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42 見慣れた顔

「集まってもらって申し訳ないが、今日の浄化は俺とセイラの二人だけで行く。君たちは自分の業務に戻って構わない」


 翌日、大広間に集まったガイズやルルゥ、騎士たちに向けたダリオスの言葉に、ガイズは目を見張りすぐに口を開く。


「そんな……!確かに昨日はセイラ様を危険な目に合わせてしまいました。ですが、お二人だけで行くのは危ないのではありませんか。また昨日のような瘴気の強い、異常な魔獣も突然現れるような場所という可能性だってあります。我々も同行すべきです」

「確かに、今日行く場所も事前報告とは違う可能性が高い。だが、それでも君たちが一緒よりは二人だけで行ったようが効率がいい。こう言ってしまっては申し訳ないが、もし強い魔獣が出現したとして、セイラを守るだけでなく君たちにも注意を払わなければいけなくなる」

「なっ……!俺たちが足手まといだとでも!?」

「昨日、負傷者を出したのは事実だろう。俺はこれ以上負傷者を出したくないし、セイラを守ることに集中したい」


 ダリオスの淡々とした言葉に、ガイズはグッと言葉に詰まる。他の騎士たちも、ルルゥも複雑な表情でダリオスを見つめていた。


「君たちが優秀で、だからこそセイラの護衛として選ばれたことは知っている。だが、俺がこうして来た以上、君たちの手を煩わせることはない。君たちには君たちの本来の仕事がある。君たちが今優先すべきなのはそちらだ」

「……自分にはセイラ様をお守りする資格さえないということか」


 ボソリ、とガイズがつぶやく。その声はあまりにも小さすぎて誰の耳にも届かないが、ダリオスはガイズを真顔で見つめていた。


「俺はセイラを愛している。セイラを守りたいのは夫として、大切な妻のそばにいたいという気持ちからなのはもちろんだ。だが、それとは別に、俺はレインダムの騎士だ。騎士として、レインダムの大切な聖女を守り、君たちのような優秀な人間を失わないことに尽力することも、また俺の責務だと思っている」


 ダリオスの言葉に、騎士たちもルルゥも目を輝かせてほうっと息を吐く。ガイズだけは、真剣な表情で地面をじっと見つめていた。


(ダリオス様、やはり騎士としても素敵な方だわ。レインダム最強と言われ、陛下があれだけ大切になさるのも頷ける)


 セイラは頬をほんのりと赤らめてダリオスを見ると、ダリオスはセイラの視線に気づいて一瞬目を見開き、すぐに少しだけ微笑んだ。


「わかりました。私は、ダリオス様の命に従います。ダリオス様がいれば、セイラ様も嬉しそうですし、何よりもセイラ様は絶対に守られるという確信がありますから」


 ルルゥがメガネをかちゃりと指で上げて言うと、他の騎士たちもルルゥの意見に頷いた。


「……わかりました。自分も従います」


 最後に、ガイズが静かにそう告げた。


「ありがとう。それじゃセイラ、行こうか」

「あっ、はい」


(ガイズ、なんだか暗い顔をしているけれど大丈夫かしら?)


 ふとガイズを見ると、見たこともないような暗い表情をしている。ガイズとはポリウスにいた頃、何度も一緒に行動を共にしてきたが、あんな表情をしているのは初めてだ。セイラはなんとなく不安になり、ガイズの元へ駆け寄る。


「ガイズ、昨日のことはどうか気にしないでください。私はあなたがとても優秀な騎士だと言うことを知っているし、私だけでなくみんなそれをわかっている。それに、私は今までだって何度もあなたに助けられました。ポリウスだって、あなたがいてこそだもの。これからも、どうか国と民のために力を貸してください」

「セイラ様……!」


 セイラの言葉を聞いて、ガイズの表情がだんだんと和らぐ。そして、瞳には光が宿り、ガイズはしっかりとセイラを見つめた。


「セイラ様、勿体無いお言葉です。このガイズ、これからもあなたと国にこの身を捧げる所存です」


 ガイズが胸に手を当ててそう言うと、後ろにいた他の騎士たちも揃って胸に手を当てる。ルルゥも、嬉しそうに微笑んでいた。


「ありがとう、それじゃ行って来ます」

「行ってらっしゃい!」


 セイラはガイズたちに微笑んで手を振ると、ダリオスのそばに駆け寄る。ダリオスはフッと微笑んでからセイラの腰に手を回し、一言呟いた。


「君には本当に敵わないな」

「……?」




 こうして浄化が必要な場所に転移したセイラたちだったが、昨日とは違い異常な魔獣も出ることなく、浄化は滞りなく行われ、二人は無事に城に帰還した。


「特に問題なく終わってよかったですね」

「ああ、とりあえずは目的地の三か所全てを浄化することができた。今日中にレインダムへ戻ろう」

「それなら、ルルゥに挨拶をしてきますね」

「わかった、俺もガイズ殿に今日の報告をしてくる」


 セイラと別れて、ダリオスは城の中を歩く。すると、前方に見慣れた顔がいてダリオスは驚く。


(あれは、アレク殿下……なぜここに?それに、話している相手は、ガイズ殿か?)


 二人の姿を見て、思わずダリオスは柱の陰に隠れる。どうして、レインダムの第一王子であるアレクが元ポリウスに来ているのだろうか。それに、なぜ元ポリウスの騎士団長であるガイズと話をしているのか。

 距離があって二人の話は聞こえない。だが、近づきすぎても二人に見つかる可能性がある。どうしたものかと考えていると、二人はダリオスから離れ、近くの部屋に入っていく。

 部屋の扉が閉まると、カシャン、と鍵がかかる音がした。第一王子と敵国だった騎士団長が二人きりで閉じこもるなんて危ないにも程がある。

 だが、何よりもアレクが元ポリウスにいること自体、嫌な予感しかしない。もしかすると、アレクは何か企んでいるのではないか。

 

 ダリオスは厳しい表情で踵を返し、急いで廊下を歩いていった。



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