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6 聖女の力

 騎士団長バルトがダリオスとセイラの元を訪れてから一週間が経ち、騎士団が瘴気の強い土地ベラリウスへ調査に行く日になった。セイラはダリオスと共に騎士団本部へ赴いた。騎士団本部の一室で、任務に赴く団員たちへダリオスの妻として紹介が行われる。


「こちらがポリウスから来た聖女で俺の妻となったセイラだ」

「初めまして。セイラと申します。皆様の足を引っ張らないよう気をつけますので、どうぞよろしくお願いします」


 セイラがそう言ってお辞儀をすると、セイラたちを囲んでいた団員たちから、綺麗だの可愛らしいだのとヒソヒソ話が聞こえる。その声を聞いて、ダリオスは厳しい視線をそちらに向けた。すると、団員たちはヒイッと縮こまって無言になった。


(ダリオス様、なんだか不機嫌そうだわ。……やっぱり私がここについてきたことをあまりよく思っていないのかもしれない。ダリオス様に認めてもらうためにも、ちゃんと聖女として力を振るわなきゃ)


 セイラがダリオスを見てそう思っていると、ダリオスがセイラの視線に気づいて視線を合わせる。そしてダリオスはほんの少しだけ、セイラにわかるように微笑んだ。


(え、微笑んでくださってる……?)


 さっきまであんなに不機嫌そうだったのに、どうしたのだろう。突然のことでよくわからないけれど、セイラはダリオスに小さく微笑み返した。


「おーい、夫婦仲がいいのは良いことだが、ここではやらんで他所でやってくれ」

「なっ、バルト団長、違いますよ」


 ダリオスが慌てて否定するが、バルトはハイハイ、とあしらってから騎士団長として厳しい表情になる。


「夫人には、……いや、任務中なのでここでは聖女様とお呼びすることにしよう。聖女様には、ベラリウスの瘴気の浄化ができるかどうかの確認と、できるようであれば浄化を行なってほしいと思っている。そのための同行だ。基本的にダリオスが聖女様をお守りするが、ダリオスだけではなく何かあれば騎士団全員で聖女様をお守りする。いいな」

「はっ!」


 こうして、セイラはダリオスたちと共に調査の任務へ向かうことになった。


「現地までは馬で行くが……本当に一人で乗るのか?騎士団専用の馬車を用意することもできるのに」

「はい、ポリウスでも一人で馬に乗っていました。こう見えて慣れているんですよ」


 そう言って、セイラは羽織っていたローブのフードを目深に被り、馬に乗った。


「無理はしないでくれ。何かあれば真っ先に俺を頼ってほしい」

「ありがとうございます」


(ダリオス様はお優しいわ。この国には聖女がいなかったと言うから、聖女を大切にする気持ちが強いのかもしれない。その気持ちにも、しっかりと答えないと)


 セイラはフードの中からしっかりと前を向き、馬を走らせた。





(ここが、その場所……確かに瘴気の強さが異常だわ)


 ベラリウスに到着すると、セイラはその瘴気の強さに顔を顰める。昔は小さな町があったようだが、瘴気が発生してからは町は衰退し、今では誰も住んでいない。騎士団の団員たちが馬から降りると、セイラも同じように馬から降りて周囲を見渡した。


「瘴気のせいで魔獣も寄ってきているそうです。くれぐれもお気をつけください」


 近くにいた団員の話に、セイラは真剣な顔で頷いた。セイラの隣にはいつの間にかダリオスがいる。


「俺のそばを離れないように」

「わかりました」


 セイラは周囲を見ながら瘴気の強さを確認する。かなりの強さだ。普通の人間であれば気を失っていてもいいはずなのに、騎士団の団員たちに変化は見られない。この日同行していた騎士たちは、以前ダリオスが怪我をした時に同行していた団員たちだ。皆、瘴気に当たっても問題なく立ち振る舞えるほどの気力と体力を兼ね備えた選りすぐりの騎士たちだった。


(常日頃から心身共に鍛えてらっしゃるからなのね。レインダムの騎士団が強いのも頷けるわ)


