あやしい坊主
雰囲気だけ時代小説の仲間。。。。 人ではない坊主が散歩にでるはなしです。
一、
「どこかでお会いしましたか?いや、このごろすこし、もの覚えが悪くなりまして」
男は頭のよこを指先でたたきながら首をかしげた。
「 いやいや、はじめてお目にかかる。このとおり、旅をしておる坊主なのだが、このあたりに足をむけたのははじめてでな」
「ああ、では、『むこう山』のお寺へ?」
「いやいや、ここでご厄介になれる寺はないので、すぐに過ぎようと思うておったのだが・・・」
「はあ・・・」
むかいに立つ大きな坊主は、身を低くすると、ぐう、と顔を近づけた。
「つかぬことをきくが、おぬし、家の中でなにか良くないことが起こっておらぬか?」
「っお、・・・よ、『よくないこと』とは?」
つい、すぐにうなずきそうになって、どうにかこらえる。
背すじをもどした坊主はこんどは上から篤とこちらをながめた。ふうむ、と顎をさすり、黙り込む。
「 あ、あの、お坊さま、『良くない』とは、その、 ―― 」焦れて、つい聞き返してしまってから、やはりよせばよかったとおもう。
むかいあって立つ坊主は、どうにもあやしい。