った。
それでは、バケモノではないということか?
では、バケモノなのは、 ―――― 。
ぶるぶるとふるえる手は、もうすぐ刃に触れる。
バケモノだったら、この手が焼けるように痛いのか?それとも、一瞬でこの身が消えるのか?
触れたくなかったが、もう、どうすることもできなかった。