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55 信じるに足るもの

「アレク殿下が……これを?」


 その日、ガイズはレインダムの王城敷地内にあるクレアの執務室でダリオスとクレアの前にいた。

 ソファにダリオスとクレアが隣同士、その迎えにガイズが座っている。

 ダリオスとクレアはガイズから渡された書面を眺めながら眉間に皺を寄せた。


「ああ。第一王子は元聖女ルシアと共謀しレインダムを自分のものとしようとしている。それに書かれていることが今まで得た全ての情報だ」 


 ガイズが静かにそう言うと、ダリオスはクレアと視線を合わせてからまたガイズを見つめる。その視線は何かを探るような視線だが、ガイズはその視線をしっかりと受け止めていた。


「……これが本当だとして、なぜガイズ殿はこれを我々に?それに、なぜすぐに報告しなかった?話を持ちかけられた時点で報告することもできたはずだ」


 ダリオスの質問をクレアも静かに聞いている。そのクレアの視線も、ガイズの真意を探るような視線だ。この国の最強の騎士と国家専属の魔術師である二人のその視線は、普通の人間であれば震え上がるほど恐ろしいものだろう。

 だが、ガイズは臆することなく視線を返し、口を開いた。


「話を持ちかけられた時点で報告しても、信じてもらえる可能性は低い。自分は元敵国の騎士団長。裏で元聖女であるルシアの手助けをしていると思われてもおかしくない。信じてもらえるだけの情報を確実に得る必要があると思ったからだ」


 ガイズは静かに、だがしっかりとした声音でそう言い切る。


(ガイズ殿の様子に嘘は見られない。おそらく本心なのだろう。それにしてもこれだけの情報を、たった一人で……)


 ダリオスはガイズと書類を交互に眺めながら少なからず驚いていた。アレクやルシアに疑われないようにしながら細かい情報まで得るのはさぞかし大変だっただろう。


 もしアレクたちにバレたら全てが台無しになる。そんな危険をおかしてまでも、ガイズは一人でそれをやりきったのだ。強すぎるほどの執念を感じ、ダリオスはただただ感服していた。


「ガイズ殿はポリウスを元に戻したいとは思わなかったのですか?この話に乗れば、ポリウスはレインダムから離れまた一つの国として機能するでしょう。……セイラ様もポリウスへ戻ることになる。あなたにとって望むことなのでは?」


 クレアが微笑みながら尋ねる。微笑んではいるが、その微笑みは冷たさを感じるものだった。

 ダリオスも気になっている点を、クレアは的確に尋ねる。クレアはどんな時でも冷静沈着にその場を見つめ、流れを作り出すのだ。


「ポリウスがまた一つの国として元に戻ることは確かに自分の望むことではある。だが、今の状態で戻ったとしても、いずれまた悪化するのは目に見えている。誰も幸せにはなれない」


 そう言って、ガイズは膝に置いている拳をぎゅっと握りしめる。


「セイラ様がポリウスに戻り、昔のように聖女の祈りを捧げれば問題なく国は正常に機能するだろう。だが、それはセイラ様を犠牲にするということだ。セイラ様は、レインダムで幸せに暮らしている。そんなセイラ様を、またポリウスのために犠牲にするのは間違っている。誰かを犠牲にして成り立つ国など、もはや国ではない。それに、そんな国のために剣を振るいたいとは思えない」


 ガイズの若草色の瞳がダリオスをじっと見つめる。その瞳には強い思いがこめられているのがわかり、ダリオスもそれに応えるかのようにしっかりと見つめ返した。


「……なるほどな。わかった。ガイズ殿を信じよう。国王やアルバート殿下にも報告し、すぐに対応策を講じなければならないな」

「必要ないとは思いますが、念のためにこの情報の裏取りも同時進行で行います」


 クレアが微笑みながらそう言うと、ガイズは問題ないというように頷く。それから、ダリオスを真剣な眼差しで見つめる。


「ハロルド卿、ひとつ頼みがある。このことはセイラ様には黙っていてくれないだろうか」


 ガイズの言葉に、ダリオスは険しい顔をする。クレアは、微笑みを浮かべたまま目を細めた。


「なぜだ?セイラには伝えるべきだと思うが」

「……このことを聞けばセイラ様は傷つくだろう。なにより、決行前にセイラ様が予想外の行動を、例えば、元聖女ルシアを説得しようとするかもしれない。セイラ様がこのことを知っているせいで、セイラ様に逆に危険が及ぶ可能性もある」


 ガイズの話をダリオスは険しい顔のままじっと聞いている。


「第一王子たちが決行する時、セイラ様がすでに知っていると元聖女ルシアに感づかれる可能性もある。第一王子にもルシアにも、セイラ様は何も知らないのだと思わせるべきだ」


(確かに、ガイズ殿の言うことは一理ある。セイラが何も知らないほうが事はスムーズに進むだろう。だが……)


 ダリオスはガイズを見つめながら眉間にさらに皺を寄せる。何かを言おうとしてから口を閉ざすが、すぐにまた口を開いた。


「君はそれで良いのか?君はセイラに裏切り者だと思われるんだぞ。セイラは信じていた君に裏切られたと思って確実に絶望するだろう。そんな思いをさせるのは……本意ではないだろう」


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