22 休息
「セイラ、大丈夫か?」
教会を出発してから、ダリオスは馬車の中でセイラの隣に座り、セイラを自分の肩に寄りかからせていた。
「すみません、ポリウスにいた頃は、あの規模の瘴気は数日かけて少しずつ浄化していたのですが……急いでいたので一度に浄化せざるを得なくて」
力の消費が激しく、セイラは少し疲れてしまっていた。そんなセイラを、ダリオスは優しく支える。
「気にしなくていい。浄化が終わって王城で休むことができれば問題なかったのだろうか、あんな事になってしまったからな……すまない」
(ダリオス様たちのせいではないのに)
ダリオスに謝られて、セイラは逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「謝らないでください。ダリオス様たちは何も悪くありません。父が悪いんです。だから、そんな風に言わないでください」
顔をダリオスの方に少し向け悲しげにそういうセイラを見て、ダリオスの胸はギュッと締め付けられた。セイラの顔を見つめながら、教会で牧師が言っていたことを思い出す。
「……セイラはこの国の国民たちにとても愛されているんだな。牧師様の話を聞いていて、心の底からそう思ったよ」
セイラの髪の毛を優しく撫でながらダリオスが優しく言うと、セイラは嬉しそうに目を閉じて微笑む。
「本当に、ありがたいです。私はずっと影にいる人間で、誰も私のことなんか気にかけていないと思っていました。それでも、聖女として役に立てるならそれでよかった。でも、私の気持ちは皆さんに伝わっていたんですね」
(隣国に行った私のことを、気にかけてくださっていた。どこにいても私が幸せであるようにと願ってくれていた。本当に、私は幸せ者だわ)
「ああ。そんなセイラだからこそ、……俺としては、牧師様に気づかれる前に、俺を夫として紹介してほしかったな」
ダリオスの言葉にハッとしてダリオスを見ると、ダリオスはほんの少しだけ拗ねているように見える。
「あっ、えっと……迷ったのですが、どう言ったらいいのかわからなくて……それに照れくさくて自分からは言えませんでした。すみません」
セイラが慌ててそう言うと、ダリオスはフッと優しく微笑んだ。
「いいよ、そこまで本気で拗ねてるわけじゃない。そうだ、これを君に」
そう言って、ダリオスは胸ポケットから腕輪を取り出した。
(これは……クレア様が作った腕輪だわ。ダリオス様の腕がまだ治っていない時に、念のためにと私の聖女の力をこめた腕輪ね)
「腕が治った俺にはもう必要がない。でも、今回ポリウスに行くことになって、クレアがもしものために持っていく方がいいと言っていたんだ」
寄りかかっていた体をセイラが起こすと、ダリオスは腕輪を服の上からセイラの腕にはめた。パチン!と金具が止まるのと同時に、小さな光が腕輪から放たれる。
(体が、軽くなった?もしかして、腕輪にこめていた力のおかげ?)
「なんだか、力が少し戻った気がします」
セイラが驚いて腕輪を見つめると、ダリオスは小さく頷いた。
「よかった。クレアの言った通りだったな。セイラが力をこめた腕輪なら、セイラが身につけた時に力がセイラに戻るかもしれないと言っていたんだ。ここで活躍できてよかったよ」
ダリオスが嬉しそうにそう言うと、セイラの髪の毛を指で優しく梳いた。
「セイラ、次の場所まではまだ時間がかかる。力が少し戻ったとしても、まだ休んだ方が良いだろう。俺の膝を枕にして少し横になったらどうだ?」
(えっ?ダリオス様の、膝枕!?)
ダリオスの言葉を聞いてセイラが驚くと、ダリオスは少し悲しげに自分の膝を見つめる。
「あぁ……でも俺のこの膝じゃ、ゴツゴツしすぎて痛いだろうか?……そうだ、馬車に備え付けられているブランケットをこうして」
ブランケットを取り出すと、畳んで膝の上に置く。
「これで少しはよくなっただろう。さぁ、セイラ、遠慮なく膝に寝てくれ」
「えっ、そんな、えっ」
セイラは動揺するが、ダリオスは変わらず微笑んで両手を広げている。早く来いと言わんばかりだ。
(ここで拒否するのもそれはそれで失礼よね。それに、確かにまだ少し頭がくらくらするから、横にはなりたい気もするし……)
「それじゃあ、失礼します……」
おずおずとダリオスの膝へ頭を乗せると、思っていたよりも居心地は悪くない。セイラを見下ろしながら、ダリオスは優しくセイラの髪の毛を撫で始める。
(ダリオス様の手、とても気持ちが良い……)
セイラはいつの間にか瞳を閉じて、そのまますやすやと寝入ってしまった。
「おやすみ、愛しいセイラ」
そう言って、ダリオスはセイラが起きてしまわぬよう、静かに優しくセイラの額へキスを落とした。




