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29 それぞれの思い

「ポリウスの国王ともう一人の聖女ルシアは、領地内の外れにて生涯謹慎処分とする」


 レインダムの国王の言葉に、その場の一同が目を見張った。


(生涯謹慎?お父様を処刑なさらない?……いくら国王の考えとはいえ、そんなことが果たして許されるの?)


 セイラにとっては父親たちが処刑を免れ謹慎で済まされることはありがたい。だが、レインダムの王子たちはそれに納得しないだろう。そう思っていると、やはりアレクが異を唱えた。


「随分と寛大な処分すぎませんか。この聖女の父親と双子の妹とはいえ、甘いですよ。ポリウスの国王は我々を馬鹿にしたんです。ダリオスとクレアに刃を向けたのに、そんな処分では納得できない。俺だけじゃない、他の人間だってそう思うでしょう。アルバート、お前もそう思うだろう」

「……確かに、甘すぎるとは思う。だが、国王には国王のお考えがあるのだろう。違いますか」


 アルバートが神妙な面持ちで国王を見ると、国王は細すぎる目をアレクとアルバートへ向ける。


「ふむ。納得がいかないと言われるだろうとは思っておった。ポリウスがレインダムの領地になることは決定した。そうなると、今後ポリウス内の統制を取るためにやらなければならぬことが沢山ある。落ち着くまでにはそれなりの時間がかかるだろう。その間、前国王を生かしておく方が何かと都合がいい。聖女についても同じだ。ポリウスがレインダムの領地となり全てが落ち着いた頃合いに、また処分をどうするか決めても構わぬだろう」


(これが最終決定ではない、ということね)


 セイラはそっと目を瞑り俯く。そのまま生涯謹慎の可能性もあるし、やはり処刑される可能性もある。どちらにしても、セイラにはもうどうすることもできないことだった。

 そっと、ダリオスのセイラの手を握る力が強くなる。ダリオスの手の暖かさを感じて、セイラの瞳に涙が滲み出そうになる。


(だめ、こんな時に感傷的になって泣いている場合ではないわ。私はもう、レインダムの聖女なのだから)


 ふう、と小さく息を吐いて、セイラはしっかりと顔を上げた。その顔を見て、アルバートはほんの少しだけ目を見開く。そんなアルバートを見て、ダリオスは一瞬だけ眉を顰めた。


「なるほどね、最終的には処刑しても構わないと。そういうことならわかりましたよ」


 アレクが口の端に弧を描いてそう言うと、アルバートも真顔で頷いた。バルトもクレアも同意の意を込めて静かに頭を下げる。


「セイラよ、そなたにとっては苦しいことかも知れぬが、わかってほしい。ダリオスも、セイラのことを思うならば納得がいかぬかも知れぬが、そなたであればわかってくれるだろうな」

「セイラの夫であると同時に、自分はレインダムの騎士です。国王のお考えは承知の上。そしてその国王の決断であれば、それに従います」

「……私も、国王様のお考えは当然のことだと思います。私は確かにポリウスの聖女であり、ポリウスの国王の娘、そしてルシアの双子の姉です。ですが、今はレインダムの聖女であり、ダリオス様の妻です。私は、レインダムの国王の決断に従います」


 セイラの言葉に、国王は細い目をより一層細めて微笑んだ。アルバートもバルトもクレアも、静かに微笑んでいる。アレクだけが、どこかつまらなそうな顔でセイラとダリオスを見ていた。


「へえ、ポリウスの元聖女様は自分の家族を見捨てるのか。まあ、そもそも家族に見捨てられてレインダムへ来たんだものな、やり返して当然か」


 ははは、とアレクが笑うと、国王もアルバートも呆れたような、うんざりした顔をしている。ダリオスは込み上げる怒りを堪えるため、セイラの手を握っていない方の手を机の下で思いきり握りしめていた。それは爪が食い込んで、血が滲み出そうなほどだった。


「アレク、お前は少し黙っておれ。それでは、ポリウスの国王ともう一人の聖女の処分については決まりだ。次に、ポリウスの騎士団についてだが、バルトよ。お前に一任してよいか」

「はっ、仰せのままに」

「ポリウスの騎士団は荒削りだが、忠誠心が厚いと聞く。なかなかに手強いかもしれぬが、お主であればうまくまとめ上げてくれるだろう」

「ご期待に添えるよう、尽力いたします」

「うむ。それから、ポリウスの魔法省については、クレアに一任したい」

「仰せのままに」

「バルトもクレアも、ポリウスのことについてはセイラに助言を求むと良い。セイラも、二人に手を貸してやってくれ」

「かしこまりました」


 セイラがそう言ってバルトとクレアに微笑みかけると、二人もそれに答えるようにセイラに微笑みかける。そんな三人をダリオスは少しだけホッとしたような、嬉しそうな顔をして見つめた。



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