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46 騒ぎ

 アレクとガイズの密会が目撃されてから一ヶ月後。セイラとダリオスは再びポリウスを訪れていた。この日は、ポリウス全体に向けてセイラが聖女の祈りを捧げに来ていた。


 ポリウスの城下町を見渡せる小高い丘の上で聖女の祈りを捧げ終わったセイラは、ダリオスに笑顔を向ける。


「ダリオス様、祈りも無事に終わりましたし、せっかくですからポリウスの街を見ていきませんか?」

「ポリウスの街を?」

「レインダムほど大きくはありませんが、ダリオス様にもっとポリウスのことを知ってほしいと思うんです」


(それに、ポリウスの街を、レインダムの街を歩いた時のようにダリオス様と一緒に歩いてみたい)


 レインダムではダリオスがセイラにレインダムの街並みを見せてくれた。その時のように、今度はダリオスにポリウスの街並みを見せたいと思ったのだ。セイラが瘴気の強い場所を浄化し、こうしてポリウス全体にも聖女の祈りを捧げることで、流行病も減り、国全体が落ち着いて来ている。今であれば、街を歩いても問題はないだろう。


「セイラがそう言ってくれるなら、俺もポリウスの街を一緒に歩いてみたい」

「よかった!」


 ダリオスの返事に、セイラは嬉しそうに両手を合わせて喜ぶ。そんなセイラを見て、ダリオスは嬉しそうに微笑んだ。





 ポリウスの街は、活気を取り戻しつつあった。露店も賑わい、人も程よく出歩いている。セイラはダリオスの隣を歩きながら、嬉しそうに目を輝かせていた。


(まだ完全に活気が戻ったとは言えないけれど、店も再開しているところが増えているし、歩いている人たちの雰囲気も明るいわ、本当によかった)


 トンッ、と何かがセイラの肩にぶつかる。


「っ、すみません!」


 セイラが謝ると、ぶつかった相手はチッ、と舌打ちをした。相手は、見るからに柄の悪そうな男だった。


「セイラ、大丈夫か?」


 ダリオスがセイラの肩をそっと引き寄せて聞くと、セイラは小さく頷く。そんな二人を見て、男はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「おやおや?もしかして、この国を裏切っていつの間にか敵国に嫁いだ聖女様ではありませんか?いや、まさか堂々とこうやってポリウスの街を歩いているだなんて、随分と面の皮が厚いことで!」


 男はわざと大きな声で他の人たちに聞こえるように言う。すると、露店にいる人や道を行き交う人たちが何事かとセイラたちに視線を送った。それを見てダリオスは眉間に皺を寄せ、セイラの肩を抱く力を強める。


「それに、隣にいるのは敵国の最強の騎士では?ああ、そうか、乗っ取った国を夫婦仲良く意気揚々と歩いていたわけか。全く、最低な聖女だな」


 ふん、と冷ややかな視線を送る男をセイラは戸惑いの眼差しで見つめる。ダリオスはまだ男の行動の真意をはかっているかのようで、男をじっと見つめている。


「おい、その聖女様は敵国に嫁いでからもこの国に来て浄化をしてくれてるんだぞ!むしろこの国を助けてくれてるんだ。そんな言い方ないだろ」


 通りすがりの男性がそう言うと、それを聞いた他の人たちもそうだそうだと頷く。だが、それを見て男は気に食わないというような顔をした。


「はっ、この国を助けてくれてる?この国にいた頃は、フードを被ったまま隠れるようにひっそりとしていたのに、敵国に嫁いだ途端、顔を出してこうやって意気揚々と歩いている。そもそもおかしいと思わないか?この聖女がポリウスからいなくなってから急に瘴気が強くなり、流行病で国がおかしくなったんだ」

「それは、もう一人の聖女様が祈りの力を使えなくなったからで……」

「それもおかしいだろ?タイミングが良すぎないか?それに、そのもう一人の聖女、ルシア様は国王と一緒に捕まったんだろう?そのルシア様を陥れるために、この聖女は敵国に嫁いだんじゃないかって噂まである」


(そんな!)


 男の話に、セイラは驚いて目を見開く。そんなセイラに、人々は徐々に疑いの眼差しを向け始めた。ヒソヒソと小声で何かを言い始める人たちまでいる。


「おい、勝手な噂で人々を惑わすな。それに、セイラがレインダムに来ることになったのは彼女の意思に関係なく強制的にだ。彼女を責めるなら、まず夫である俺を責めればいい。彼女に俺が惚れ込み、レインダムに連れてきた。もしもポリウスが傾いたのがセイラのせいだと決めつけたいのなら、むしろ俺のせいだ。セイラは関係ない。責めるなら俺を責めるがいい」


 ダリオスはセイラを庇うようにして肩を抱きながら、静かに口を開いた。その声は、低くしっかりとしているが、どこか怒りがこもっているようにも思える。ダリオスの声が響いた瞬間、その場の空気がビリッと振動するのがわかった。


(ダリオス様、そんなこと……!)


 ダリオスはあえて自分が悪者になることでセイラを守ろうとしている。セイラがダリオスを見上げると、ダリオスはセイラに一瞬視線を送り、静かに微笑んだ。そして、すぐに男を睨み付ける。だが、男は怯まずにまた声を上げた。


「ああ、そうか。あんたも共犯てわけだ。こいつらのせいで、この国はレインダムに乗っ取られたんだ!こいつらが悪い!なあ!みんなもそう思うだろ!」


 男がセイラたちを指差し大声でそう言うと、周囲にいた人たちも次々にセイラたちに嫌悪の眼差しを向ける。


「出ていけ!ポリウスから出ていけ!二度とくるな!」

「ルシア様を返せ!」


 次第に歓声が大きくなり、セイラたちは怒声に囲まれる。ダリオスが顔を顰め、また口を開こうとしたその時。


「なんの騒ぎだ!」


 後方から、一人の男性の声がする。その人物が人々をかき分けて男の前に出てくると、セイラは目を大きく開き、ダリオスは眉間に皺を寄せた。


(ガイズ!)



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