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20 教会

 謁見の間から出たセイラたちは、移動するために王城の外へ出て馬車の前にいた。


「セイラ、こんなことになってしまってすまない」


 ダリオスはセイラを気遣うようにそっとセイラの肩に手を添える。セイラがダリオスの顔を見上げると、とても悲しそうなのに、反面憤りを隠せないような複雑な表情をしていた。


(ダリオス様、あんな目にあったのに私のことを気遣ってくださっている。本当は父に対してもっと怒ってもいいことなのに)


「いいえ、むしろ悪いのは父の方です。あんなことをするなんて……。ダリオス様にもクレア様にも大変失礼なことです。本当に……申し訳ありませんでした」


 謝って済む話ではないことはわかっている。それでも、セイラは二人に頭を下げずにはいられなかった。自分のことをこんなにも大切に思ってくれる人たちを、その国を、侮辱するような行いを父親は平気でしたのだ。セイラは悔しくて悲しくて心臓が締め付けられる思いだった。


「セイラは何も悪くない。俺もクレアもああなってしまうかもしれないと思っていた。まさか本当になるとは思わなかったが……」

「そうですよ、セイラ様は何も悪くありません。気にする必要もありません。そのおかげでこうしてセイラ様は自由に行動できるんですから、むしろ良かったですよ。ああ、良かったというのは言い過ぎですし言葉が悪いですね。とにかく、セイラ様はポリウスにも王にも縛られることはもうありません。それは素直に喜んでいいことだと思いますよ」


(クレア様にそう言われると、そうかもしれないと思えてしまうから不思議だわ)


 にっこりと微笑むクレアを見て、セイラは眉を下げて微笑んで頷いた。


「ありがとうございます。お二人には本当に……どれだけ感謝してもしたりないくらいです」


 セイラの言葉に、ダリオスとクレアはセイラを見て優しく微笑む。


「とにかく、今は各地の浄化をすることが先決だ。セイラ、どこから行くべきだと思う?」

「そうですね、瘴気が強い地域を重点的に回りたいと思うのですが、まずはここから一番近いグレゴスという街に行こうと思います」


 さほど大きくはないが、それなりの人口がありガラス細工が有名な街だ。馬車で通った際に瘴気が強く、街の人たちの覇気も感じられないほどになっていた。


「わかった、ではそこから行こう」





 グレゴスに着いてセイラが馬車から降りると、体の周りに瘴気がまとわりつく。街全体が暗く、街中を歩く人は全く見られない。ガラス細工で有名だが、どこの店も閉められていて休業の看板がぶら下がっていた。


「酷い状況ですね……」


 渋い顔でクレアがそう言うと、ダリオスも周囲を見渡して眉を顰める。


(ここまで酷いと、もしかしたら街の人たちは病にふせっているかもしれない。早く浄化を行わないと……!)


「街の中心に、小さな教会があります。そこで浄化をします」


 セイラがそう言うと、ダリオスとクレアは目を合わせて力強く頷いた。瘴気の強い場所では人間も瘴気に当てられておかしくなっている場合があり、どこに危険が潜んでいるかわからない。ダリオスはセイラを守るようにして歩き、クレアも二人の少し後ろを警戒しながら歩いていた。


 教会に着いて中に入ると、明かりはひとつも着いておらず真っ暗だ。天候が悪く、窓から差し込む光も全くない。クレアが魔法で明かりをつけると、教会内が見渡せるようになった。


「誰もいないようですね」


 クレアの声が教会内に響き渡る。三人が辺りの様子を伺う音しかしないと思われたその時、カツーンと微かに違う音が聞こえる。


「誰だ?」


 ダリオスが音のする方へ疑問の声を投げると、クレアがその方向を光で照らした。


「ヴッ!」

「……!牧師様!」


 光を当てた先には、一人の男が光を遮るようにして腕で顔を隠している。その人物を見て、セイラは驚いて声を出した。


「牧師様、ご無事だったんですね!」


 セイラが駆け寄ると、牧師と呼ばれた男は手を下ろしてセイラの顔を見る。そして、セイラは牧師の顔を見て驚愕した。


(っ!牧師様……!)


 牧師の顔はやせ細り、目の下にクマができている。そして何よりも、目に光がない。生きているはずなのに、まるで死んでいるかのようだ。


「グアッ!」

「きゃあっ!」

「セイラ!」


 牧師が唸り声を上げると、牧師の体から瘴気が一気に噴出した。セイラが瘴気の勢いに体勢を崩すと、ダリオスが間一髪でセイラを受け止める。


(そんな……牧師様がこんな姿に……!しかも噴出した瘴気が身体中を取り巻いているわ!)



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