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49 裏切者

 謁見の間に入って来た人物を見て、セイラは絶句する。


(ガイズ……?)


 元ポリウスの騎士団長であり、今はレインダムの騎士団に配属され元ポリウスの騎士団員たちを統率する男が、なぜアレクの指示でこの場にやってきたのだろうか。混乱するセイラを守るようにダリオスはセイラの前に立ち、ガイズをジッと見つめる。ガイズはダリオスの視線に気づくが、すぐに視線をアレクに向ける。


「俺に力を貸してくれれば、ポリウスをそっくりそのまま返すと言ったら、元ポリウスの騎士団長は俺に味方してくれることになりましてね」

「そんな……!ガイズ、本当なの!?どうしてこんなこと!」


 セイラがガイズにそう尋ねると、ガイズはセイラを一瞥するだけで何も言わない。


「ガイズはポリウスを取り戻したいのよ。今までのように、私が表、セイラが裏の聖女としているポリウスに戻ってほしいの。残念だったわね、せっかくレインダムで聖女として生きていけそうだったのに」


 意気揚々とルシアが言う。そんなルシアを、ダリオスは憎々しいものを見る目で睨みつけ、セイラはただ茫然と見つめていた。


(そんな、ガイズがポリウスを元に戻すためにレインダムを、ダリオス様たちを裏切ったというの?あのガイズが!?そんな……)


 セイラが信じられないという眼差しでガイズに視線を移すが、ガイズは真顔のまま微動だにしない。


「あはは!その絶望した顔!いい気味ね、レインダムで随分といい気になっていたみたいだけど、セイラが表舞台に立つなんて生意気なのよ!あなたはまたポリウスで裏聖女としてひっそりと、私の後ろで影のように生きるの。それがお似合いだもの!」


 ルシアが心底嬉しいと言うように高らかに笑うと、ダリオスは今度こそルシアに食って掛かりそうな勢いだ。だが、クレアがダリオスの腕を掴んでそれを止める。


「たとえ元ポリウスの騎士団長がお前たちに手を貸したとて、ダリオスやクレア、バルトにお前たちが敵うわけがなかろう。なぜわざわざ負け戦をしようとする」


 国王がため息をつきながら眉間に皺をよせ細い目をさらに細めてアレクに言うと、アレクはニヤッと笑う。


「俺に味方しているのはガイズだけではありませんよ。オエルドから今、兵士たちがこちらに向かっているところです。オエルドとレインダムは長い間仲が悪かった。だが、元ポリウスが仲介に入ることで俺と手を組んでもいいと言ってくれましてね。ルシアのおかげですよ」


 アレクの言葉に、ルシアはにんまりとして誇らしげに笑みを浮かべ、国王はさらに顔を顰めた。


「そういうわけで、父上たちには勝ち目はありません。今ルシアとガイズが声をあげれば、元ポリウスの国民も国を取り戻すために兵士として参加したがるでしょう。今はアルバートも不在、この状況でさすがにオエルドと元ポリウスの騎士や兵士たち相手ではそちらも分が悪いでしょう?俺に王位を譲るつもりがなくても、あんたは失脚せざるを得ないんですよ、父上」


 アレクが嬉しそうにそう言うと、国王は失望したようにただ静かに瞳を伏せ、ダリオスとクレア、バルトは国王を見て苦しそうな表情をする。そんな国王たちを見て、アレクもルシアも嬉しそうに笑い出した。


「あはは!これでこの国は俺たちのものだ!よし、ガイズ。国王を地下牢へ連行しろ。抵抗するようであれば痛めつけても構わない」


 アレクの一声でガイズが動き出そうとすると、ダリオスとバルトは静かに剣の鞘に手を添えた。だが、それを見た国王は、余計なことはするなと言うように静かに首を振る。


「賢明な判断です、父上」


 ニヤニヤと汚い笑みを浮かべそう言うアレクの前をガイズが通り過ぎるかと思ったが、ガイズはなぜかアレクとルシアの目の前で立ち止まった。


「何をしている?早く父上を捕らえろ」


 アレクが不機嫌そうにそう言うと、ガイズはアレクを一瞥した。その視線に、アレクは背筋を凍らせて絶句する。その視線は、あまりにも冷酷極まりないと言うような視線だった。ルシアも同じように驚き絶句していると、ガイズは突然アレクからルシアを引き離し、ルシアを地面に突き飛ばした。


「きゃあっ!」


 ガイズは悲鳴を上げるルシアの目の前に立ちはだかると、剣を抜き剣先をルシアに向けた。


「ひっ!」

「ガイズ!貴様何をしている!」


 驚いたアレクが額に青筋を立てて叫ぶと、セイラたちの後方にいた元ポリウスの騎士たちが走りだしアレクたちを取り囲む。


「……は?」


 アレクが周囲を見渡すと、完全に包囲されている。ルシアも、茫然として固まっていた。


「こ、これは一体なんだ!何が起こっている!おい、ガイズ!」


 怒声を向けられても、ガイズは微動だにせずただルシアに剣を向けている。


「お前は本当にどこまでも馬鹿な息子だ。なぜ兄弟でこうも違うのか。そうしてしまったのは父親である儂の責任でもあるかもしれないがな……」


 そういって国王は顔をあげ、目を大きく見開いた。

 

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