「聖女様、どうだろう。浄化できそうか?」


 バルトがセイラに尋ねると、セイラは少し考えるような仕草をしてからバルトを見る。


「かなり強い瘴気ですが、浄化は可能だと思います。ポリウスでもこのくらいの瘴気であれば浄化したことがありますので」

「おお!」


 セイラの返答に、騎士たちが湧く。ダリオスもセイラを見て目を見開いた。


「ありがたい。それでは浄化を……、っ待て!魔獣の気配がする。全員、周囲を警戒!」


 バルトの一声で騎士たちは一斉に帯剣していた(つか)に手を添え周囲を見渡す。ダリオスはセイラを守るようにして身構えた。


「ウウウウ!ガアアア!」


 突然、どこからともなく大きな魔獣が現れた。ライオンのような見た目だが三つ目で牙が大きく生えている。騎士たちは剣を抜いて構えた。


 魔獣は騎士たちに飛びかかる。大きな爪を振り回すが、騎士たちはそれをかわして応戦する、だが、爪に跳ね返されて思うように攻撃できない。だが、次の瞬間、突然魔獣の体が真っ二つに割れた。倒された魔獣は黒い塵になって消えていく。消えていく魔獣の背後には、いつの間に移動していたのだろう、ダリオスの姿があった。


(ダリオス様、いつの間に!?あれが、黒騎士と言われる由縁なのね……!すごいわ)


 気配を消し、いつの間にか敵を倒していると言われる黒騎士ダリオス。その実力を目の当たりにしてセイラは目を輝かせた。


「上出来だ、ダリオス」


 バルトが誉めると、ダリオスは小さくうなずいてセイラの元へ戻ってきた。だが、セイラの近くまで来てから突然左腕を抑えてうめいた。


「くっ!」

「ダリオス様!?」


 ダリオスの左腕から黒々とした瘴気が漏れ出ている。それはダリオスの左腕をぎりぎりと締め上げていた。


(どうして急にあんなに瘴気が……?もしかして周囲の瘴気に当てられてダリオス様の傷口に残っている瘴気が反応している!?)


「うっ、グアッ!」


 セイラは急いでダリオスの左腕を掴もうとするが、ダリオスが痛みに耐えきれずその場に崩れ落ちる。セイラはダリオスのそばに跪いて、ダリオスの左手に両手を添え瞳を閉じる。


(この方の左腕の瘴気が浄化され、痛みが和らぎますように。もうこれ以上瘴気が侵入することのないように)


 セイラの両手から光が溢れ出る。そしてその光はダリオスの左腕を包み込み、絡んでいた瘴気は徐々に消えていった。光が消えると、ダリオスがセイラを見つめる。


「ダリオス様、大丈夫ですか?」

「ああ……すまない、とても楽になった。ありがとう」

「よかったです。ここの瘴気とダリオス様の中にあった瘴気が反応してしまったようですね」

「そんなことが……」

「とにかく、一刻も早くこの場の瘴気を浄化します」


 そう言ってセイラは立ち上がると、両手の指を目の前で組んで祈り始めた。


(この場の瘴気を沈めたまえ、浄化したまえ。聖女としてその力を執行する)


 セイラが祈ると、セイラからいつもの祈りの時よりさらに大きな光が溢れ出す。そしてその光が一瞬で周囲に広がっていった。


「すごい……!」


 ダリオスもバルトも、騎士たちもみんなセイラを凝視している。広がった光によって、瘴気がどんどん薄くなっていき、光が消えると瘴気も完全に消えていた。祈りが終わると、セイラは目を開けてほうっと息を吐く。


 セイラが後ろを振り返って微笑むと、騎士たちが一斉に歓声を上げた。


「聖女様!すごいです!」

「瘴気を完全に浄化したぞ!」

「聖女様!我が国にも聖女様が!」


(よかった、なんとか役目が果たせたわ。……あ、れ?)


「セイラ嬢!」


 騎士たちの歓声を聞きながら安堵していたが、急に目の前が歪む。そのままセイラが倒れ込みそうになるのを、ダリオスが受け止めた。



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