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9 お出かけ

「セイラ嬢、街に行ってみないか?」

「え?街に、ですか?」


 セイラがレインダムへ来て四ヶ月が経った。その間、セイラは毎日ダリオスの腕の浄化をし、国と国に住まう人たちのために祈りを捧げ、瘴気の強い土地へ出向き浄化をしていた。


「ここに来てから聖女として過ごすばかりだろう、息抜きも必要だと思うんだ。一緒に街へ行くのもいいんじゃないかと思って。どうかな?」

「ダリオス様と、一緒に?」


 ポリウスにいた頃は、街へ出かけたことなど一度もなかった。ルシアと一緒に聖女として行動することもあるが、危険な場所へ行く時にはセイラ一人だけ、もしくはルシアは安全な場所で待機してセイラが現地へ赴くということがほとんどだった。聖女として街へ行くこともあったが、ルシアが街を散策している間にセイラが一人で聖女の役目を行う。結果、セイラは毎日のように聖女として働いていたので、息抜きでどこかへお出かけすることが全くなかったのだ。


(街へは行ってみたいけど、息抜きでなんて初めてのことだからどうしていいのかわからないわ。それに、ダリオス様と一緒にだなんて……!)


 男性と二人で出かけるなど経験がない。セイラが戸惑っていると、ダリオスが少し寂し気な表情でセイラを見つめる。


「……俺と一緒に出掛けるのは、嫌?」

「そんなっ!嫌というわけではなくて、あの、そもそも息抜きで街へでかけるということが今までなくて、初めてなので……」

「初めて?息抜きで街へ行くのが?ポリウスでは一度も無かったのか?」


 ダリオスが驚いたように尋ねると、セイラは縮こまりながら小さく頷いた。すると、ダリオスは少し怒ったような、不満そうな顔をしている。


(え?ダリオス様、どうしてそんな顔をするの?)


「それなら、なおのこと街へ一緒に行こう。君にはいろいろと見せてあげたい」


 こうして、セイラはダリオスに街へ連れていかれることになった。



(やっぱり素敵だわ、綺麗だし、いろいろなお店がある!)


 馬車から降りて羽織っていたローブのフードを目深にかぶると、セイラは周囲を見渡して目を輝かせる。レインダムへ初めて来た時にも思ったが、やはりレインダムは活気があって豊かな国だと思える。


「セイラ嬢、この間の任務の時も思ったが、どうしてそんなにフードを深く被っているんだ?周囲が見えずらいだろう?」

「こ、れは……癖なんです。ポリウスにいた頃はこれが当たり前だったので、つい」


(ルシアの側にいる時は目立たないようにフードを被るように言われていたし、そのうちルシアがいない時でもそれが当たり前になってしまっていたから)


 自分は裏聖女であり、目立ってはいけない。だから、フードを深く被って顔を隠し、影を潜めていることがあたりまえだった。

 苦笑していると、ダリオスは不思議そうな顔をしてセイラを見つめる。


「聖女なのに、か?聖女ならむしろ堂々としているものだとばかり思っていた」


(それは、ルシアの役目だったもの。私は、目立ってはいけない存在)


 セイラがダリオスから視線を逸らし微笑みながら無言で俯いていると、ダリオスがセイラに手を伸ばす。その手は、フードの横でピタリ、と止まった。


「ポリウスではそうだったかもしれないが、ここはレインダムだ。それに、今は聖女として街へ来ているわけじゃない。俺は、フードを被っていないそのままの君と一緒に歩きたいんだけど……駄目だろうか?」


 ダリオスの言葉にセイラが顔を上げると、ダリオスの美しいエメラルド色の瞳と合う。ダリオスの黒髪がサラリと風に靡き、エメラルド色の瞳は太陽の光に照らされてキラキラと光っている。その瞳は、セイラの返事を今か今かと待ちわびているようだった。


(どうしよう、胸がドキドキしてしまって、どう言っていいのかわからなくなる。でも、ここで何も言わないのはおかしいわよね。ちゃんとダリオス様に伝えないといけないわ)


 セイラは自分を落ち着かせるために、小さく息を吸い込んでほうっと吐く。


「駄目、では、ありません」

「そうか、それならよかった」


 セイラの返事にダリオスは本当に嬉しいと言わんばかりの笑顔を向ける。その笑顔を見た瞬間、セイラの心臓はより一層強く高鳴った。ダリオスの手がフードを優しくおろすと、セイラの美しい金髪がはらりと風に靡いた。セイラのスカイブルーの瞳は不安げに揺れるが、ダリオスはセイラを見て力強く頷く。


「やっぱり綺麗だ。君は隠す必要なんてない」


(えっ、き、綺麗!?)


 ダリオスの言葉にセイラは思わず顔が赤くなる。そんなセイラを見て、ダリオスは目を細めてふっと優しく微笑んだ。


「さあ、行こう。はぐれるといけないから、手を繋ごうか」


 そう言って、ダリオスはセイラの手を優しく掴む。いつも浄化でダリオスの手を握っているから平気なはずなのに、急に掴まれたダリオスの手の感触に、またセイラの心臓は速くなる。


(どうしよう、心臓が、もたない)


 俯いてしまうセイラの手を握りながら、ダリオスはセイラの隣をゆっくりと歩き始めた。セイラがそっとダリオスを見上げると、ダリオスはセイラの視線に気づいてまた優しく微笑みかける。


「緊張しなくても大丈夫だ。君が行きたい場所は全部回ろう。どこに行きたい?」


(どこ……と言われても、そもそも街でどこに行けばいいのか全然わからないわ)


「あの、本当に街のことはよくわからなくて……どこに行きたいかもわからないんです」


 申し訳なさそうにセイラが言うと、ダリオスはふむ、と少し考えてから口を開いた。


「だったら、手当たり次第に行ってみればいい。ほら、まずはあの店に行ってみよう」


 こうして、二人は街の中を歩き回った。美味しそうな食べ物の出店、アンティーク屋、小物店、魔法道具屋、アクセサリーショップ……、どれもこれもがセイラの胸を弾ませ、セイラは目を輝かせてダリオスに微笑みかける。そして、楽しそうに歩き回るセイラを、ダリオスは優しい眼差しで見つめていた。




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