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27 強すぎる思い

「君のことが好きすぎて、自分でもどうしていいかわからない」


 セイラの手を握りながら俯き、ダリオスはぽつりと言葉を吐く。


「セイラはどんな俺でも嫌いにならないと言ってくれた。でも、妹君と対峙した時の俺の姿を見て、君は恐怖で震えていた。あの時の君の表情が、今でも頭から離れないんだ。本当に、俺を恐ろしいものを見る目で見ていて……俺を見ているはずなのに俺を見ていない、そんな瞳だった」


 辛そうにダリオスは言葉を続ける。


「君がいつか、やっぱり俺のことを恐ろしいと思っていなくなってしまうんじゃないかって、不安になってしまう。セイラのことを信じていないわけじゃないんだ。でも、俺は……穏やかで優しいだけじゃない、冷酷な騎士としての俺が、やはり君に受け入れてもらえないんじゃないかと思ってしまう」


 ダリオスの言葉に、セイラは胸が苦しくなる。確かに、あの時のダリオスは恐怖そのものでしかなかった。見たこともない表情、聞いたこともない声音、当然のように紡がれる残酷な言葉。あの時の自分は、ダリオスに対して恐怖で震えていた。


(でも、その後のダリオス様はいつものダリオス様で、だからこそ私はホッとしたし、ダリオス様のことを嫌いになんてならないと伝えたのに)


 騎士としてのダリオスのことは尊敬している。たとえ時に冷酷な判断を下すことがあったとしても、それは立場上仕方のないことだとわかっているつもりだ。


(でも、あの時の私を、ダリオス様はそんな風に思って不安になっていたのね……)


 思わず、ダリオスの手をきゅっと握り返すと、ダリオスはそれに気付いてセイラを見つめる。


「俺は君のことが大切で大好きで仕方がない。今までずっと騎士として生きてきて、誰かをこんなに思うことなんて一度もなかった。だから、こんな気持ちになるのは初めてなんだ。君がもしも俺を嫌いになって俺の側からいなくなると思ったら、辛すぎてどうにかなってしまいそうなんだ」


 そう言って、ダリオスはセイラを抱きしめる。


「ダリオス様……」


 セイラは、ダリオスをそっと抱きしめ返した。


「馬車の中でも言いましたが、私はダリオス様を嫌いになったりしません。確かにあの時は本当に怖くて仕方がなかった。でも、騎士としてのダリオス様のことは心から尊敬しています。ダリオス様のその強さがあるからこそ、レインダムはこうして守られているんです。だから、私はそんなダリオス様のことも好きなんです。信じてください」


 そう言って、セイラはほんの少し抱きしめる力を強くした。


「不安になるなら、何度だって言います。何度だって安心してもらえるように伝えます。私は、ダリオス様のことが大好きです。どんなダリオス様でも絶対に、離れたくありません」


 セイラの言葉に、ダリオスのセイラを抱きしめる力が強くなる。セイラはダリオスの背中を優しく擦ると、体をそっと離した。


(そうだわ……!)


 セイラはベッドに転がり落ちていた指輪に気づき、それを掴んでダリオスへ差し出す。


「誤解をさせてしまって申し訳ありません。ダリオス様、もう一度、指輪をはめてくださいませんか」

「……セイラ」


 セイラの瞳は純粋な期待でキラキラと輝いている。そんなセイラを見てダリオスの瞳もまたキラキラと輝き、ダリオスはセイラから指輪を受け取ってセイラの左薬指にはめる。そして、指輪にそっとキスを落とした。


「セイラ、愛してるよ」

「私もです、ダリオス様」


 セイラは頬を赤らめながら微笑んだ。セイラのその言葉に、ダリオスは心の底から安堵した表情を見せる。それから、ダリオスはセイラに優しく口づけた。



「よくぞ無事に戻ってきた」

「はっ」


 レインダムへ帰ってきた翌日、セイラたちはレインダムの国王に謁見していた。


「セイラよ、さぞかし疲れたであろう。…ポリウスのことについては、このようなことになってしまい残念だ」

「そんな……!むしろ私の父が本当に取り返しのつかないことをしてしまい、申し訳ありません。どう申し開きをして良いものか……」


 ドレスをぎゅっと握りしめながら、セイラは深々とお辞儀をした。


「そなたが謝ることではない。こう言ってはなんだが、そなたの父も妹も、国を守る者として考えが足りぬようだ。そなたもさぞかし苦労したのであろうな」

「そんな、私は何も……」


(そう、私は何もしていないし、何もできていない。ただ、お父様たちの言う通り、影の聖女としていただけ)


 自分がもっと二人に言うべきことを言えていれば、王女としてできることをしていれば、ポリウスの未来は違っていたのかもしれない。今更になって悔しさが奥底から這い上がってくるようだ。


「セイラよ、そなたは聖女として誰よりもポリウスに尽くしてきたであろう。誰よりもポリウスという国を思い、行動してきた。そんなそなたからポリウスを奪うのは辛いものだ」


 小さくため息をつきながら、レインダムの国王は開いているのかわからないほどの細い目をセイラへ向ける。


「だが、そなたの父がしたことは見過ごすわけにはいかんのだ」

「はい、わかっています」

「そなたはもうレインダムの聖女だ。ポリウスがレインダムのものになれば、そなたもまたポリウスのために力を奮うことができる。今後のことについては、もろもろのことが落ち着いてから会議を開こう。その時は、そなたも、この国の聖女として会議に参加してもらう。よいな」

「はい……!」


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