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35 過保護な騎士

 クレアがセイラたちへ席へ着くよう促すと、セイラたちはそれぞれ着席してクレアを見る。


「元ポリウスがレインダムの領地になったことで、セイラ様がレインダムと元ポリウスを自由に行き来できるようになりました。ですので、セイラ様には定期的に元ポリウスへ浄化と聖女の祈りをしに行ってほしいのです。セイラ様も、それがお望みでしょう?」

「可能なのですか!?できるのであれば、ぜひそうしたいです」


(定期的にポリウスで聖女の祈りをすることができれば、ポリウスの状況ももっと迅速に良くすることができるわ)


 セイラが目を輝かせると、ルルゥが少し困ったように口を開いた。


「ですが、レインダムと元ポリウスを行き来するとなると数日はかかってしまいます。セイラ様に負担が大きいのではないでしょうか?」

「それは心配ありません。元ポリウスはレインダムの領地になりました。他国への移動は禁止されていますが、レインダムの領地内であれば、転移魔法で移動することが可能です」

「て、転移魔法ですか!?」


 ルルゥが驚いて立ち上がり、その拍子にガタン!と椅子が倒れた。


(ポリウスでは転移魔法を使える魔術師はいなかったけれど、レインダムは転移魔法がつかえるの!?)


 セイラも驚いてクレアを見つめると、クレアはにっこりと微笑む。


「レインダムの領地内では、地域ごとに転移魔法用の魔法陣が敷かれていて、転移魔法で移動することが可能です。元ポリウスにもそれを適応したいと思っています。ただし、元ポリウスからレインダムへ移動する場合のみ、できる人間を限定します。元ポリウスの人間が安易にレインダムへ来るのを防ぐためです」


(つまり、レインダムはポリウスのことを信用していないと言うことよね。状況的にそれは当然だわ)


 セイラは黙ってクレアを見つめ、ルルゥは椅子を直して大人しく着席した。


「今後、セイラ様が浄化や聖女の祈りのために元ポリウスへ行く際、セイラ様単独で行くことになることも多くなると思います。ダリオス様としては毎回付き添いたいでしょうが、元ポリウスがレインダムの領地になって間もないため、ダリオス様も忙しくなりますからね。毎回セイラ様に付き添うということはできないでしょう」


 クレアの言葉に、ダリオスは思わずムッとする。そんなダリオスを見てクレアは苦笑し、ルルゥへ視線を向ける。


「そこでです。あなたにセイラ様の護衛を頼みたい」

「!?私ですか?」

「元ポリウスの筆頭魔術師であり、実力は申し分ない。セイラ様とも見知った仲のようですね。それに、女性のあなたであればセイラ様も色々と安心かと思います。事前に何人か候補者をあげて調べましたが、あなたが一番ふさわしいと判断しました。どうでしょう、お願いできますか?」


 クレアの言葉に、ルルゥは目を丸くしていたが、すぐにしっかりとした顔つきになり、大きく頷いた。


「私でよろしいのであればお任せください!セイラ様を徹底してお守りします!ハロルド卿にもご安心いただけるように誠心誠意セイラ様に尽くす所存です!」


 ルルゥはまた勢いよく立ち上がり、椅子がガタン!と倒れる。だが、そんなことはお構いなしに、ルルゥは鼻息を荒くしながらはっきりと言い切った。


「セイラ様も、よろしいですか?」

「もちろん。ルルゥが一緒なら心強いです」


 セイラが嬉しそうに微笑むと、ルルゥは頬をほんのりと赤らめ、目を輝かせる。


「俺からも、セイラのことをよろしく頼みます」

「ももももも勿体無いお言葉!」


 ダリオスが頭を下げると、ルルゥは慌てて両手を振った。


(色々なことが、着実に進んで行っている。これからが大変だけど、私は私なりにできることをとにかく頑張だけだわ)


 セイラは胸に手を当てながらほうっと小さく息を吐いて、しっかりと前を見つめた。





 ダリオスの屋敷に帰ってきてすぐ、セイラはダリオスの部屋に通されてソファに座らされた。ダリオスは当然のようにセイラの隣に座り、セイラの手をただひたすらに握っている。


(ダリオス様、なんだか少し不満げな様子だけど、どうなさったのかしら?)


「ダリオス様?」


 セイラがダリオスをじっと見つめると、ダリオスはセイラの視線に気づいて見つめ返す。それから、はあーっと小さくため息をついた。


「どうかなさったのですか?」

「……いずれセイラが単独でポリウスに行くことが心配でならないんだ」


 ダリオスが深刻な表情と声音で言うと、セイラは少し驚いてしまう。


「でも、ルルゥも一緒ですよ?それに、浄化をする場所には恐らくポリウスの騎士たちも同行するはずです」


 浄化が必要な場所には魔獣も多く、必然的に騎士団が護衛することになるだろう。特に心配することは何もないのに、とセイラは思う。だが、ダリオスは眉を盛大に顰めた。


「セイラのことを守るのは俺だけで十分だ。誰よりも、俺がセイラを守りたい。だけど、一緒に行けないだなんて……」


 きゅっとセイラの手を掴んだ自分の手に力を入れる。


「俺のわがままなのはわかってる。でも、俺のいないところでセイラの身に何かあったらと思うといてもたってもいられないんだ。どうにかして、セイラがポリウスに行く時には俺も一緒に行けるようにしてみせるよ」


(ダリオス様ったら、そんなことを考えていたのね……!)


 ダリオスの気持ちはとても嬉しいが、ダリオスにはダリオスの大事な仕事がある。レインダム最強の騎士であり、国王からの信頼も厚く、重要な会議や話し合いにはよく駆り出されるようだ。


「ダリオス様、気持ちはとても嬉しいですけれど、どうかご自分の仕事を犠牲にすることだけはおやめくださいね。ダリオス様はレインダムにとって大事な騎士です。それに、ダリオス様はレインダムの騎士として誇りを持っているとおっしゃっていたではないですか。私は、そんなダリオス様だからこそ尊敬し、心から好きだと思ったんですよ」


 首を少し傾げ、諭すように言うセイラを見て、ダリオスはぐっと喉を鳴らす。そして、また小さくため息をついた。


「セイラには敵わないな。わかったよ。仕事を投げ出すようなことは絶対にしない。でも、できるだけセイラのそばにいられるようにするし、セイラが単独でポリウスに行く時にはクレアに頼んでセイラに守護の魔法を何重にもかけてもらうようにする」


(そ、そんなに?ダリオス様ったら、過保護なんだから)


 ダリオスの言葉にセイラは驚くが、すぐにくすくすと嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます。心強いです」


 セイラの返事を聞いて、ダリオスは満足げな顔をしてからセイラの頬にちゅっと軽くキスをする。そのまま、顔のあちこちや首筋にキスを落とし続けていく。


「ダリオス様ったら、くすぐったい」


 セイラが可愛い声でそういうと、ダリオスはキスをやめて至近距離でセイラをじっと見つめた。その瞳にはゆらゆらと熱い欲が揺らめいている。


「ここのところ会議続きでなんだか疲れたな。セイラで充電しないと持ちそうにない」


 そう言って、ダリオスはセイラをソファにそっと押し倒した。



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