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19 ポリウスの国王

 セイラたちがポリウスへ出立する日になり、セイラとダリオスは馬車に、クレアは単身で馬に乗ってポリウスへ向かった。ポリウスへ入ると徐々に雰囲気が暗くなり、人々の様子もおかしい。あんなにも明るく活気のあったポリウスの街や村が、見るからに衰退しているのがわかる。


(こんなにも、ひどい状況だなんて……!)


 セイラは窓の外の様子をカーテンの隙間から覗き見ると、あまりの光景にショックを受け言葉を失っている。ダリオスも窓の外を眺めながら眉間に皺を寄せていた。そうして、ポリウスの各地の状況を確認しながら、数日かけてレインダムからポリウスの王城へセイラたちは辿り着いた。



「おお、よくぞ帰ってきてくれた、セイラよ!」


 王城に着くと、セイラたちはすぐに謁見の間に通されて、セイラの父である王に会うことになった。


「お久しぶりです」


(お父様、随分とお痩せになったみたい。状況が状況だもの、心労が溜まっているのね)


 心配そうに王を見つめてからセイラが静かにお辞儀をすると、隣にいたダリオス、そしてすぐ後ろに控えているクレアもお辞儀をする。王の横に立つルシアが忌々しそうな視線を三人へ向けていた。


「来る途中で国内を見てもらってわかると思うが、ルシアが聖女の力を使えないせいでこの有様だ。セイラよ、どうか我が国のために聖女の力を奮ってはくれぬか」


 王の言葉に、ルシアがカッとした顔で王を睨みつける。だが、王はルシアには見向きもせず、セイラをじっと見つめていた。


(お父様ったら、ルシアの前でそんな風に言わなくても……)


 セイラがポリウスにいた頃は、あんなにもルシアにばかり目をかけてセイラのことなどどうでもいいような態度をしていたのに、今ではこの有様だ。王とルシアを見つめながら、セイラは心の中で小さくため息をついた。


「もちろん、そのつもりで参りました。瘴気の強い場所を重点的に浄化を行いたいと思います。ルシアには伝えましたが、私はずっとポリウスにいるわけにはいきません。ルシアにはちゃんと聖女の力を取り戻し、私がいなくなった後もポリウスで聖女として力を奮ってもらいたいのです」

「ふむ、それはそうじゃが……まずは一刻も早くそなたにこの危機的状況をなんとかしてもらわねばならぬ。その話は後々ゆっくり話すとしよう。それからレインダムの黒騎士殿」


 王の声にダリオスは無表情で視線を王へ向ける。


「魔術師一人だけの共で、よくこのポリウスへ参られたな。こんな状況ではあるが、だからこそレインダムが誇る最強の黒騎士である貴殿をここで討ってしまえば、ポリウスはレインダムより優勢になる。その意味がわからぬほど貴殿も馬鹿ではありますまい」


 王が愉悦の顔でそう言うと、どこからともなく兵士がぞろぞろとダリオスたちを取り囲む。


「お父様!何をなさるのですか!」


 セイラは悲鳴に近い声を上げるが、ダリオスとクレアは表情を変えずただ兵士たちを見つめるだけだ。


「セイラよ、お前を簡単にレインダムへまた返そうなどと我々が思うわけがなかろう。セイラを安全な場所へ」


 王がそう言うと、一人の兵士がセイラへ近づきセイラの腕を強引に掴んだ。


(そんな!お父様、こんなことをするなんて!)


「やめてください!」


 セイラが悲痛な声を上げた瞬間、いつの間にかダリオスがセイラの腕を掴んでいる兵士の腕を掴み、捻り上げた。


(ダリオス様!)


「俺の大切な妻に触れるな」

「ひっ、ぎゃあああ」


 ダリオスの地を這うような響く声と恐ろしいほどの形相に、腕を捻られた兵士は恐怖で叫び声をあげる。兵士が痛みでセイラの腕を離した瞬間、ダリオスは兵士を壁へ向かって放り投げた。すると、兵士はいとも簡単に吹っ飛び、大きな音と共に壁にぶつかってめり込む。それを見た他の兵士たちは驚いて数歩後ずさった。王もルシアも、目の前の光景に唖然としている。


「こんなことになるだろうと予想はしていたが、まさか本当にこんなくだらないことを平気でするとは。セイラには申し訳ないが、この国の王は頭が弱いらしい。この程度の兵士たちに、俺とクレアがやられるとでも?」


 ダリオスがそう言うと、クレアが微笑む。だが、その目は全く笑っておらず、冷酷ささえかい間見える。


「セイラ様の前ですし、何よりダリオス様はお優しいので手加減しておいでです。手加減してこの状態です。わかりますか?……それから、私はダリオス様と違って優しくありません。手加減するという考えがそもそもありませんので」


 クレアがそう言うと、クレアの周囲に膨大な魔力が浮かび上がる。あまりの魔力量に、恐れ慄いて足がガクガクと震える兵士、腰から崩れ落ちる兵士もいる。


(す、すごい……!クレア様は元々は王家専属魔術師と聞いていたけれど、こんなにもすごい魔術師だったのね……!)


 ダリオスの腕の症状を一時的にでも抑える腕輪を作れるほどの魔術師だ、当然といえば当然なのかもしれない。セイラは目を大きく見開いてクレアを見つめていた。


「ポリウスの王よ、あなたはどうやら勘違いをしているらしい。あなたは自分たちが優勢だと思っているようだが、俺やクレアが本気を出せばあなたの首など簡単に飛ばせる。それをしないのは、レインダムの人間として誇りを持っているからだ。それに、セイラを悲しませたくない。ただそれだけだ」


 そう言ってから、ダリオスはセイラの肩をそっと優しく抱きしめた。


「こんなことが起こらなければ、セイラと共に明日の朝まで王城に留まるつもりだったが、ここにもう用はない。セイラ、行こう」


 ダリオスがそう言うと、セイラは唖然としながらも小さく頷いてダリオスに続く。


「ご心配なく、セイラ様はポリウス国内を浄化していきますので。ただ、先ほどの件については、レインダムへ帰り次第レインダムの王へ報告し、しかるべき措置を取らせていただきます。どうぞ覚悟しておいてください」


 クレアは王へ視線を向けにっこりと微笑むと、ダリオスたちの後へ続いて謁見の間から出ていった。



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