33 全面協力
「ダリオス様は、こんな私を、影としてただ在るだけだった私を、本当の聖女として受け入れてくださったんです。それに、私を聖女として必要としてくださったばかりか、一人の人間として受け入れてくださいました。何よりも自分自身を大切にすることの重要さを教えてくださったんです」
セイラは必死にガイズへ訴えかける。普段大きな声を出すことのないセイラを、ダリオスもバルトも驚いたように見つめていた。
「レインダムの聖女であることを選んだのは私です。その選択が、ポリウスを見捨てたということになるのであれば、私はあなたたちポリウスの人々に何を言われても仕方がないと思っています。ですが、ダリオス様のことを悪く言うのだけは認められません」
「セイラ、それは違うだろう。君は、どんな時でもポリウスのことを考えていた。ポリウスを見捨てたわけじゃない。セイラは何も悪くないんだ」
「でも……」
(私は、ダリオス様がポリウスの人たちに悪く思われるのだけは避けたい。ダリオス様は、私のことをこんなにも大切に思ってくださる方なのだから)
セイラとダリオスのやり取りを、ガイズは目を見開いて凝視していた。そんなガイズに、バルトが口を開く。
「ご覧の通り、二人はお互いを大切に思い合っている。ガイズ殿は恐らく、ダリオスが無理やり聖女様を囲ったと思ってるんだろうが、違う。ダリオスは誰よりも聖女様のことを思い、大切にしている」
バルトの言葉に、ガイズがあ然としてセイラを見つめると、セイラはバルトの言葉に同意するように力強く頷いた。
「ダリオス様は、どんな時でも私のことを大切にしてくださっています。それに、私も、ダリオス様のことを……とても大切に思っているんです」
そう言って、ほんのり顔を赤らめるセイラと、そんなセイラを見て心底嬉しそうに微笑むダリオスの姿に、ガイズはさらにあ然としていた。
「本当に……?セイラ様はハロルド卿に無理矢理レインダムに残るよう強要されたわけではないのですか?セイラ様の意思で、レインダムに残ることを決めたと?」
ガイズの質問に、セイラは力強く頷いた。
「ですからどうか、ガイズにもポリウスの騎士団の騎士たちにも、レインダムを恨むことなく協力してほしいのです」
(ポリウスの騎士団長であり、ポリウスにとってなくてはならない存在だったガイズには、ちゃんとわかってほしい。私の気持ちが、ちゃんと伝わってほしい)
そう言って、セイラは深々と頭を下げる。それを見て、ガイズは一瞬困ったような顔をしてから、ふーっと小さく息を吐いた。
「セイラ様、わかりました。俺は、レインダムがセイラ様を無理矢理にレインダムの聖女にしたのだと思っていました。ですが、それは思い違いだったのですね。セイラ様がそこまで言うのであれば、レインダムもハロルド卿も、セイラ様のことを大切にしてくださってると認めざるを得ない」
ガイズの言葉に、セイラは目を輝かせる。
「それに、いつもはルシア様の後ろにひっそりと隠れるようにしていたセイラ様が、こうして自分の意思で動き、自分の言葉で思いを伝えている。そのくらい、セイラ様はセイラ様としていることができているのでしょう。そんなイキイキとしたセイラ様を見たら、協力しないだなんて言えませんよ」
そう言って、ガイズはダリオスに視線を向ける。
「ハロルド卿、先程は失礼な物言いをした。申し訳ない」
そう言って、ガイズは頭を下げた。
「いや、あなたがああなってしまうのは立場上仕方のないことだとわかっている。それに、セイラが聖女としてどれだけポリウスに大切に思われていたのか、今回の旅でまざまざと思い知らされた。あなたがああなるのは当然だ」
ダリオスが少しだけ困ったような、仕方ないというような顔でガイズに言うと、ガイズは頭を上げてフッと口角をあげた。
「今、セイラ様のお相手があなたでよかったと心の底から思っている」
「それは、どうも」
(二人とも、なんとなくぎこちなく見えるけれど、でも、誤解は解けたみたいだしこれからきっと仲良くなってくれるはずだわ)
二人の様子を見てセイラが嬉しそうに微笑むと、セイラの表情を見てダリオスもガイズもなんとなく複雑そうな顔で微笑み返した。
「ガイズ殿が我々の方針に協力してくれるなら安心だ。その心配はないと思うが、もし万が一ガイズ殿が反旗を翻そうとしたとしても、我々は全力でそれを止め、息の根を止めるだろう。こちらの戦力がどれだけのものかはそちらが一番よく知っているはずだ」
(バルト騎士団長……!)
セイラが不安げな表情でバルトを見つめると、バルトは不敵な笑みを浮かべながら話を続ける。
「俺たちは聖女様の悲しむようなことはしたくない。特にダリオスは絶対に避けたがるだろうな。それに、ガイズ殿だって聖女様の悲しむ顔は見たくないだろう?自分たちの行いのせいで聖女様が悲しむかもしれないんだ、それは肝に銘じてほしい。あんたたちがおかしなことをしない限り、俺たちは聖女様が悲しむような真似はしないと誓おう」
バルトの言葉に、ガイズは目を細めてからフッと小さく笑った。
「レインダムの騎士団長は剣の腕だけでなく話術にも長けているようだ。こちらとしても、セイラ様を悲しませるようなことはしたくない。それに、わざわざ勝ち目のない戦をする必要はないとわかった。そちらに全面的に従おう」
「それはよかった。聖女様、これで安心でしょう」
「……ありがとうございます」
(バルト騎士団長はどこまで本心なのかわかりにくいところがあるけれど、でも誰も悲しむことのない選択をして導くことができる。やっぱりレインダムの騎士団はすごいわ)
ほっとしながらセイラがバルトに礼を言うと、ダリオスはそんなセイラを見つめながら優しく微笑んだ。




