おのれがバケモノ
「はあ?なにを言ってるんだ」
「もうわかってるんだ。本物のショウスケさんはこっちだって」
「なんのはなしだ?この《バケモノ憑き》め」
ショウスケがまえにでようとすると、座っていたショウスケがすっくと立ち、妻のまえにでて坊主をみた。
「ここまできても無駄なあがきをするようだ。ジョウカイさま、このバケモノ、どうやって退治するおつもりですか?」
『 このバケモノ 』? だれが?
「ば、バケモノはそっちだろう?ほら、おぼうさま、これが罠だ。だからはいらないほうがいいと言ったでしょう」ショウスケは二人をゆびさす。
坊主は、なるほどのオ、と感心したような顔で三人をながめると、顎をさすっていった。
「このバケモノを退治するには、まずはバケモノにおのれがバケモノであるのを気づかせないとならんようだ」
「バケモノに?」「気づいていない?」むこうに立つ《ショウスケ》と妻がそろってこちらをみた。
「なぜこちらをみる?」ショウスケはひどく落ち着かなくなる。
バケモノがじぶんがバケモノではないなどと思うことがあるのか?
「うむ、こんなことはわしもいままで見聞きしたこともないが、どうもそういういことになっておる」じゃらりと、首からさがっていたながい数珠を坊主はとりあげた。
「おくがたさまはこちらへ。うむ。 ふたりのショウスケどのはこちらをむいていただきたい。 おお、ほんとうに同じ顔かたち。ふむふむ、それでは、これを、こうしてな、」
数珠で土俵のように輪をつくると、せまいその輪のなかにふたりで立つようにめいじる。
これでいいというようにうなずいた坊主が、妻にきく。
「このままでみわけがつくか?」
「いいえ、ですが・・・、立ち姿も堂々とした、こちらが本物だとおもえます」
「おお、そうだな」
笑った坊主にショウスケはあわてた。
「お、おぼうさま、こちらが本物でございます、バケモノがついておるのはそこの妻、わたくしとうり二つのこの男もきっと、そいつがだしたバケモノの類にございます」口にしてからすぐ隣に立つじぶんにぞっと肌があわだった。
バケモノとこんな近くでとなりあって、無事ですむわけはない。
ここでようやくおもいあたる。
「ああっ!!その坊主もやはり、おまえの仲間か!どうりであやしいとおもったのだ!」