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4 二人の距離

 その日の夜。セイラは寝る支度を済ませて、聖女としての祈りを捧げていた。ソファに座りながら両手を胸の前で組み、静かに瞳を閉じる。


ーーこの国とこの国に住まう人々に、希望の光が降り注ぎますように


 セイラの祈りと共に、セイラから光が溢れ、それが一瞬でレインダム全体へ広がる。祈りが終わり、ほうっとセイラは静かに息を吐いた。


(ルシアはちゃんとポリウスで祈りを捧げているのかしら)


 セイラがいなくても何も問題ないとルシアは言っていたが、聖女としての仕事は全部セイラに任せてあぐらをかいていたのだ。果たして聖女としての力をきちんと発揮することができているのかどうか。


(考えたところでどうにもならないのよね、私はもうポリウスではなくレインダムの聖女になったのだし)


 そう思っていた時、ドアがノックされた。


「はい?」

「俺だ。入っても構わないだろうか」

「はい、大丈夫です」


 ドアが開いてダリオスが部屋に入ってくる。騎士服ではなく屋敷の中で過ごすようなラフな格好だ。きっと湯浴みも済ませたのだろう、いつもよりさっぱりとしている。さっぱりしているのに、なぜか色気があるような気がしてセイラは胸が高鳴った。


(ダリオス様、騎士姿も素敵だったけれど、こうして普段の装いでも目をひく素敵さだわ。それに……なんというか色気がすごい)


 ドキドキしてしまっていることに気づかれないよう、ダリオスから視線をそらす。ダリオスはそんなセイラに気づかず、セイラの隣に腰掛けた。


(と、隣に来た……!)


 ふわり、と上品ないい香りがする。今までお互いにラフな格好で男性とこんなに近くにいることのなかったセイラは、緊張してダリオスを見れない。


「すまない、もう寝る前だったのか」

「いえ、大丈夫です。聖女として祈りを捧げていたので、まだ起きていました」


 セイラはぎこちなく笑顔を向けるが、ダリオスを直視できていない。ダリオスは少しだけ眉を顰めたがすぐに真顔に戻った。


「腕の浄化についてだが、どのくらいの頻度で行えばいいだろう。俺は任務で屋敷を不在にすることもあるが、屋敷にいるときはなるべく君の指示に従おうと思っている」


 真剣に腕のことを話されて、セイラはハッとする。


(そうだわ、照れている場合ではないのよ。私はダリオス様の腕を治すためにここへやってきたのだから。一番大事なことを忘れるなんて聖女として失格だわ)


 セイラは真剣な表情になってダリオスを見つめた。


「できれば、一日に最低でも一回は行えればと思います。回数が多くてもダリオス様の体が聖女の力に耐えられない可能性もありますし、様子を見ながら状況に応じて対応していくのがいいかと」

「なるほどな。回数が多ければ多いほど良いというわけではないのか」


 顎に手を添え、ふむ、とダリオスが頷く。


「それでは、お互い屋敷にいる朝か夜に君の元をこうして訪れるということでいいだろうか」

「そう、ですね」


 ダリオスが屋敷にいる時には、もしかしたらまた今日のように寝る前にダリオスが部屋を訪れるかもしれない、そのことにセイラは急にまたドキドキしてしまう。雑念を振り払うかのように小さく深呼吸をして、セイラはダリオスに聞いた。


「ダリオス様、今の腕の調子はいかがですか?」

「ああ、痛くはないが、少しずつ重くなってきた感じがある。黒いシミのようなものも、また濃くなってきている部分があるんだ」


 そう言って、ダリオスは腕を捲った。確かに、所々の黒いシミのようなものが濃くなっている。


(やっぱり、一回浄化しただけでは完全には治らないほどのものなのね)


「それでは、今日の浄化を行いましょう」


 そう言って、セイラはダリオスの左手をそっと掴む。ダリオスは一瞬腕を揺らしたが、すぐにセイラの手に自分の手を預けた。


(この方の左腕が早く治りますように)


 セイラはダリオスの手を両手で包み、自分の額へそっと持っていき祈る。すると、セイラの両手から光が漏れ、その光がダリオスの左腕を伝って消えていった。


「……ありがとう。やはり、君に浄化されると腕が軽くなるな」


 セイラがダリオスの手を解放すると、ダリオスは左手を握ったり開いたりして確認して、満足そうに頷いた。


「お役に立てているなら良かったです」


 フワッと嬉しそうに微笑むセイラを見て、ダリオスは両目を見開き、すぐに目をそらした。だが、目をそらした先で視線が固まる。なぜか固まって動けなくなっているダリオスに気がついてセイラが不思議そうにダリオスの視線の先を辿ると、セイラは顔を真っ赤にする。


(ダ、ダリオス様に、胸元を見られてる……!)


 寝る直前だったのでセイラは寝巻き姿だったが、胸元が大きく開いていたので胸の膨らみが顕になっている。ダリオスが目をそらした先がたまたまそこで、ダリオスは思わず目が離せなくなっていたのだ。


「す、すみません!こんな姿……!」


 顔を真っ赤にして両手で体を隠すセイラを見て、ダリオスもまた顔を赤くしている。ダリオスは片手で口元を隠すと、すぐに視線をそらした。


「い、いや、こんな時間に来た俺が悪かった!今度からは時間を考えてなるべく遅くならないよう気をつける」


 そう言って立ち上がり、ドアの方へ足速に歩いていった。


「浄化をありがとう。その、色々とすまなかった。ゆっくり休んでくれ。おやすみ」

「お、おやすみなさい……」





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