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38 筆頭魔術師の警戒心

 眩しい光に思わず目を瞑るが、すぐに光はおさまり目を開けると目の前には見慣れた元ポリウスの城内があった。


「よし、無事に到着です。転移魔法って便利ですよね!国内でも遠い場所だと馬車で数日はかかるのに、一瞬で移動できちゃうんですもの!クレア様は本当にすごいなぁ」


 ルルゥは両手で頬を覆いながらうっとりとしている。尊敬していた隣国の魔術師の功績に心底陶酔しているようだ。


「確かにクレア様はすごい方だけど、その転移魔法をすぐに使いこなせるルルゥもすごいと思うわ。それに、クレア様と一緒に研究もすることになっているんでしょう?クレア様に認められているんだもの、ルルゥだってやっぱりすごいわよ」


 セイラがルルゥにそう言うと、ルルゥは目を丸くして顔を赤らめる。


「そ、そんな、私なんてまだまだですよ」


メガネを指でかちゃりと上げると、メガネが光に反射してルルゥの瞳は見えなくなった。だが、顔は真っ赤で明らかに照れているのがわかる。それを見てセイラは自然に笑みがこぼれていた。


(フフッ、ルルゥったら照れて可愛い)


 ふと、隣にいるガイズに気がついてガイズを見上げると、ガイズはセイラをじっと見つめていた。ガイズの腕はまだセイラの体を支えたままだ。


「ガイズ、ありがとうございました。もう到着したし、大丈夫です」


 セイラが微笑んでお礼を言うと、ガイズは一瞬セイラを支える腕に力を入れて、すぐに離した。それを見て、ルルゥはムッと口を窄める。そんなルルゥには気づかず、ガイルは口を開く。


「セイラ様、部屋までお送りします」

「ガイズ殿、その必要はありません!セイラ様は私が部屋までお送りしますので!」


 セイラとガイズの間にルルゥがズイッと体を入り込ませてそう言うと、ガイズは少したじろいて後ろに下がった。


「……わ、わかった。セイラ様をよろしく頼む」

「お任せください!っ、ゴホンゴホン」


 ルルゥは自信満々にドン!と胸を叩くと、力が強かったのだろう、咳き込んでしまった。セイラは慌ててルルゥの背中をさする。


「ルルゥ、大丈夫!?」

「す、すみません、ゴホン、大丈夫ですっケホッ」


 そんなルルゥを見ながら、ガイズはやれやれという顔をしていた。





「セイラ様、お部屋に到着しました。今日はゆっくり休んでくださいね」

「ありがとう、ルルゥ。明日もあるから、あなたも今日はゆっくり休んでね」


 セイラの部屋の前に到着して、そうだ、とルルゥはセイラの近くに寄って小声になる。


「セイラ様、ガイズ様には気をつけてくださいね」

「気をつけるって、何を?」


 ガイズは騎士団長だ。気をつけるも何も、自分たちを守ってくれる存在だ。一体何を気をつけるというのだろうか?セイラが首を傾げると、ルルゥはむうと口を尖らせた。


「ガイズ様は、セイラ様を特別に思ってらっしゃいます。まぁ、この国の人間は私を含めてみんな、セイラ様を特別に思っていますが……なんというか、その特別とはまた違う気がするんですよね。うまく言葉にできないのですが」

「?」

「とにかく、ハロルド卿がいらっしゃるまでは私がセイラ様をちゃーんとお守りしますから、安心してくださいね!」


 ルルゥは勢いよくそう言って腕を曲げ力こぶを作るような仕草をした。それを見て、セイラはその可愛らしさに思わず笑顔になる。


「フフッ、ありがとう。とても心強いわ」



 ルルゥがいなくなり、セイラは一人部屋の中をゆっくりと見回していた。ポリウスにいた頃、セイラが使っていた部屋だ。

 今回城に泊まるのであればもっと良い別な部屋を、と言われたが、セイラはあえてこの部屋に泊まることを選んだ。


(懐かしい、何も変わってないわ。変わる必要のないくらい、ほとんど何もない部屋だからかもしれないけれど)


 レインダムへ売られてから、この部屋へ戻って来るのは初めてだ。セイラの部屋はいたってシンプルでほとんど何も無い。最低限の生活ができるほどの狭い部屋だった。


 ここで、裏聖女としてひっそりと生きていた頃が、今では遠い昔のことのように思える。

 ふと、左手の薬指にある指輪が明かりに照らされてキラリ、と光った。ダリオスから貰った大切な指輪だ。


(ダリオス様も今は任務でポリウス内を回っているはず。どこらへんにいらっしゃるのかしら)


 仕事が終わったらすぐに合流する、と言っていた。セイラはその時のダリオスの様子を思い出して胸がじんわりと暖かくなる。


(早く会いたいと思ってしまうのは、ダリオス様のことが大切で大好きだからなのよね。こんな気持ちになれるなんて、ここにいてレインダムへ売られると知った時には思いもしなかった)


 胸に手を当てながら嬉しそうに瞳を閉じる。


(明日も浄化があるし、今日は早く寝て明日に備えないと)


 瞼を開け真っ直ぐに前を向くセイラの表情は、裏聖女でいた頃とは見違えるほど希望に満ちていて、瞳は宝石のように美しくキラキラと輝いていた。


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