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第7章-空白のかたち-


“それ”は、音もなく始まった。


だがそれは「始まり」ではなく、今まで続いてきた現実が、ほんの少し“滑った”瞬間だった。


Echo5のラボに設置されたセンサー群が、次々と沈黙した。


記録はされている。電力もある。数値も動いている。

だが、何も“検出されていない”。



ミゲル「……これは、ゼロじゃない。“空間そのものが、消えてる”んだ。座標が……読み込めなくなってる」



美咲「まさか、空間が……抜け落ちてる?」


 


サオリ「違う、“消えてる”んじゃない。“観測できなくなった”の」


彼女は震える指で波形モニターを指差した。

そこには、通常の音波ではありえない、“絶対静止”の領域が伸びていた。


そこだけ、この世界に存在していないかのように──


 


そのとき、研究棟の床の一部が、沈んだ。


 


「崩れた」のではない。「落ちた」のでもない。

そこだけが、“存在していない”状態に置き換わった。


空間が、“ひとつずつ欠けていく”。

まるで、塗りつぶされた絵から、筆が戻ってキャンバスがむき出しになるように。



美咲「やっぱり、あの第二波……サオリの実験以降、

“向こう側”の構造がこの世界を上書きし始めてる」


ミゲル「それだけじゃない。たぶん、もう“こっち”の世界の構造が保てなくなってる。3次元の構造そのものが、耐えられてない」


サオリ「……私たちが“音”を使って干渉したせいで、構造に亀裂が入った。この空間は、今……音を通して破れ始めてる」


外では、街が静かに歪んでいた。

高層ビルの一部が、空の一角に“吸い込まれる”ように見える。

ただの錯覚ではない。角度を変えてもそこにあるはずのものが、

一方向からだけ“存在していない”。


 

世界の一部が、“観測できるはずの次元”からズレ始めていた。


 

サオリ

(音が……速くなってる。カウントが、限界に近づいてる……)


彼女の脳内に刻まれる音の周期は、もはや人間の聴覚では認識できない速度に達していた。

だが、それでも“意味”は伝わってくる。


 


それは、終わりの形を告げる“リズム“だった。


 

ラボの中央にあった空間が、まるごと“凹んだ”。



机も資料も、床ごと“視界から消失する”。

音も衝撃もなく、ただそこだけが、“なかったこと”になった。


その中心に、サオリは足を踏み出した。



ミゲル「おい、危ない! 引け、そこはもう……」


 

サオリ「違う。ここが“中間領域”──構造の境界面。

この“空白”の形こそが、向こう側と繋がる入り口なの」


 

彼女の足元で、空間が静かに震えていた。


 

その震えは、世界中に連鎖していった。


山が揺れるわけでも、海が割れるわけでもない。

“場所”という概念そのものが、少しずつ抜け落ちていく。


 


そしてサオリは、空白の中に“見た”。



言語を持たない存在たちが、

構造の奥から、音だけで訴えている。


 

「限界を超えた。止まらない。接触は完了した。

収束点を選べ──修復か、再構成か」


 


サオリは、その意味を理解した。



彼らが“選ばせようとしている”のだと


 


次のサオリの選択が、世界のかたちを決めるということを


 


 


――了

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