28 レインダムの王子
「へぇ、君が元ポリウスの裏聖女か」
「お初にお目にかかります、ポリウスから参りましたセイラと申します」
そう言ってセイラは席から立ち上がり、静かにお辞儀をした。
セイラへ興味深そうな瞳を向けるのは、レインダムの第一王子であるアレクだ。少し長めの金髪にやや細めの瞳で、その隣には第二王子のアルバートがいる。こちらも金髪だが短髪で目は細くない。アレクは中肉中背で中性的な見た目、アルバートはがたいがよく見るからに男性的な見た目をしている。アルバートも、セイラを真剣な顔で見つめていた。
この日、ポリウスが正式にレインダムの領地になることが決まり、今後の方針について話し合いが行われていた。会議には国王を筆頭に、第一王子と第二王子、騎士団長のバルト、最強の騎士でありセイラの夫であるダリオス、国の専属魔術師クレア、そしてレインダムの聖女としてセイラも同席している。
(アレク様とアルバート様。初めてお会いするから緊張するけれど……これからこの方たちをダリオス様と一緒に支えていくのが私の役目でもあるのだから、緊張している場合ではないわ)
セイラがレインダムにやってきた時は、ただダリオスの腕を治すためにポリウスから売られてきたので、その時点ではアレクもアルバートもセイラと対面していない。ポリウスがレインダムの領地になることになって、初めてセイラも聖女として王子たちに会う必要があると判断されたのだった。
「君の父上がとんでもないことをしたせいで、ポリウスはレインダムのものになった。こちらとしては結果オーライだが、まさかダリオスとクレアに刃を向けるとは、君の父上は随分と頭が弱いんじゃないか?妹君も聖女のくせに傲慢で酷かったと聞いた。今までポリウスはよく国として存在できていたね」
「アレク、やめないか」
アレクがにやついた顔でセイラへ嫌みったらしく言うと、アルバートが顔を顰め横から注意し、ダリオスの表情も一瞬曇った。
「ああ、すまない、ついね。君は一応ダリオスの奥さんなんだって?ダリオスの腕はもうとっくに治っているんだろう、ポリウスもレインダムの領地になるんだったら、父上、この聖女は俺の妻にするべきなのでは?」
「は?」
「え?」
アレクの言葉に、ダリオスとセイラは同時に声を上げる。アルバートもクレアもバルトも皆驚いているが、国王は細い目をさらに細くしてアレクを見た。
「ポリウスの聖女はそもそもポリウスの王女なのでしょう。ポリウスがレインダムの領地になったのなら、その王女とレインダムの第一王子である俺が結婚するのが筋だと思いますが」
「それはならぬ、ダリオスとセイラはすでに夫婦として絆を結んでおる。お前の付け入る隙は無い。そもそも、ポリウスがレインダムの領地になったのだ、わざわざ政略結婚する必要もない」
「へえ、あの騎士道一筋のダリオスが、きちんと夫婦をしているのか?信じられない。ますます聖女に興味がわいてきたな。そんなに魅力的なのか?ダリオス、俺に一晩その聖女を貸してくれないか」
「アレク!いい加減にしろ!」
アルバートが声を荒げると、アレクは肩を窄めて舌を出す。そんな二人を見て、国王は大きくため息をついた。
(アレク様はこれで本当に第一王子なの?それに、アルバート様とは仲があまりよろしくない?)
「ダリオス、アレクがすまない。冗談でも言っていいことと悪いことがある。それから、聖女セイラ。あなたにも不快な思いをさせたことを詫びる」
「い、いえそんな……」
(アルバート様は何も悪くないのに、アレク様の代わりにわざわざ謝罪してくださるなんて。第二王子としてアルバート様を支えていらっしゃるのね)
驚きつつも感心してアルバートを見ていると、ダリオスが机の下でそっとセイラの手を握った。セイラが驚いてダリオスを横目で見ると、ダリオスは目を合わせず机を見つめているが、握る手の力が強くなる。まるで自分はここにいるとセイラに伝えているかのようだ。
「アレクよ、いい加減にしないか。お前のせいで会議が進まん」
「これはこれは申し訳ありません。それで、何を話し合うのでした?」
アレクの言葉に、国王はまた大きくため息をついた。
「正式にポリウスがレインダムの領地になったのだ、ポリウスの国王とセイラの妹君、つまりもう一人の聖女ルシアの処罰についてだ」
(お父様とルシアの処罰……ダリオス様とクレア様に刃を向けたのだから、お父様はきっと処刑を免れないわ。ルシアも、随分と失礼な態度を取ったのだし、聖女の力がない以上、どんな処罰になるか……)
セイラが不安そうに俯き瞳を揺らすと、ダリオスはセイラを見て辛そうな表情をする。そんな二人に開いているのかわからないほど細い目を向けて国王は口を開いた。




